また来てくれてありがとうございます
八月に入って数日、福羽からあそびの誘いがあったりするがバイトで合わずだったりと静かに過ぎていた。
今日もバイトが入っている、つむぎ亭は盆休みを取るのでその前にと常連さんが絶えなかった。
自分の中で家で課題、店行って洗い物の往復が続いていたので少しストレスはある。
「人間同じ繰り返しは効くなぁ……」
「なーにおじさんみたいな事言ってんのよ、さっさと準備しなさいな」
今日は姉が一日店に入っており、夜一緒だ。
「茜ちゃん〜料理一気にでるかも〜」
「え?蓮さんそれやめてって言ってるじゃん!」
店のオーナーは父だがフロアのリーダーは母、キッチンのリーダーは蓮となっており姉はフリーに動き回る役だ。家族経営ながら父は割と役割を当てて運営する事に厳しい人かもと、バイトになって感じている。
「優斗と茜は小さい頃から手伝いしてたから特殊なだけだ、一個人の最大限発揮できるポジションが続いて広げるのが普通だよ」
父はこの夏バイトを始めた優斗に言い続けている、だからまだキッチンには入れないと。
(さすがに慣れてきたしやってみたいが……)
キッチンの様子も伺いながらフロアにも目をやる、そんな余裕も出てきている最近だ。
「ナメてるわけじゃ無いが、まあ仕方ない集中しよ」
誰に聞かせるでなく呟いて洗い物を進める。
「…え!?優斗がお世話になりまして〜!」
フロアの方から自分の名が聞こえる、声のトーンで姉だと分かるが何かあったのか?
フロアの死角で見えない所だ、キッチンは洗い場から中が見える位置だが姉の高くなったトーンに父も蓮も視線を送っている。
程なくして姉が洗い場に来た。
「あんたのお友達がご家族で来たわよ!挨拶しといで!」
「友達?いや今洗い物……」
いきなり言われても、持ち場をほっぽれないんだが……と少し困った自分に「茜とチェンジしたら良いさ」と父が言った。
幸いフロア業務は出来るので、出るのは問題無い。
エプロンを変えフロアに出てみる。
「あ!柊君〜!」
少しのんびりした感じの声が自分を呼ぶ。
「……鹿島さん!?」
次に声が高く出たのは自分だ。
お母さんの詩織さんともう一人……
「家族でまた来たよ〜」
「うふふ、詩華にせがまれてね〜課題は順調かしら?」
「君がこの間、家に来た柊君か。前回イベントの時は挨拶出来なくてごめんね?詩華の父、真希と言います」
鹿島さん親子に続々と挨拶され慌てたが、遠くから「しっかりしなさい!」と母の圧を感じ深呼吸して挨拶をする。
「いらっしゃいませ、ありがとうございます!柊優斗です!こないだは詩華さんに教えて貰って助かってます!」
深いお辞儀をして顔を上げる、鹿島家族はニコニコしていた。
「いや〜詩華も詩織も僕もつむぎ亭のお料理が気に入って、また来たかったんだよ〜」
真希さんののんびりした感じ、詩華さんにそっくりである。この場合は詩華さんが似たと言う事か。
「前回はイベントに来てくれてありがとうございます」
「ふふふ、固くならなくて良いよ〜早速注文良いかな?詩華がお腹空いちゃって」
「もう!お父さん!言わなくて良いよ!」
仲良い父娘だ、そんな様子を詩織さんが微笑ましく見ている。
メニューについて色々尋ねられたので、自分の説明出来る範囲で説明していく。
そんな様子をジッと見つめてくる詩華さんに困る……
「——以上で宜しいですか?」
復唱を終えて一礼をし、テーブルを離れようとした時に母が手招きする。
「ちょっとここお願いね」
ポンと叩かれ母とのポジションが入れ替わる。
いつの間にか姉もフロアに出ているではないか、洗い物はどうしたのだろう?
ポジションが入れ替わったので、鹿島家族の会話が聞こえないが母と和気藹々としている。
姉はキッチンの父と蓮に何やら告げているようだ。
前回はつむぎ亭十周年イベントだったので、挨拶する余裕も無かった。今日はあの時に比べれば落ち着いた空気である。
だからこそ恥ずかしさもあるのだが……
(まさか、鹿島さんのお父さんにも会うとはなぁ)
鹿島家族全員に会ったと、福羽に言えば嫉妬されるかもしれない。
そんな事を考えていたら姉がこっちに向かってくる。
「優斗、父さんがキッチン側来いって」
「え?何で?」
「早く行く!」
無理矢理またポジションが入れ替わる、母もにこやかにその様子を見ている。
「父さん呼んだ?」
「優斗、コレ持っていきなさい。周りにわからないようにな」
キッチンカウンターに置かれたのは色鮮やかな野菜と生ハムが乗ったブルスケッタだ。
「コレは?」
「オーナーからのサービスだよ」
蓮がウインクをして持って行けと促す。
何だか全員に動かされている気がしてならない……
ブルスケッタを持ち、鹿島家族の談笑するテーブルへ着く。
「こちらをどうぞ」
「え?柊君コレは?」
「オーナーからのサービスブルスケッタです」
周りのテーブルに悟られないようトーンを落とし提供をする。
「まあ……ありがとうね柊君」
「え〜嬉しい!ありがとう、悪いね」
詩織さん、真希さんも喜んでくれている。
一礼をしてテーブルを離れて姉のポジションへ行くと……
「じゃあしばらくは大丈夫だから、あんた洗い場ね」
「えぇ、振り回されてる……」
言われるがまま洗い場に帰還する、道中「よくやった」みたいな顔を皆してるのがより恥ずかしい。
洗い場に戻ると、全く洗い物が無かった。
「姉ちゃん、なんだかんだ凄いんだよな」
姉は入れ替わった僅かな間で、洗い物をしっかり片していた。少し実力差を思い知り悔しい。
「慣れてきたしと思ったが……まだまだだな」
再び回収されてくる皿をまとめ、向き合っていった。




