社会人には社会人の苦労
先輩蓮さんの住む、よくある一人暮らし用アパートに着き美香さんは慣れたように暗証番号を打ち込む。
(……え?美香さん普通に入るくらいの仲なの?)
当たり前にオートロックを外したのが不思議に思えてしまうが、仲の良い蓮さんと美香さんならそれもおかしくは無いのか?と頭を捻る。
蓮さんの住む部屋前に行き。
「おーい、蓮生きてる〜?スポドリとかドアに掛けとくからね〜」
インフルエンザで寝込むはずの蓮さんに美香さんはドア越しに大声で伝え出した。
「ちょっ美香さん、ご近所迷惑……」
「あ、ああそうねついつい……メッセージ送っとこう」
美香さんはスマホを出しメッセージを打ち込み出した、その時だった。
「……ありがとう、ん……優斗くんもいる」
ドア越しに弱々しい声が聞こえてきた。
どうやら起きたらしい、わざわざ感謝を伝えに玄関前に来なくとも良いのに。
「あ、蓮ー?オーナーがしっかり回復してから帰って来いだって、それまで私が見てやるからね何か奢ってよ」
自分も一声掛けておく。
「蓮さん、お大事に……」
「……ごめんね、ありがとう……」
明らかにへばった声色がうっすら聞こえてくる。
「よし、移される前に帰るよー」
美香さんに引き摺られ、蓮の家を後にする。
「全く、アイツは寝とけば良いのに無理して起きちゃって」
「美香さんが声出すからじゃないですか……」
しかし、一人暮らしのインフルエンザとは寂しいのだろう。
わざわざ感謝を伝えに、対面は出来ず扉越しにだったが蓮さんは来ていたのだ。
「優斗君も病気には気を付けなさいよ?一人暮らしなんかしてる時には本当ヤバいからね」
美香さんは真剣な顔で脅かしてくる、美香さんも一人暮らしだから怖さを知っているのだろう。
「自分は熱出したりしたら家族の誰かが居てくれましたけど、社会人になっていくとそうなるんですね……」
考えたらやはりゾッとする。
「アハハ!そうならないように体調管理もするようになっていくんだけどね!まあ今回蓮はインフルエンザだし運が悪かったね」
注意しててもなる時はなってしまう、大人しくするしか無いんだよと美香さんは言う。
(学校休むのとはちょっと違うもんな、仕事や仕事仲間に影響出るし……社会人って大変だ)
自分でそう思い、美香と夜の帰り道を歩いて行った。
帰宅をして、手洗いうがいを済ませてリビングに行くと姉が帰って来ていた。
父と母はまだ店閉めの最中だろうか。
「あ、お帰り〜優斗遅かったじゃない」
「ただいま、蓮さんがインフルエンザでちょっとお見舞い渡しに行ってたんだ」
「え!?蓮さんインフルエンザ!?声掛けてくれたら良かったのに!」
「いやいや、姉ちゃん今日ライブ行くって言ってたから父さん達気を遣ったんじゃない?」
姉はライブハウスに行く予定をずっと言ってたから、おそらくそうだろう。
「うーんインフルエンザなら一週間は掛かるだろうし、美香さんだけじゃキツいわね!私も出るか!」
姉は普段フロア接客だがキッチンも全然出来る。
店の助けになるだろう。
「ところでライブはどうだった?福羽や鹿島さんには会ったの?」
気になっていたライブハウス女子限定イベントの様子を聞いてみる。
「も〜良かったわよ〜光司君はドリンクに追われて、詩華ちゃん達はステージで輝いてて若いって良いわね〜」
姉もまだ二十歳なので若いのだが、二十歳から見る十六歳はまた違って見えるようだ。
「頑張る姿、楽しむ姿が青春を輝かせてるわ」
なんだかよく分からない感想を述べているが、姉が楽しんだなら何よりである。
「アンタも何か打ち込めるモノを見つけなさいよ」
「……それが見つかれば苦労しないよ」
痛いとこを突かれた時に玄関が開く音がした。
父と母が店を閉めて帰ったようだ。
しばらくしてリビングに来た父は聞いてきた。
「おお、優斗帰ってたか。蓮は大丈夫だったか?」
「うん、直接会ってないけど扉越しにお礼言われたよ」
「うむ、後は治るまで待つしか無いな」
父はそう言って腕を組む。
「お父さん、私蓮さんの替わりに出るわよ」
「む、茜は大学大丈夫なのか?」
「へーきへーき、調整はするから」
姉は胸を叩き、任せろと言わんばかりだ。
「とにかく、茜も優斗も気をつけるのよ?特に優斗は明日から三者面談期間なんだから」
そういえば今日のバタバタで忘れていたが三日後は三者面談の日だ。
「とりあえず明日からまた学校だから早めに寝なさいね」
母とやりとりを済ませて自室に入る。
(社会人になる前に学校生活に打ち込める事と探さなきゃならんもんばかりだなぁ……)
頭を抱え眠りに付いた。




