友人のステップアップ
九月も半ばとなるがまだまだ半袖で良い照りつける太陽。
残暑が厳しい中で一段と暑苦しい男、福羽がバイト初出勤の日を迎えて朝からうるさくしていた。
「ついにバイトデビューだぜ、柊よ」
「ウチでやったじゃないか」
「あれは特別期間限定臨時のお手伝いだろうが、ライブハウスのバイトなんて何するんだろう」
「チケット確認じゃないの?」
「それもあるけどイメージが分からないから楽しみじゃないか!」
とにかくテンションが高いが、朝からこの感じで行くのだろうか?
「うふふ、気合い入ってるね」
「ああ、鹿島さん」
「福羽君なら大丈夫だよ、一つだけ心配はあるけどね〜」
他のクラスメイトにも絡みに行った福羽を見て、鹿島さんは心配を口にする。
「ステージライブ中にお客さんと一緒にテンション上がって仕事放棄しないかだよね〜」
「ん〜あり得そうなんだよなぁ」
「ライブハウス側スタッフには冷静さが必要だったりもするからね、まあ沢山スタッフ居るし大丈夫とは思う」
「そう言えばアントガールズの女子限ライブ?福羽はスタッフになるの?」
「……あ、そう言えばそうなるね!柊君、クラスの皆には内緒にしてて、最低限の人にしかバンド活動と活動地は明かしてないの」
鹿島さんはしーっと指を立てる、確かに以前から自身のバンド活動については声のトーンを落としたり、なるべく自分と福羽しか居ない時にしか話をしていなかった。
「何か理由あるの?」
「大した理由じゃないよ、でも知られすぎちゃうと文化祭とかのイベントや何かしらの余興代わりに、何か弾いてって言われちゃうからね……なるべく避けてるんだ」
鹿島さんはそう言って福羽にも注意しとくべく向かっていった。
「……避けてる、それだけか?」
自分には音楽分からない事だが、避けたくなるのはまあ分かる。
期待値が広すぎるのだ、ピアノやキーボードが出来るにもレベルがあるだろうし即興で◯◯弾いて!と言われ弾くような感じでも無い。
「じゃあボーカルお願い」と返されて本当にやる人は少ないだろう、恥ずかしいから出れない感情が普通だ。
だが楽器を弾くのをリクエストだけはする、よくよく考えたらフェアじゃ無いと思う。
演奏させて、聞くだけで済ます関係は一方的だ。
鹿島さんの考えは分からなかったが、とりあえず胸に秘めとく事にした。
——帰宅後
「あ、そうだ鹿島さんで思い出した言っとかなきゃ」
定休日で父も母も居る内にとリビングへ行く。
「どうした優斗?」
「父さん、次の金曜日に鹿島さん家族が食べにくるって……」
父はピクッと反応して確認してきた。
「……鹿島さんのお父さんも一緒か?」
「え?多分そうだと思う、帰ってくるって言ってたから」
「そうか、ふむ」
「どうしたのお父さん?」
「さあ?」
父は何かを考えているが自分と母にはピンと来ない。
「優斗金曜日は店だな?」
「え?そうだけど……」
「朋子、優斗鹿島さん家族が来店したらすぐ伝えてくれ」
母と顔を見合わせる。
(なんだ?挨拶するのかな?)
少し父の様子が変だった。
自室に戻り時間は夜九時を回る、最近は少しずつ勉強を重ねていて自信が付いてきた……ような気がしている。
スマホが鳴る。
今日のこの時間に掛かってくるのは福羽くらいだろう。
「終わったのか?」
「いやー!結構覚える事一杯で頭パンクしたぞー!」
開口一番テンションが高い、本当に朝から晩までそのテンションだったのだろう。
「とりあえずお疲れ様、ライブハウスは何やるんだ?」
「今日はドリンクの補助だったけど、ソフトドリンクにアルコールも出る日だったから種類がよくわかんなくてよ!」
「アルコールも出る日?」
「ほら、俺達が行ったライブの日は二十歳未満限定だったらしい演者も観客も日によって変わるんだって」
意外なシステムだったが、未成年にアルコール提供しないように配慮されているのかと納得。
「他にも色々ポジションがあるみたいだが今日はドリンクカウンターだけだったな!ライブはちらっと見えたぞ!」
「はは、良かったじゃん」
「店長のトオルさんもスタッフも凄い優しいし頑張るぞー!」
「……勉強もな、次期末自分が抜いちまうぞ」
「そっちも頑張るさ、じゃないとクビだからな」
二人笑い合って通話を終えた。
福羽は新しいステージに上がった、自分も頑張らないとなと気合いを入れる。
秋の夜は少しずつ過ごしやすくなってきていた。




