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紡ぎ紡がれこの店で  作者: かずや


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解放感に身を任せ

 鹿島家族が来店してまた数日、福羽や鹿島さんとはメッセージでやり取りはしているが会ってはいない。

 そんな中お盆も迫って墓参りの日が近くなる。

 自分は正直なところ、物凄い感情がある訳ではない。しかし、母が少し気にしているようで事あるごとに「大丈夫?」と聞いてくる。

 確かに真実の家族関係を十六年隠していたのだ、隠した側が気にするだろうが自分は物心付いた時から皆が家族なのだ。ちょっとやそっとでは揺るがない。


「……よし!終わったぁ!」

 毎日のスケジュールに能率性を高めた鹿島式スケジューリングの教えのおかげで、盆前に課題が片付いた。

 自分史上最高の夏休みだろう、最終日に追われる地獄を回避し心も体も軽くなる。

 もちろん自主学習はするのだが、今は区切った解放感に包まれたい。


「……ちょっと散歩しようかな」

 最近バイトで店に向かう以外歩いてなかったので身体を動かしたくなる。

 こんな気分になるのが自分としては驚きだ。

 今日はバイトも無いので時間も気にせず、行く当ても無く歩いてみよう。

 思い立ち、家を出た。

 夏の真ん中、暑さ対策は万全にまず近くの川に出てみた。普段立ち寄る場所でも無く、目的が無ければ来る事の無い場所だ。

 (近所にあるのにしばらく来てなかったよな)

