それぞれが
すっかりいつもの通りにいつもの日々が過ぎて、ちょっとしたイベントが来る日曜日。
自分にじゃなく姉と友達にだが。
姉の茜は友達の福羽がバイトするライブハウス「スパイスボックス」へライブを観に行く。
今日のライブは女子限定、そしてステージには同じく友達の鹿島さん所属のアントガールズが演奏予定。
「なんか変な事になってるなぁ、自分だけ店番って言われてるようでちょっと寂しい」
思わず漏れる心の声だが、福羽はライブハウススタッフだし参加者も観客も女子限定なのでどうしようもない。
少し釈然としないがどうにもならないものは、どうにもならない。
「優斗!アンタの分まで私が楽しんできてあげるからね〜」
そんな事を言って上機嫌に家を出て行った姉を見送り、自分も店に向かおうと準備する。
「おはようございます」
「おはよう優斗君!」
「あれ?美香さん?」
いつもはキッチン主任の蓮さんが居るはずなのだが、今日は別の先輩の美香さんになっている。
「それがさ〜蓮のやつインフルエンザになったんだよ〜私は代打よ」
「ええ!?大丈夫なんですか!?」
「まあ一人暮らしだから心配よねぇ、終わったら救援物資だけ放り込みに行ってやるわ」
一人暮らしの病気とは相当大変と何かで聞いた事がある、自分は家で身の回りの事をしてくれる家族が居るから感じにくいが心配だ。
「あの、自分も行って良いですか?」
「え?でも移っちゃうから物を玄関に吊るすだけよ?」
「それでも行きます」
会えないにしろキッチンで一番教えてくれてる先輩だ、何もしない訳にはいかない気持ちだった。
「美香、優斗連れて行ってやってくれ」
「オーナー……じゃあ終わったらドラスト寄って行こうか!」
「父さんありがとう!」
「ただし絶対会うなよ?……まあ昨日から怪しかったから店ヤバいかもしれないが」
父は念入りに手洗いうがいを推奨する。
(つむぎ亭内にインフルエンザ蔓延したらどうするんだろ)
起きて欲しくない事を考えてしまったが、とりあえず今日の営業だ。
美香とはタッグで組むのは初めてなので緊張もする。
「オーナーと蓮から聞いてはいるけど、優斗君分からなければすぐ聞いてね」
「はい!よろしくお願いします」
「ふふ、いつも蓮に取られてるから新鮮ね〜」
ちょっと嬉しい素振りで美香は準備をしていく。
(美香さんは少しやり方が違うのか……)
いつもは蓮さんしか見ていないので美香さんを見て違和感を感じる。
「ん?どうした?」
「あ、美香さんはそうやっていくんだなって」
「ああ、人によって違うもんね〜でもゴールは一緒、きっちり美味しいもの作り上げる事よ……あら、先輩らしい」
おどけながら美香は進めていく。
(ゴールは一緒か……)
妙にその言葉が響きながら自分も準備をしていった。
そしてすぐに夜営業が始まる。
割と忙しい日だったが父と美香さんの連携も凄いと感じる、蓮さんが勢いある男らしい姿勢に対し美香さんはしなやかな女性らしい流れを作っていく。
最初はテンポが合わなかったが徐々に慣れてきて後半はぴったり合ってきた。
「やるようになったじゃない優斗君!」
途中褒められて嬉しくなったりと自分でも単純だなと思う。
店も営業終盤になって父が言う。
「美香、優斗後は私がやっておくから蓮の見舞いに行ってやれ」
「はーい、それじゃあ適当な所で区切って行こっか」
「はい、じゃあ父さん行ってくるよ」
父に告げてある程度片付けたら着替えて美香さんを待つ。
「よし!行こうまずドラストに」
スポーティな格好をした美香さんに引かれて歩き出す。
「でも、美香さんが蓮さんの家知ってるのは意外でした」
ふと今日疑問に思っていた事を呟く。
「そう?なんだかんだあいつと一緒に働いて何年だっけ?なんか長いからね〜」
カラカラと笑いながら美香さんは言う。
「やっぱり友達?戦友?みたいなもんなのよ」
「せ、戦友?」
「そう、学校とは違ってお金を稼ぐ目的もあって同じ場所で仕事をしている、友達とはまた違ったカテゴリになってくるものよ」
そういうものなのかと聞き入る。
「優斗君はまだ学生で友達も素敵なんだけど、社会人になって目的を一つにする場所で毎日を過ごすと見え方が変わってくるよ」
「目的を一つにする場所ですか……」
確かに学校は最終的に皆それぞれの目的や目標に向かって離れていく、友達ではあるが進路はバラバラになっていく。
先輩の美香さんの言葉がフッと自分の中に降りてきた、そんな気がした。




