ビーフシチュー
つむぎ亭特別レクチャー玉ねぎの部が終わり次の工程へと移る
父が言うには「今日は後見てるだけリラックスして見ときなさい」らしい
そう言いながら大きな寸胴鍋の底辺りをいじってる、ボワッと音がした
火を付けたのだろう、そこに先程泣きながら二人で切った玉ねぎ達が投入されていく
あれだけあった玉ねぎも全て入る大きな寸胴鍋
子供の頃から見ているので何をしているかは分かるが福羽は初めての体験にキラキラしている
「柊のお父さん!コレ何してるんですか!?」
「ふふ、今二人の切ってくれた玉ねぎを炒めて炒めて白から茶色くなるまで、山盛りなのに水分が抜けて全体がちっちゃくなるまでじっくり時間掛けて炒め出したんだよ」
「時間ってどのぐらいかかるんですか…?」
「この量なら…六時間くらいかな」
「ええ!?」
こんなやり取り自分もしたなぁと幼い頃を思い出す
あの時は何か凄いとしか思わなかったけど、ここに至るまでの作業を体験してからでは感じ方が違う
「優斗、第二鍋火付けてみるか?」
ふいに指名され驚く、これまで危ないからと近寄らせなかった場所である
「良いの?」
「やってみろ」
火の付け方を教わりガスコックを開け点火する
ボワッ!
予想外の勢いにのけぞってしまい福羽が笑いだす
第二の寸胴鍋に火を付け父は必要な食材を準備していく
様々あるが一番目を惹くのは「骨」である
おそらく普通の家庭で見る事はまず無いだろう巨大な骨が鍋に放り込まれる
そのまま福羽と二人で流れるように動いていく父を声も出せず見つめていく
「よし…と、じゃあ今日は良い時間だな最後に二人には自分の賄いを仕上げて貰おう」
「え?」
「え?」
二人して目を見開く、自分で仕上げる?何を?
動けないままの二人を微笑みながら手鍋とレードルを渡され
「まずそこの火付けた寸胴鍋の横に蓋した鍋あるだろう?そこからレードルで二杯分手鍋に取りなさい」
促されるまま二人は鍋前に立ち大きな蓋を開けてみる
そこにはブラウンの粘度がある液体と溶け残った食材の姿、開けた瞬間に香るビーフシチューの香り
「うわぁ〜凄い眺め」
「自分もちゃんと見たの初めてかも」
「それがウチの一番人気だ」
手鍋に移しコンロで火を入れる
熱が入れば更に艶めき粘度も薄くなりサラリとした感じである、これを耐熱の皿に移しオーブンで表面焼き全体をグツグツと熱を持たせれば……
「出来たな、良いじゃないか」
父が二人の仕上げたビーフシチューを覗き合格を出す
「ほら、パンは焼いといたしサラダはフロアの冷蔵庫入れてあるから、今日はこれで二人上がりだ」
「やっぱり美味そう過ぎるこのビーフシチュー」
「福羽ビーフシチュー好きだよな」
「つむぎ亭のビーフシチューが好きなんだろうな」
「嬉しい事言ってくれるじゃないか福羽君は、優斗は?」
「いや…そりゃ、好きだよ」
はっきりと言うのは恥ずかしい、サラッと言える福羽は凄いなと感心してしまう
「ほら冷めない内に客席で食べといで、お疲れ様」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございます」
二人でビーフシチューに舌鼓を打っていると父がやってきた
「もう気付いてるかもだけど今日の二人の玉ねぎはイベント用シチューに合わせて仕込んでるからね」
イベント用…つまり二日後に合わせている
店の十周年イベント準備が進んでいる…あれ?姉はしばらく動きが見えないが何してるんだろう?
「いやー俺この三日間で凄い学んだ気がする、勉強になるわぁ」
「優斗も福羽君も当日頑張ろうな」
それぞれの想いを胸に残りのバイト期間を考えていた




