つむぎ亭お魚と二号店問題
初老の職人さんのような眼光鋭い人が両親を呼び捨て笑いながら来た。
「先生、ご無沙汰してます」
「お元気そうでなによりですわ〜久しぶりに堪能しました」
「ったく、お前達はしばらく顔見せねえで歳食っちまったよ!」
ガハハと豪快な笑いを見せた後に姉と自分を見る。
「二人共デカくなったなぁ!」
「ふふ、ここの大将暁 正徳さんだよ、父さん母さんの先生だった人で二人は小さい時に会ってるんだ」
「こんにちは!海鮮丼凄く美味しかったです!」
姉は率直な感想を述べ大将はニコニコ。
「あんな凄いのがあるって初めて知りました」
自分も感想を述べる。
しかし大将はジッと顔を見つめてくる、何だ?言い方を間違えたか?
「優斗君だったなおめぇさん、そうか…周助、ウチに来たって事は話したんだな?」
「はい、全て打ち明けました」
「そうか…沙樹の影はあるがおめぇらの影もある、大きくなったな」
沙樹?…本当の母さんの名前?知っているんだな。
「あれからもう十五.六年か、俺も歳食うわけだ」
「あら、先生は元気過ぎて変わらないですよ」
「朋子ものんびり変わらねぇな、ハハハ!」
少し遠くから声がする。
「親父ー!団体さんだー!」
「全く…流星はまだまだ甘えん坊だ、周助みたいに自立しろってんだ」
「ハハ、先生わざわざ来てくださってありがとうございます」
「……ふっ皆また来なよ」
大将は手を振りながらカッコよく厨房へと向かって行った。
店内が団体さんで騒がしくなってきたのもあり、お会計をして店を出る。こういう場合は無理に挨拶せずに引くのが飲食同士の空気読みだ、と父は教えてくれた。
「いやー!すっごかった!凄かった!」
店を出て姉が騒がしい、余程海鮮丼のクオリティに感銘を受けたのだろう。ずっと感想にならない感想を述べている。
帰り際に最初にショーケースを見ていた店を見て気付く、看板名が「暁」だ。
「ん?父さん、暁って…」
「お、気付いたかショーケースの海鮮丼よく見てごらん」
サンプルで置かれている海鮮丼を見ると…これはさっき食べた海鮮丼のネタ配置と同じなのか?
「ここは二号店だよ、さっきのが本店」
父は説明をする。
「立地が良くて客層もインバウンドが主になるから価格も変えてるんだ、物は同じでも二号店は家賃も高いし接客に英語が必要だったりと負担も多いからね」
「え?じゃあつむぎ亭も二号店出す時は同じじゃダメなの?」
姉が食いついた、サラッと二号店の案を出してる。
「ダメじゃ無いが環境に合わせて調整が必要になるだろうね、しばらくは二号店は無いかな」
あ、姉が膨れてる。両親はそんな顔を見て大笑いする。
「ほら茜、せっかくだし新鮮なお魚買っていきましょ」
「む〜、あれ?魚誰が捌くの?」
「お父さんよ」
「えっ!?」
強制的に決まった魚捌き、そういえばつむぎ亭で生魚を出す事も魚捌きも見た事はない。少し興味はある。
色とりどりの魚が並ぶケースを見ながら何にしようか話し合ってる母と姉に仕方ないなと参加する父を追いかけた。
「ねえ父さん、ウチの店で魚出さないの?」
「出さないよ」
姉の問いにサラッと即答した父。
「管理が大変なんだよ魚は…」
どうやら管理に掛かる手間の問題らしい。
「需要はあると思うんだけどなー」
「仮に魚を扱うとなれば専用のスペースにまな板に包丁に冷蔵庫冷凍庫に…茜は何年タダ働きしてくれるんだろうね?」
「う…あはは、保留でいいやー」
どうやら父の方が一枚上手だったようだ。




