器を鍛えなさい
テスト前短縮授業による、少し早い下校が続いて帰ればみっちりテスト勉強。
あっという間にテストは迫ってくる。
自分史上最大に勉強はしているが不安が取れない。
結果が出るまでヤキモキしてしまうのだろう。
せめて手応えと呼べる感触、または見える物があればなと机に突っ伏した。
コンコン
「優斗ー入るよー」
姉が来た、何しにきたのだろう。
「んふふ、その顔はやはり手応えの無さに迷える子羊になってるわね」
茶化しにきたのか、早めに出ていってもらおう。
「自分忙しいから……出ていって下さい」
「まあまあそう言わない言わない、ちょっとノート見してみなさい」
無理矢理にひったくられ隅から隅まで見ている。
(姉ちゃん何しにきたんだよ……)
ひとしきり見終わって姉がこちらを見る。
「アンタは勘違いしてるわね〜」
「いきなり何だよ」
「目標は学内五十位だっけ、で勉強量は二.三十位を目指せる量、上目に取ってるわよね?」
鹿島さんからのアドバイスでそうしたのだ、そこまでやって目標を最低ラインに持っていけると。
「そうだよ、だから上振れした勉強で忙しいんだよ」
「そこがズレてるのよ、自分自身のキャパを越えたコップに入る水の行き場が無いのよ」
「何言ってんだ?」
姉が小難しい事を言い出して顔を顰める。
構わず姉は続ける。
「アンタ五十位の器になるつもりなら、気持ちも余裕も振る舞いもそこに合わせなさい」
「んなこと言ったって初めてそこ目指してるんだから、なったことないんだけど」
「だからこそよ、今もしも目標順位クリアしたとしてもラッキーで片付けられる単発の事、それはイレギュラーなの」
姉が現実的な評価を提示する、確かに今回だけ結果が跳ねても偶然と見られるのも仕方ない。
「積み重ねるなら積み重ねれる器じゃないとダメ、アンタは今目標に向かって走るけどその体力を持っていないままがむしゃらになってるだけ」
「……いや、言う事はわかるよ?じゃあ具体的にどうすればいいかって無いじゃん」
「一つは日々広げ続ける事、コレが一番確実で一番難しい事よ。もう一つは……」
「もう一つは……?」
「仮定でも結果を決めて、得た結果をその先の計画に組み込むのよ」
「結果を決めて……?」
何を言ってるんだろうか、決めるのではなく出す物が結果じゃないのだろうか?
「アンタは一週間後、五十位になっている。それにより選べる選択肢を進路に当てがった計画をもう立ててなさい」
「えぇ、いやいや姉ちゃんそれは無茶な……」
「そうかしら?少なくとも詩華ちゃんはそう生きてるから高みに居るわよ?」
地頭が違いすぎないだろうか?
やってきた積み重ねが違いすぎるのではないか?
そもそも元が七〜八十位からスタートだ。
「ほら、アンタが今考えた事全てが取れなかった時の保険なのよ、精神的器が今回の五十位に届いてない」
「うぐ」
言われてしまうと厳しいが、無意識に壁を作っている事は認めざるを得ない。
「これは具体的なやり方は要らないの、アンタの心を強く広げるだけ」
精神論だろうか、正直それが出来て点数上がれば苦労して無いわけで……
「アンタは今までに無い勉強量を注いでいる、だからこそ心も追いつかないとダメ」
「……わかったよ」
姉に言われたのは癪ではあるが、間違ってるとも思えない。
今回はしっかり心に受け止める。
「というわけで、そこの勉強道具片付けなさい」
「へ!?」
「いいから」
有無を言わさない圧力に負けて机を整理する。
久しぶりに広くなった机に一枚の紙が置かれた。
「今さっきまでアンタは五十位をゴールにしてたわよね?」
「ああ……うん」
「その紙のスタートに五十位からのプランを卒業まで書きなさい、終わるまで勉強しちゃダメ」
「え!?いやいやテスト一週間前だって」
「だからこそよ、休憩がてら書いて壁にでも貼りなさい」
いきなり現れ荒らして出ていってしまった……
突然学生生活の計画、しかもまだテスト結果も無いのをスタートにしてなんて無茶苦茶な……
しかし、不思議と嫌では無かった。
数式や文法、単語や歴史と言った勉強しか詰めれてない中での休憩と思えば……
「……まず、スタートは次のテストで取る予定の学内五十位から、五十位を取ったら何するんだ……」
そこで気が付いた。
今後の選択肢は広がる土台になるが、その選択肢が出て来ない。いわば有利な進路に関わる物が手に入ったとして何を選ぶか夢が無かった。
「……これじゃあ点数良かったねで終わる話だよな」
少し悩んだ時、福羽を思い出す。
「俺、バイトを許してもらう」
福羽のコレは確かに結果有きで、先々の計画の元となるだろう。
その一歩の差を感じた。
器が足りないとはそう言う事かと見えてきた。
見えてくる程に福羽に対して劣等感を抱いた。
目標ラインは同じだが、福羽はさらに柊優斗よりも上を目指し、自身のやりたい夢も先に置いている。
器で言えば福羽の方が上だろう、対して自分は心の中で五十位は難しいかもなと思っていた部分がある。
もちろん目指す意思は強いはずだが、何か心に引っ掛かる物があった。
「……姉ちゃん、この心見抜いた?……怖っ」
正解は姉のみぞ知る。
少し真面目にこの先の計画予定表に向き合ってみた。




