兄弟弟子
「あ、父さん結構良いお値段するよここ?」
「まあ待ちなさい茜、この表通りはインバウンド向けが主流になっている…えっと、こっちだ」
インバウンド…たしか外国人観光客だったか観光客向けの仕様で単価が高くなってるんだな。
「うお、海鮮丼凄いインパクトのある盛り付けで…五千円!?」
店の一番安いメニューがそれである、高級ホテルかレストランかここは…
「おーい優斗ー置いてくわよ〜」
姉の声で我に返る。凄い世界なんだなと思いながら追いかけた。
父の先導で歩くのは良いがどんどん奥の方へ賑わう店の裏手の道へと入って行く。
「父さんどこ行くの?店無くなってきたよ?」
「あと少しだ…ほらあそこ」
父が指したのは表通りの綺麗にされた店構えとは真逆の、言ってしまえばボロい佇まいの店?である。
「え?やってるのあれ?」
「父さん大丈夫なのあそこ?」
「久しぶりねぇ〜」
自分と姉は引いてるが、母は知ってるようだ。
「茜と優斗も大きくなったし食べれるだろう、覚悟していけよ!」
父が何を言ってるのかわからない、覚悟とは?
ガガガガと不安にしかならない音を立てて引き戸を開け「四人行けます?」と聞いてる父の手慣れさが不思議で仕方ない。
姉も「ほぇ〜」と外見通りの内装具合に言葉が出てない。
「はーい…四め…周助!朋子さん!」
奥から来た案内役のスタッフが両親を見て名を呼ぶ、知り合いか?
「おいおいおいどうしたんだよ!久しぶりだなぁ!」
「あぁ、家族連れて来たんだ、いけるか?」
「ちょうど空いてるぞ、四名様座敷ご案内ー!!」
凄い元気な案内に中の方から負けじと「いらっしゃいませー!!」と返ってくる。
案内されている間に他の客席を横目で見ていくが、狭い作りながら満席に近い。
その時姉が耳打ちしてくる。
「優斗、ここ期待できるわよ、私の勘が言ってる」
「あらあら、職業病ね〜」
母はニコニコ聞いていたようだ、しかし姉には同意見だ。店の中の空気が外見とは全く違う、人気店の空気感だ。
「四名様こちらどうぞ!」
通された席は座敷席で二階に通された、このエリアは全て客席になっており年季はあるが広さもあった。
店の外見で判断は出来ないものなんだなと思う。
「周助、来るなら連絡しろよ〜」
「だってお前連絡見ないじゃないか」
「忙しいんだよ!いつも突然来やがって!」
ニコニコとやり取りするスタッフと仲が非常に良いみたいだが…
「コホン、朋子はわかるな?この子達は茜と優斗だ」
「え!?茜ちゃん?お姉さんになったな〜、優斗君なんか幼児の時以来だぞ」
この人は自分と会った事あるのか?
「とりあえずお茶用意するな、メニューは立て掛けてあるので!本日のオススメは勿論海鮮丼だ」
元気良くスタッフの方は行ってしまった。
「ねえねえ、父さんの友達?私も記憶に無いんだけど」
「自分も幼児の時って、ここ来た事あるの?」
「うふふ、実は皆で来たのよ、あなた達がまだまだ小さい時にね」
「さすがに茜は五歳くらいで優斗は一歳過ぎだもんな、覚えてないだろう」
そんな前に来ていたとは…
「さっきの奴は父さんの専門学校の同期なんだ、専攻は違ったけど一人暮らしの場所近くて仲良くなったんだ」
「そうだなぁ、馬鹿な事ばかりしてたな!」
さっきのスタッフがお茶を配ってくれて自己紹介する。
「改めてお久しぶりです暁 流星です!」
「流星さんはこのお店、暁の息子さんなのよ」
母が微笑み補足する、続けて教えてくれる。
「このお店の主人、暁さんはお父さんと流星さんを教えた先生でもあるのよ」
となると、兄弟弟子ってやつなのかな?本当にそんな関係があるもんなんだ。
「改めて言われると恥ずかしいけど、君達のお父さんと修行してたんだよ!」
ニカッと爽やかに笑う流星さん、父より若く見えてくる。




