将来は
セットしていたアラームで軽快な音楽が鳴り昼を知らせる。
「結構集中しちゃうもんだな」
朝食後から気付いたら昼である、自分がこんなに集中出来る人間だったとはと少し得意げになってしまう。
「優斗?ふんぞり返って何してるのよ?」
背後から母の不意打ちに椅子から転げてしまう。かっこ悪い。
「あれ?母さん店は?」
「忘れ物取りに帰っただけよ、そしたらあなたが何かコソコソ一人でしてたから…」
誤解される言い方は辞めて欲しい、少なくとも凄い勉強してたのだから。
「自分ももう出るよ」
「あら、優斗夜店よね?どっか行くの?」
昨日の姉に相談した女の子の家に行く為の手土産を買いに行く、なんて知れたら今日一日店の中で何を噂されるかわかったもんじゃない。
「ちょっとね」
「ふーん、なんか怪しいけど良いわ。あ!早く戻らなきゃ」
パタパタと母は出て行った、今思えば姉経由で母に知られるのは時間の問題だ。
「…とにかく行こ」
諦めて姉から教えてもらった店に向かった。
姉オススメのお店は駅前に出来てまだ日が浅いケーキ屋であった、自分自身地域の事は知ってたつもりだが新しいケーキ屋というのは知らなかった。
「姉ちゃんチェックしてるんだな」
姉のアンテナは意外と広いのかもしれない、少し感心しながら店に入る。
お昼時ではあるが小さな店内にケーキを求めて人が多い、人気店と言うだけはある。
自分が求めるのはクッキーの詰め合わせなのでショーケースから離れた壁側にラインナップされた焼き菓子なのだが…
(す、進めない…)
狭い店内に多い人、更に男は自分だけなので恥ずかしさもある。少しずつ進み寄りようやく焼き菓子コーナーへ辿り着いた。
「え〜と…一杯あるな」
ラインナップ数が多い、選べる楽しみはあるが時間は掛けれない。目に留まった色んな色のクッキー詰め合わせを手に取りレジへ向かう、また少しずつ少しずつ。
体感時間一時間は経った気がするが実際は十分程度で店を出ていた。
「疲れたぞ…でも良さげな物買えたし結果オーライ」
上機嫌で家に帰ろうと思った時だった。
「姉ちゃんに頼まれてた分忘れてた…」
電子マネーも送られているのだ、忘れて帰ったなんて言えばどんな事になるか想像もしたくない。
がっくり肩を落として再入店するハメになってしまった。
二回ケーキ屋に入店し買い物を終え帰宅した時には疲れていた。
「選ぶって大変だ」
ボソリと呟いてベッドにダイブする。
予想外に疲れてしまい課題に手を出せない、少しだけ休憩してからやろうと目を閉じた…
浅い眠りに夢を見る。
「優斗は大きくなったら何になりたい?」
「コックさん」
「お父さんみたいな?」
「うん!」
…短い間だが眠ってしまったようである。
本当に小さな幼稚園くらいの頃だろうか、よくある将来何になりたいと聞かれ一番身近に見ていた人を挙げる。
しかし今考えると不思議なもので四歳辺りだとまだつむぎ亭は出来ておらず、何を見てそんな事を言ったのか?
ぼんやり覚醒しきってない頭を起こして時計を見る、まだバイトまで時間がある。
今は店の洗い場担当だが後々料理をやるのだろうか。
そして自分に務まるのだろうか?
まだ将来像が見えないが夏休みが終わると徐々に進路の話が出てくるし、実際クラスメイト内でもチラホラ出て来ている。自分は進学か就職かの道もまだぼんやり定まらない、しかし時間は皆に平等だ。
成績を上げるのが進路選択の幅を増やすのは理解しているが、イマイチピンと来ない事に歯痒さも感じていた。
目的はぼんやりと理解してるが目標は未定で動き続ける難しさを感じながら再び机に向かってはみた。
明日の勉強会も課題を消化する目的ならば正直一人でも良いとさえ思ってしまう、友達とやれる特別性が今は重要だった。
悩みながら進める課題は進むはずなく、大した進捗無いままバイトに向かう時間が来てしまった。
不完全燃焼のまま店に向かっていった。
「将来何になりたいかだって?」
バイト出勤をして準備をしながら現在修行中と言う蓮さんに、それとなく聞いてみる。
「ん〜そりゃあ自分の店を持つ事になるな」
「蓮さんはいつからそう思ったんですか?」
「店の概念はここ一〜二年さ、そうだなぁ…もっと深くで言えば料理を通じて生きる選択したの優斗君くらいの時かな?」
「高校生で?」
「そうそう、バイトしてたレストランで賄い作るの楽しくてさ〜そのまま調理師学校に行ったんだよ」
蓮さんは大学でも就職でもない専門の道を選んだのか、でもやりたいと思った事の方向性と手段は一致している。
「優斗君も来年から本格的にどうするか突っつかれる時期だもんな、見えないかも知れないけど考えておくのは良い事だよ。俺が言うのもなんだけどって話だが」
「いやいや勉強になります」
蓮さんは楽しかったから道を進んで行った、そして今ここつむぎ亭で修行中。
自分は物心付いた時から店と歩んでいるものの、進路に関して影響があるようには思っていない。
姉は経営を学ぶきっかけは間違いなくつむぎ亭の影響だろう、何ならどうにかしてこの先も店に関わりを持てるような動きが見て取れる。
自分ももう少ししたら見えてくるんだろうか?イメージがまだ出来ない。
「ほら、優斗ボーッとしてないで始まるわよ」
どんっと置かれた洗い物と母の声にハッとする。
いずれ来る将来の選択、自分は何をするんだろうと頭から追い出しきれず悩みながら洗い物と向き合った。




