5 国境付近の砦
翌日はオーキッド伯と砦へ訪問です。
「よくいらっしゃいました」
兵士たちは緊張しているわね。
砦はそれなりに整理整頓されていました。
「貯蔵されている食料の確認がしたいわ」
何となく気になったから調べさせてもらったら、腐っている物が見つかります。
「帳簿を見てもよろしいかしら」
仕入れの間隔と値段を見ました。気持ちの悪さは感じません。
気になるのは‥兵隊さんかしら。
「他の方は何をしているのでしょう」
「見回りに出ている者と非番の者と訓練中の者がおります」
気持ちが悪いのはそこじゃないわね。
「どれくらいの方がいますの?」
「総員で100名くらいでしょう」
そこですわ。
(少なすぎる‥気持ち悪い)
私が震えていると、オーキッド卿はマントをかけてくれました。ドキドキしちゃうじゃない。
「有事の際は市民から徴兵する。100名は常備兵の数だ」
「今から徴兵と軍事訓練とかはできますか?」
「さすがに無理だな」
いくら親切な辺境伯でも首を縦には振ってくれません。
私は吐きそうになりました。
「だが物資の備蓄は受け入れる。例年より3割多く買い入れよう。徴兵も、手順だけは整えておくか」
胃の中の物は吐き出さずにすみます。
王都から報告が来ました。
思ったより早かったのは鳩を使ったからでしょう。
「本当に開戦だと? 王太子は何を考えている」
無表情が基本のオーキッド卿はめずらしく激怒しています。
「手っ取り早く済む方法、自分に都合の良いことばかり考えていますわ」
「周りは止めないのですか?」
「周りにいるのはイエスマンばかりですから」
私が答えると頭を抱えていました。
「良くあれの婚約者が務まったな」
「ええ、王宮では裁量権が限られていましたし大変でした」
私は過去を思いだして遠い目になります。
「裁量権があればどうにかなるのか?」
「まあ予算を与えて下さればその中で」
「分かった」
私の言葉には何の根拠もないのに卿はゆっくり了承してくれました。
無性に嬉しくなるのは止められません。
私は侍女と従者を連れて町に向かいました。
戦争になったらまず流通が遮断されます。店の人にどこから仕入れをしているか、メインストリートのお店1軒1軒を聞き取りましたわ。
燃料の薪は近場でまかなっていますが、石炭は遠くの炭鉱からね。
食料は‥野菜の自給はできていますが嗜好品はほぼ王都から取り寄せていました。
「備蓄はしっかりあるのかしら」
私はあまり大げさにならないようにおっとり尋ねます。
予算もあるので商人に発注もできますね。こちらが買い取る姿勢を見せないと、増やせと言っても聞かないでしょうし。
「どなたか責任者はいらっしゃいます?」
「お、奥方様、本日はどのようなご用件で」
ギルド長は緊張を隠せません。
商業系のギルドに直接おもむいたから、驚かせてしまったようね。
「こちらを買い付けに行って頂戴」
聞き取りで気持ち悪くなった商品を多めに注文します。
「早めに手に入れたいのよ。お願いね」
オーキッド邸には荷馬車がないのでそれも発注しました。
砦の方にはあるかもしれないけど、念のためよ。
「これは何かあるのですね」
「まあ念のためね。他領の情報も集めておいて」
開戦はまだ発表されていないから、庶民には何も知らされていません。
まあオーキッド伯が徴兵を始めれば嫌が応にも分かるでしょうが。
今日の婚約者様は砦で徴兵と軍事訓練の準備です。
夜遅く帰って来たオーキッド卿はぐったりしていました。
そりゃあ戦争が始まりそうだなんて聞かされてのん気になどできないでしょう。
王太子がどこに宣戦布告するかによって、ここは最前線になるかもしれません。
私はハーブティーを入れます。
疲れた体と胃に優しいドクダミ茶。
「こちらをどうぞ」
少しクセのあるお茶だけど、オーキッド卿は飲んでくれました。
「お夕食は先にいただいてしまいましたの。本日の報告は明日にいたしますわね」
「ああ」
次の日も私は商人との交渉でオーキッド卿は砦に詰めていました。
徴兵が500人を超え私の気持ち悪さも少しずつ収まります。訓練にあけくれた1ヶ月後、戦端は開かれました。




