暖かい何か
——実家の店でバイトしてるから完全に外に出れてない気持ちなのかも
福羽の言葉が刺さる、実際そうなのかも知れない。
社会に少し出たつもりが、家の延長線上に立っている。
環境的にはその通り、幼い頃から知る大人達に囲まれて自分はどう足掻いてもオーナー夫妻の子から外れられない。
「甘え過ぎてるのかな……」
心に渦巻いた感情に整理が付かないまま一日が過ぎて行く。
「柊、柊ー!」
ハッと呼ばれた声に向き直す。
「柊ダメじゃないかぼーっとしちゃって、次柊の番だぞ」
今現在の授業は歴史、担任でもある小狐先生から注意を受ける。
(考え過ぎてたな……)
大人をどうこう考える前に目の前の授業に向き合わないといけない。
クラスの皆が少し笑っているのは恥ずかしいが、仕方ない。
なんとか乗り切って授業が終わる。
「柊君どうしたの?大丈夫?」
「あぁ鹿島さん、大丈夫少し考え事してただけ」
鹿島さんが声を掛けてくる、変な心配掛けたことを反省せねば。
「珍しいね、あそこまで先生近く行っても気付かないなんて」
「いやぁ、妄想に耽っていたんだなアハハ」
適当に誤魔化しておく、鹿島さんは心配し始めたらとことん付き合ってくれるだろう。
あまり心配をかけるような事じゃない。
「そう……なら良いんだけど、そういえば柊君は明後日だっけ!」
明後日、三者面談のスケジュールだろう。
「うん、鹿島さんは?」
「私は明日なんだ〜緊張するよ〜」
普段通りにしか見えないのだが、本人なりに緊張のゲージみたいなのはあるんだろう。
「鹿島さんは成績トップ層だし心配要らないんじゃ……?」
前回中間は学年二位、何を心配する要素があるのかと思えてしまう。
「いやいや、だって進路の方向の話なんだもん。毎日が悩ましいよ」
(鹿島さんの進路……音楽関係じゃないのか?)
「え?今やってるピアノやバンド関係じゃないの?」
「選択肢に無い訳じゃ無いけど……そうなると音大とかの特殊な学校に固定されちゃうからね、まだそんなにガッチリ決めたくないんだよ〜」
「へぇ……意外と言うか、鹿島さんはそっち方面に行きたいとばかり思ってたな」
ほわほわしながらきっちり大事なポイントは押さえて、毎日忙しく過ごすイメージはあったがそれは夢の為とかでは無いのだろうか?
「私は今の高校生で好きな事やれてるのが良いんだよね〜アントガールズもピアノも遊びも勉強も楽しいからね」
鹿島さんでもそんな風に思っていたのかと衝撃を受ける、学力もバイタリティも及ばない自分と変わらない先の事を考えながらも、どこか考えないようにしている。
「意外だったよ」
「ん?何が?」
「鹿島さんも先の事がモヤモヤしてるんだなって」
「柊君、先の事考えてボーッとしてたんだ?」
「うんまあ……」
「逆にびっくりだけどね〜」
鹿島さんから言われる「逆にびっくり」とはなんだ?と首を傾げる。
こちらが驚きはあれ、驚かれる事は無いと思うんだが。
「柊君はつむぎ亭があるから決まってるもんだと思ったもん」
「つむぎ亭があるから……?」
「うん、小さい頃から見ていてて継ぐ夢を持ってるのかなって」
つむぎ亭を継ぐ、それは姉が動いてるようなものだから自分の中では考えていなかった。
確かに小さな頃から見てるキラキラした想いが強い場所ではあるが、そこが自分の夢の中心には考えてない。
「そっか……周りから見たらそう見えるんだ」
「福羽君もそうじゃないのかな?だって店に居る時楽しそうだもん!」
楽しそうと言われ照れてしまうが、そんな顔してるのかな?と自分で不思議に思ってしまう。
「そっか……ありがとう」
「うふふ、あ!そうそう昨日茜さんがライブ来てくれてね——」
そこからは姉のライブノリがどの観客よりも激しく、自分にとっては顔から火が出る程恥ずかしい話が続いた……
学校が終わり帰りつつ、もう一度先を考えてみる。
つむぎ亭の子として社会には出れてない殻の中に居る感覚、対してその殻が周囲にとっては羨ましい環境だと客観的に見られたら恵まれた状態。
人の感じ方は違うが自分には自分にしか無い環境で生きて来れた、そもそも本当の両親も居ないスタートだと考えてみれば本当に幸せな状態だろう。
優しい家族がいてキラキラした店があって、中で働く大人達に子供の時から可愛がられ……
(少し自分を見失ってたかな)
自分の中に確かにある暖かい何かを再認識して帰宅して行った。




