秘密のドーナツ
「鹿島さん?」
目の前にいつものふわふわした感じの鹿島さんが立つ。
「あれ、どうしたの〜こんなとこで〜」
こんなとこと言うが、駅前だからおかしくは無い……と思ったが、周りを見ると割とピンクをベースにした店が多く可愛い小物雑貨とかの「可愛い系」が集まるゾーンで自分が立ち尽くしていた。
それはこんなとこと言われておかしく無い。
「いや、まあ偶然だよ……」
「会えたのも偶然だね!昨日の今日は凄いけど」
そもそもつむぎ亭に昨日来てるしで、縁があるのかと思ってしまう。
「昨日はお父さん帰り上機嫌だったよ〜」
「うちも父さん嬉しそうだったよ、まさか二十年も会ってなかった友達が子供同士からだったとはだけどね」
「本当にそうだよね〜私達生まれる前からお父さん達は知り合いだったなんてね〜」
連絡は必要があれば取るなんて言っていたが、近況を子供伝いに聞いて満足しそうだ。
そうなればまた何十年も連絡取らないなんてあり得そうだが……
そんな事を考えてたら鹿島さんが声を上げる。
「あ!ねえ柊君見て!」
何だ?と指差した方を見てギョッとする。
カップル限定ドーナツ。
朝に散々姉とやりとりしたアレだ。
鹿島さんも興味を抱いたのかショーケースを覗き見て「良いなぁ」と呟く。
そんなに欲しくなる物なのかカップル限定でしか買えないドーナツって、イマイチ女子の感覚は分からない。
ふーんとぼんやり考えていたら鹿島さんに手を引かれた。
少し店から離され小声で話される。
「ね、今だけカップルにならない?」
「ほぁ?」
変な声が出て来た、鹿島さんは何を言い出したのか?
今だけカップルと言うなんかお得感ありそうな語感だが、言ってる意味は結構思い切ってる。
「や、え?何言ってんの?」
「え〜だめ?」
可愛らしくあざとい仕草を見せられ、不覚ながら揺らぐ自分。
(いやいや、姉には拒否して散々ルール違反だと言った手前……)
「あ!もう無くなっちゃう!もう行くよ柊君!」
鹿島さんは返事を待たずに強引な行動に出た!
店前に連れてかれ「カップルでーす」とはっきり宣言してしまった、思い切りが良すぎる!
「ありがとうございます!他のドーナツも値引きになります、いかがですか?」
店員さんはにこやかに他も勧めてくるし、「やった、じゃあこれとこれ……柊君はどれが良い?」なんて鹿島さんは聞いてくる。
「ありがとうございましたー!」
嵐が過ぎたような一瞬の事だった、鹿島さんはニコニコしてる。
「いや……その、鹿島さん思い切ったね……?」
「うふふ、だってもう悩む暇無かったもん!だってあのままだったら柊君ダメって言うでしょう?」
確かに方向性はダメの方向だったが、気持ち的には困惑して決めれなかった方が正しい。
「ありがとうね柊君!おかげで得しちゃった!はい!」
差し出されたのは、あのカップル限定ドーナツだ。
二個でワンセットのチョコと苺のセット売り、チョコを渡されてしまう。
「お礼に片方上げる、あ!もう行かなきゃ!それじゃあ休み明けにまた学校でね!」
「……あ、ああ気をつけてね」
鹿島さんは手を振りながら街に溶け込んでいった。
自分はチョコドーナツを持ち立ち尽くした。
なんだか凄い体験をした気がする、女の子はあんなんなのか?鹿島さんがああなのか?姉もやろうとした。
根本的なパワーが違うとひしひし感じていた。
ボーっとしたままチョコドーナツを持ったまま歩き帰る、ただ散歩に来ただけだったが思いがけ無い出来事が発生し脳の処理が追いついて無い。
手に持つドーナツを食べ無いまま家まで持って帰って来てしまった。
ドアを開ける時に初めて意識する、食べなきゃと。
しかし、時すでに遅し。
ガチャ
姉が家から出て来て鉢合わせになる。
「うわっ!優斗アンタなにつっ立ってんのよ……何それ?」
しっかりドーナツをロックオンされた。
「何でアンタ一人だけドーナツ買ってるのよ!朝あれだけ欲しいって私が言ってたでしょ!!」
姉はお怒りモードだが、そもそも姉の我儘から始まった騒動なので怒られる通りは無さすぎる。
更に不運は続く。
「ん!?んん!?それカップルドーナツじゃないの!?」
しっかり気付いた姉!
これ以上はまずいとスッとドーナツを口にしながら部屋に逃げ込む!
「優斗待ちなさい!」
結局捕まってしまったのだが「アレはただのチョコドーナツだ、食べたいから買っただけだ」と貫き通して、鹿島さんとの出来事は守り通した。




