見えるようで見えない進路
「優斗、スパイスボックス二個だ」
「はい」
昨日のお疲れ様会で仕上げた新メニュースパイスボックスの担当が自分になった。
とは言ってもソースとチーズを掛けて焼き上げしかしないのだが、初めてキッチン内料理の役割を貰えて嬉しいのは嬉しい。
横に付く蓮さんを見ながら出来るのも有り難い。
メインは父が担当するがその他の下準備は蓮さんが流れるように用意していく、オーダーを受け料理名を確認したら自動的に動くような流れで無駄が無い。
もっと口頭であれこれあるかと思っていたが、アイコンタクトと言うのか言葉は要らないような関係がかっこよく見えた。
「フロアは逆に細かく情報投げ合いだもんな」
母を筆頭にフロアは情報が飛び交い細かなサービスを実現している、同じ店の中で変わる空気感を改めて知る毎日だ。
ピピピ
オーブンタイマーが鳴る、火傷に注意して滑り止め紙を敷いた皿に乗せてフロアに出す。
スパイスボックスは中々人気で毎日完売なのが嬉しい。
今は個数限定だがレギュラーになるのだろうか?
「父さん、スパイスボックスは期間限定なの?」
「ん?今の所はな」
「そっか……」
「材料仕入れ価格や取り扱い季節とかがあるんだよ、なかなかレギュラーメニューを作るには安定した仕入れが無いと作れんからな」
単純に人気だからではレギュラーになれないのかと思える。
「優斗君、レギュラーにしたいの?」
「え、まあ名前も付けたし人気だからね」
「確かにね〜冬に向かって行けば更に売れるだろうね、ドリアだし」
もう九月も半ば、秋のメニューとして開発されたドリア「スパイスボックス」は十一月最後までらしい。
父はもう冬の期間限定メニューを考えているようだが……
「オーナーは半年先まで考えてるから春メニューも考えだしてるんじゃないかな?」
蓮さんがサラッと告げる。
そうであれば夏には冬のメニューを考えていた事になるが、暑い中で浮かぶのだろうか?
少し父が凄いと思った。
——バイトが終わり、母が呼び出す
「優斗、学校からメール来てたけど懇談の用紙貰ってんじゃないの?」
「……あ」
そう言えば配られていた気がする。
「全く……記入するから出しといてよ」
「わかったよ」
三者懇談、中間成績は過去最高で学年五十位ならば怒られる事はないはず。
ネックになるのはチラつく進路の方向性だ。
これが自分の中で定まらない。
進学するにしてもどんな方面に行きたいかは無いし、就職としてもなりたい職種も無い。
今は自分の未来が見えてこないのが現状だ。
難しく考えすぎなのかと思うが、簡単に考えれるものでも無い。
頭を抱える。
そこに蓮さんが現れた。
「どうしたの悩んで?」
「あ、蓮さんいや進路の話が来るなって」
「あ〜高校生だもんね〜嫌でも付きまとう問題だ」
「蓮さんは面白くて決めたんでしょ?」
「そうだね、料理が面白くてこの道に来たよ」
「嫌な事とか無かったの?」
「いっぱいあるさ、飲食だから友達と休みは合わないとか出会いが無いとか……でもそこを言い出したら結局やりたい事から離れちゃうんだよね」
「離れる?」
「うん、例えば土日祝休みを取ったらやりたい料理の道が狭まってきたり、勿論そんな店もあるにはあるだろうけどやりたい料理でってなるとねぇ」
やりたい事と条件がぴったり合う方が希少だと蓮さんは笑う。
言わんとするのは分かる、どっちを取るかだ。
やりたい事か条件か、ただどちらも何かの折り合いを付けなければ決められずに終わってしまう。
社会に出るのは選択する事なのだ。
「まあ、勉強はしときなよ?俺は苦労したよ〜」
蓮さんから頭を叩かれ発破をかけられる。
「……うーん、進路かぁ〜」
家に帰り学校の荷物を漁る。
「あったあった」
母から言われた三者面談希望票だ。
おそらく店の平日定休日に合わせるだろう、リビングにそっと置いておく。
これまで意識はして無かったが、店の休みはどう決めてるんだろう。
水曜日は休みで後はどこかに一回二回あったりなかったりだが、基準を聞いた事がない。
「店の事も知らない事ばかりなんだよな」
改めて知らないままで生きている事を知る。
高校になって確実に変わってきているのは感じる、今まで通りにいかないもどかしさと、今まで通りで居たいなと言う気持ちがせめぎ合っていた。




