18 聞けない頼み
ウィードとの戦線は、クロード殿下が急遽停戦をまとめます。
王太子がケガで指揮を取れない状況になり、狂信的な強硬派が大勢亡くなってやっと説得できたのですって。
我が国の王女殿下が人質として向こうの王家に迎え入れられ、賠償金もはらうそうね。
「国にそんなお金あったかしら?」
私が覚えている予算と戦争の経費を考えると、余裕なんかありませんわ。
「なければ情報でも良いらしい。我が国の方がウィードより魔法の技術が発展している」
「それなら納得ですね」
魔法は使う者のイメージや感覚が重要ですので、技術を教えても模倣されるまでに数年はかかります。
「今の王家にしては考えましたわね」
「クロード殿下が全権を委任されたからな」
やはり近親婚で濃くなった血筋より、愛妾の子である王弟殿下の方がしっかりされていますわ。
「ザフラ国との停戦も結んでほしいわ」
「さすがにそこまでする権限はない。あちらの総司令は熱心なアストレイヤ教徒でアダール教を敵視している。邪悪は滅ぼさねばならぬといつも言っていた」
「はあ、わたくし聖女になるのは構いませんが、本当に戦争を終わらせられるのでしょうか?」
そんな話をしていたさなか、屋敷に急報が届きました。
「王が譲位なされた! クロード殿下が新王だ!」
希望が湧いてきましたわね。
歓喜に沸きたつ屋敷の中で、アーサー様だけ渋いお顔。
「どういたしました?」
私は不思議に思いました。アーサー卿は悲し気なお顔のまま、私の手を取ります。
「もし貴方が王妃を望んでも、私は‥君の好きにはさせてやれない」
へ? 私のお口がポカンと開いてしまいました。
「王妃? わたくしが? 気になった方に飛び蹴りくらわす女ですよ? アーサー様と言うすばらしい婚約者もいるのですから、王命であっても断ります」
アーサー様の表情がやっとほころびます。
「つまり、クロード陛下より私を選んでくれるのか?」
「当たり前ですよ。もちろんあの方を尊敬はしていますが‥」
「‥飛び蹴りは、私だけ?」
私は真っ赤になりながらコクンとうなずきました。
『真の聖女たるサフラン嬢には王都にお越しいただきたい』
新しい国王陛下からの命令です。これはさすがに聞きませんとね。
「大丈夫、私が支える」
アーサー様に勇気づけられながら、私は王宮へ足を踏み入れます。
「サフラン公爵令嬢、我が王家は貴方に多大なご迷惑をかけた。王として謝罪する」
謁見の間で、新王陛下に頭を下げられてしまいました。
ここに呼ばれたのは私とアーサー様と父上だけですが、ムズムズしますわね。
若き王はアーサー様と比べても遜色のない体つき。お顔にも思慮深さが現れていて、威風堂々が半端ありませんわ。
(この方になら忠誠を誓えるわね)
臣下としては愚王に仕えたくありませんもの。
「そしてサフラン公爵家とオーキッド辺境伯家には私を、この国の舵取りを助けて欲しい」
私たちは王に正式な礼を取りました。
と言うわけで、私たちは領地にも戻らず王宮へ出ずっぱりですの。
「貴方を陛下の側には行かせたくないのだが‥いかんせん人員が足りない。頼めるか?」
アーサー様は私が陛下の目に留まることを懸念していますが、問題はありませんの。
「大丈夫ですわ。以前から、君は王妃には向かないだろうっておっしゃっていましたから」
クロード様には良く苦笑いされたものです。
いくら公爵家の令嬢でも私には無理。
「それでも、口説かれない保証はないだろう」
アーサー様って意外と心配症でしたのね。
「彼の方の好みは儚げ美人ですの」
「シルビアだって十分に美人で時々儚げだ」
そう思っているのは多分アーサー卿だけでしょう‥




