4 好きに過ごして良いそうです
とりあえずその日は荷ほどきだけしてゆっくりしましわ。
私の荷物はトランク4つ。公爵令嬢としては少ないでしょうけど。
夕食の鐘はオーキッド卿と2人で食べました。
「私は令嬢とどのような会話をすれば良いか分からない」
無表情の彼が唐突に話し出します。
「前の妻も私に愛想を尽かせて出て行った」
離縁された前の奥様のことね。
「愛するよう、努力はする。だが貴方が期待するようなことはできない」
ああ、「愛される期待など持つな」はその意味なのでしょう。
「そうでしたのね、ではわたくしが勝手におしゃべりするのも不快かしら」
以前の婚約者は自分ばかり話したがって、私には相づちと称賛以外求めなかったのよ。
「それくらいは別に。だがうまい返しはできない」
私だってそれくらいは気にしないわ。
「では‥王都では開戦の気運が高まっていますわね。王太子が宣戦布告するのはどこの国になるかしら。オーキッド卿はどうお考えですか?」
取りあえず政治の話題なら慣れていそうだから振ってみたけど、彼はガタっと立ち上がります。
「それはどこからの情報か」
「あら初耳でしたか? 王太子はまだ伝えていないのでしょうか。彼は戦争を始める予定です。王都の貴族界ではみんな知っていましてよ」
辺境には伝えてはいけない情報だったかしら?
晩餐は早々に切り上げられ、オーキッド卿は家令と執務室にこもられました。
翌日は使用人がいそがしそう。早朝から騎士が王都に向かったのだとか。
「コックも旦那様の朝食より騎士の食事を先に作ったんですって」
無口な彼からは何も聞かされなかったけれど、侍女のベスが情報を仕入れてくれます。
まあ騎士が戻るまでは何も進展しないでしょうし、私はやりたいことをダラダラする夢のような生活を始めるのよ。
「町に出たと聞いた。何をしているんだ?」
夕食の席でオーキッド卿にたずねられました。
言葉は無骨だけど口用は穏やかだから、以前のすぐ怒鳴る上司にくらべて大分マシよね。答える前に委縮しないですむわ。
「市場調査です」
「調査?」
「はい、町の人に話を聞いて豊作の作物や物価の上下を。現在は農作物が安くなっているそうですね」
「ああ。しかしなぜそんなことを」
「やりたくなったからですわ」
今日は会話が続いていますね。
思い切っておねだりをしてみようかしら。
「あの、わたくしに割り振られている予算を使ってもよろしいでしょうか?」
「何に?」
「穀物を買い貯めしておきたいのです。備蓄量を増やしたくて」
「備蓄がたりない話は聞いていないが」
「それでも戦争が始まったらたりなくなるでしょう?」
「そうか」
特に反対はされませんでした。本当に好きに過ごして良さそうね。
「今日はどうしていた?」
夕食の席は日常報告の場になったみたい。
「はい、お屋敷周辺の地理を頭に入れていましたわ」
今日の私は馬を用意してもらって屋敷の周辺を走り回りました。
地図を見るだけでは分からないことだらけですから。
地理感覚を養うには自分の目で実際に見た方が早いのよね。
「ふうん? で、どう思った」
「この屋敷は住むには快適ですが戦争を考えたら不安になりました」
街壁はしっかりしているけれど、現在の兵器や魔法で攻められることを考えたら気分がすぐれません。地形もまっ平らすぎて不安ね。
「ああ、有事の際は国境沿いの砦に籠る」
「なるほど! では明日はそこに遊びに行きたいですわ! 場所を教えていただいても?」
「‥私が案内しよう」
辺境伯は意外と優しい方よね。




