テスト前日
テスト一週間前の勉強期間はあっという間に過ぎる。
姉から言われた「器を鍛えろ」の意味も少し分かってきていた。
知識を積めるだけ積んでも受け皿が小さく弱ければ、積み切れず溢すどころか折角積んだ物も巻き添えに落としてしまう。
仮にグラグラでも積み上げてゴール出来ようが、「今回は運が良かったね」で終わってしまう。
では器を鍛えるとは?
それが夢を持ち目標を刻む事だと至る。
「そこまでは分かるが、夢ってなんだと言う事だよな」
自分で自分を見つめて夢ってなんだろと宙に浮く感覚に襲われる。
「優斗〜紅茶淹れたから飲む〜……ってアンタ何してんの?」
夢を考えていたら無意識に変なポーズになってしまい、母にバッチリ目撃された。
「アンタ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ、ちょっと行き詰まりなだけ」
「……ふふ」
「何?」
母は何かが可笑しい様で笑いだす。
「いえね、優斗がそんなになってまで挑戦するのって珍しいなって」
「……そうかな?」
「そうよ、貴方は昔からそう。何かに遠慮して我儘は言わないで静かに過ごす子だもの」
母から見た自分はそんな大人しい臆病な感じなのか。
「……もしかしたら、心のどこかで本当の両親じゃないのを感じていたのかもね……あ、これは重たい話じゃなくて、本能的な感覚の話よ」
「いや、そりゃわかるけど……母さんも父さんも親じゃないって疑った事は一度も無いよ?」
「優斗の深層心理で気付いては無くとも感じていたのかもね、でも今は全て分かった上で挑戦してるじゃない」
十六歳を迎え、自分の本当の両親を知った時は驚きはあった。
だが、過ごしてきた家族の時間は嘘じゃない。
血筋の事実は特殊かもだが、もはや大した問題にもならないと感じている。
「優斗はこれまで大人しくてやりたい事を表に出さなかったけど、これからは見つけて良いの、やって良いの」
「母さん……」
「茜から色々言われたかもだけど、私はすぐに決めなくても良いと思うわ。いつか自分の道を見出せたら良いのよ」
母は優しく笑い、部屋を出て行った。
自分の道をいつか。
少し冷めた紅茶を飲んで、机に向かい直す。
頭がスッキリとしてきている。
「自分の道……」
姉からの今回のテスト結果五十位以内取ったものとして、その先の計画を立てておくと言ったアドバイス。
難易度が高いと思ったのは夢が無く、またその器じゃないと思っていた。
その為の具体的な何かを欲するあまり、思考のループにハマっていたが母からの「いつか自分の道を」の一言が解いてくれた。
有ればそれに向かい、今無ければ見つけに行けば良い。
夢を手元に持っておかなければ進めない訳じゃない。
無ければ手に入れた時の為に、器を強くしておく。
その為に今は勉強量をこなして、見える結果として残せれば指標になる。
「……見えてきた」
心持ちが変わると勉強の質も上がる、吸収率が変わった気がする。
「今回狙うは学内五十位内、その為に二十位に相当する勉強をこなして目標を最低クリア基準までもっていく……か」
うだうだ考え込む暇は無いなと、教科書を開きノートに書いていく。
不思議なもので詰まりが解消されたら入ってくる。
自身に手応えが芽生え始めていた。
そうこうしている内にテスト前日を迎えた。
明日の月曜から四日間に渡り始まる。
各科目満遍なく復習しているが、得意不得意は出てくる。
いかに得意を高め、不得意を抑えれるか。
自室で追い込みを掛けていた時、スマホが鳴る。
画面には福羽の表示だ。
「どうした?」
「柊、どうだ追い込みは」
「なんだよ、今やってるよ」
「あはは、悪い悪い。いやー今回のテストがこんなに集中する事になるなんて思わなくてよ、少しだけ息抜きだ」
福羽も相当詰めてるようだ、なんせ福羽は学内五十位内に加え自分より上を目指す目標設定。
クラス内のムードメーカーが授業中も休憩中も大人しい状況に、周りが心配するぐらいだった。
「柊は手応えあるか?」
「ん〜いつもよりかはな、でも目指した事ない位置が目標だからな」
「俺もだわ、やればやるほど足りない気がしてな〜」
その気持ちはよく分かる、底を見ればすぐだが上を見れば果てしない。
「そう考えると詩華ちゃんトップ争いだろ?どんな世界なんだろうな」
「自分達は五十位より上だけど、鹿島さんはトップかどうかを狙いに行ってるからな……」
「そんな詩華ちゃんが時間割いて教えてくれたんだ、柊落とすなよ?」
「福羽もな」
「ふふ、少し肩の力抜けた〜じゃあまた追い込むからな!」
「ああ、明日な」
スマホの画面が消える。
僅かな時間だが気分転換、そして気合いの入れ直しになった。
いよいよテストが始まろうとしている。




