6 開戦
王太子が併合しようとしていたのは、幸運にも我が領の近くではありませんでした。
「最前線でなくて良かったと思うべきか。戦えない残念さをかみしめるのではなく」
「オーキッド卿は隣国に攻めこみたいのですか?」
「まさか。それでも確かに我が国は強い。バドなら問題なく倒せるだろう」
オーキッド卿の意見ももっともです。
しかし戦争の話を王太子にされた時に感じた言いようのない不安と気持ち悪さは何だったのでしょう?
「わたくしには分かりませんわ。なぜ戦いたいと?」
「正直血が沸く部分はあるが、前線であれば当事者として王家に意見ができるであろうからな」
「無理ですわ。王太子が自分と異なる意見を受け入れるわけありませんもの」
彼の方にとっては自分の強さを示す良い機会であろうし。
王都からは物資が不足している情報が届きます。
「早めに手を打っていて良かった」
それでも私の嫌な気持ちは消えません。
「心配か?」
夕食時に伯爵が心配して来た。
「はい、まだ気持ち悪さが消えません」
「どうすればいい?」
「王太子を諫めるすべを思い描いていましたが現段階では難しいかと」
「ああ、強硬派に勢いがある」
私は目をつむりました。
「ではせめて‥好き勝手をしてもよろしいでしょうか」
「それで何とかなるのなら」
私は国中の知り合いたちに向けて手紙を送ります。情報収集ですね。
その結果、戦争をけしかけているのは聖女と教会であることが判明しました。
いろいろ汚職疑惑があったのを戦争の高揚でごまかそうとしているらしいのです。
隣国にも使者を送り、貿易の取引を持ちかけました。
幸いペレニアル地方と接する国の仲は悪くないのよ。
今までの市場調査を生かして、何となく足りなくなりそうな魔晶石を買い付けなくちゃ。
この地域の特産品は絹。贅沢品はとっとと売っぱらって資金に替えましたわ。
「貴方のおかげで我が領は今までより栄えることができた。王都は物資の不足で物価の上昇が止まらないらしい」
オーキッド卿とお茶の時間に、ほめられちゃった。うれしくてにやけてしまうわ。
「なぜ必要な物を必要な場所に送れる? 王妃教育の賜物か?」
「さあ‥いつも何となくやっていますの」
私にだってなんでその判断になるかは分かりません。
いつも気持ちが悪くならないように必死なだけですから。
「リーフの町に行っても良いでしょうか」
「遠いな。私も同行して良いなら」
情報を得て遠くに行こうとしたらオーキッド卿がくっついて来ました。
護衛が多いのは助かりますが、どうしてでしょう。
「貴方の仕事ぶりを見てみたい」
「大したことはしませんよ」
有力商人へのあいさつと根回し、教会への訪問、屋敷のみんなへのお土産購入、歴史学者にアポイントを取って訪問と、色々やるのを後ろから伯は見ているだけ。
「本当に行き当たりばったりにしか見えないのだが」
「まあそうやって生きていますから。本日読ませていただいた歴史書はとても興味深かったですね。希少な文献は印刷できないかしら」
余裕ができたらスポンサーになりたいわ。
「貴方は、いつも楽しそうだな」
馬車に揺られながら、オーキッド様が話しかけてきます。
「ええ、ここでは好きなことばかりできますので」
「私の前でそんなに笑う女性は‥貴方が初めてかもしれない」
「まさか」
一笑にふそうとしたけど、辺境伯のさみしそうな様子に言葉は続きません。
(前の奥様を思い出しているのかしら‥)