 整備された川であり、田舎の自然の中の小川とは言えないが懐かしく感じられた。

 川の両サイドは氾濫防止の土手になっていて、地域住民が使うウォーキングロードが敷かれている。

 流石に真夏なので人は見当たらない。

「あ、思い出した」

 昔両親と姉でピクニックに来た場所だ、まだまだ小さな頃で幼稚園ぐらいか。

 蘇った記憶では姉に追いかけ回されながらも、全力で走り回れる広い草地が楽しかった思い出だ。

 懐かしさに浸りその場を後にする。

 少し歩けば小学校がある、自分の通っていた小学校だ。校舎が見えてくるが変わり無い。

 まだこの頃は友達と遊ぶ毎日しか覚えていない、勉強程々遊びを沢山していた。高学年になるにつれて、つむぎ亭の両親と先に手伝いをしていた姉を見始めたのだ。

 いつからか自発的に机を拭いたり店前を掃除したり、別に強制もお願いされた訳でもなくだ。

「いつからやり始めたんだったかな……」

 スタートが曖昧な記憶だが短い人生の大半は店に関わっている。

 小学校を横目に街を歩いていく、すると小さなパン屋に差し掛かり声が掛かる。

「あれ?優斗君どうしたの?」

「あ、おじさん」

 パン屋の主人だった、つむぎ亭のパンはここのパン屋を経由して仕入れている。手作りパンとメーカー品も扱っており店同士良い関係を続かせている。

「夏休みの課題終わったんで散歩でもと」

「おー偉いね〜、あぁ丁度良いちょっと待って」

 パン屋の主人は店に入り何かを袋に詰めて渡してきた。

「そろそろ廃棄になっちゃうパン詰め合わせ、持っていきな」

「え、良いんですか?ありがとうございます!」

「良いの良いの、つむぎ亭はお得意様だからね。暑いから気をつけてね」

 思わぬ頂き物だ、お辞儀をして歩き出す。

 小さなパンの詰め合わせで食べ歩きに丁度良い。

 頂いたパンを食べながら歩いていると今度は通っていた中学校が見えてきた。

「ここも変わらないなぁ」

 普通の公立校であり、私立校に行かない限りは地域の小学校から持ち上がりでこの中学校に集まる。

 今年の春まで通っていたので、懐かしさは薄いが。

 自分自身友達は少なくは無かったが、深くまで関わる事は無くごく普通の大人しい子だったと思う。

 現に小中学時代のクラスチャットはあるが、高校に入り動きは無く個人的にやり取りも無い。

 コミュニケーション下手かも知れないが、今のところ不便も無いので良いだろう。

 店近くだからか、たまに同級生家族が来たりはする。差し障り無い挨拶で終わるくらいだ。

 母はまだ小中学のママ友グループがあるようで、何人か親密にしている様子はある。

「……そう考えると母さんは店手伝いながら、気にかけてくれたな」

 自身は本当の子では無い、だが本当の子と何ら変わり無い接し方育て方をしているのが分かる。

「……感謝だよな」

 空に呟き更に歩いていく。

 次第に人の流れが多くなり駅が見えてくる。

 歩くにしては少し距離があるものの、この地域の交通の要である。

 福羽や鹿島さんとの待ち合わせ、姉お薦めのケーキ屋に両親へのプレゼントを選んだ欧風雑貨屋。

 この駅から高校まで通っている、高校まで三十分ぐらいだ。近くも遠くもない。

 高校を選ぶ時は時間が掛かった、何事も程々だったし部活や習い事をしていた訳でも無い。言わば無個性が悩ます原因だった。

 特別やりたい事があるでなく、やっていた事も無かったから高校選びの学力選択肢が自分レベルで無難か挑戦かの二択になる。幸い下振れする事は無かったので安定した普通の子、担任もそんな印象で迷わせてしまったかもしれない。

 悩みに悩み、両親からの将来への選択も加味して好きにしたら良いと後押しされ「挑戦」を選んだ。

 とは言え、頑張れば越えれるハードルだったので受験期は頑張ったと思う。

 問題は合格後だった、普段やってなかった事を急に詰め込んだ反動で高校一学期中間には指定位置の良くも悪くもない若干悪寄りポジションになっていた。

 鹿島宅で教わった無茶な突発予定より、小分けされた出来る量をスケジューリングする大切さが身に染みている。

 

 (でも一度その位置になったから仲良くなったかな)

 中間が終わった直後、うなだれていた福羽が興味深く話しかけてきたのだ。

「え?柊余裕そうな顔してたのにあんまりなのか?」

 最初は失礼な奴だなと思った。

 入学して早々に福羽はコミュニケーション能力を発揮してクラスの中心になっていた、対照的に必要以上に出る事無く静かに過ごしていた自分。

 福羽には寂しげに見えたのか面倒くさがりに見えたのか、どちらかわからないが気になっていたらしい。

 そして中間テストの結果表が見えて声が出てしまったと後から聞いた。

 人付き合いの仕方は対照的だが成績は似たり寄ったり、妙な共通点を知り合ってから話す事が増えた。

 話す中で自分の両親が店をやっていると話す事になったと言うか、話術と勢いに引き出されたのだ。

 そこからはグイグイくる福羽の行動力が、初めてつむぎ亭まで食べに来るきっかけとなったのだ。

 その時に姉もバイト中であった為、家族全員に紹介する事となる。

「まさか、そこから更に店で一緒にバイトするなんてな」

 つむぎ亭十周年イベントでは大きな活躍だっただろう、何故あそこまで自分の側に居てくれるのかはわからない。福羽なら誰とでも深く付き合えるだろうに、変な奴だ。

 少し悪態を突いてみて駅前を歩いていく。

 割と栄えてたと思うが、近年開発していた工事が一段絡して更に加速したようだ。

 聞いた話では二十年近く開発工事をしていたらしい。

 自分の生まれより前に開発が始まり、一気に開花。

 これからも店舗の増加が見込まれるだろう。姉はそこを気にしている、要は競合が増えればつむぎ亭の今後に繋がるのだ。

 住んでいる地域が賑わうのは良いが店を運営している人にとってメリットデメリットどちらになるのか?

 運営力が無ければ取って代わるのが厳しい現実だと父からも聞いていた。

 父はその厳しさを認識しているが行動はシンプルだ、()()()()()()()()()()()()に留めている。

 十周年イベントが特別すぎたのか、イベントで姉からの意見も取り入れて心境の変化があったのか。

 最近は姉とよく店の事話をしている。


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