17 王太子の苦悩 3
(なんでこうなった)
ブルームの王太子は病床で1人苦しんでいた。
やけどの痛みが大きいからではあるが、それ以上に敗戦の事実がこたえている。
(どこから間違えた?)
彼にとって全部うまく行っているはずだった。
確かに逃げる敵を深追いして返り討ちにあったのはまずかった。
卑怯な敵は魔導士部隊を草原に潜ませて、王太子の部隊へ向けて一斉に爆炎を放ったのだ。
確かにそれは想定外で、やけどを負うのは仕方がない。
しかしこの程度の傷、聖女ならば簡単に治せるはずだった。
それなのに治癒魔法はいつもより効き目が弱い。王太子の顔は焼けただれたまま。
「治療までに時間が空いてしまったので」
彼女たちは火事から逃げていたので、確かに合流は遅れている。魔法の効き目が減少するのは良く聞く話だが。
「それでも聖女の力だ。完治しないはずなかろう」
かすれ声の王太子に、聖女ビビアンは冷たく言い放った。
「わたくしの力も万能ではありませんのよ」
聖女の力の源は愛だ。つまり気持ちがゆらげばそれだけ魔法の効果は下がる。ビビアンの気持ちが冷めたことが、みな手に取るように分かった。
王太子は命こそとりとめたが、ベッドから起き上がれない。
「他の治療師はいないのか? 薬も持って来い」
命令しても周りは困惑するだけ。
「王都でなければこれ以上の治療は無理です」
聖女と共に王都へ帰還するが、彼女は王太子へ一瞥もくれない。
(あの女、私の顔だけが目当てだったのか)
王太子は憤る。
担架で荷物の様に運ばれたのは彼にとって屈辱だし、食事内容にも不満だらけだった。
「マズイ。もっとマシな食事はないのか」
「物流が滞っているので、これ以上はご用意できません」
部下たちは必死に謝るが、王太子には理解できない。
「物資は占領国から運ばせているだろう」
「それらはほとんど戦地で消費されているようです」
(おかしい。計画は完璧だったはずだ)
彼の描いた理想では、もう戦争は終わり国は栄えていたのに。
うまく進んでいることが何一つなかった。
王宮までたどり着いた王太子は、寝室に宰相を呼び出す。
「行政はどうなっている!」
宰相は困り顔で答えた。
「度重なる戦に費用がかかりすぎ、国庫は今や尽きかけております」
「それをどうにかするのがお前の仕事だろう」
王太子はギリっと奥歯をかみしめる。
「現在、必死で体制を整えている最中でして。もう失礼してよろしいかの?」
「はぁ? 不敬だろう」
「あなた様によって追いはらわれた文官が全員戻ってくればワシも暇になりますが」
王太子のやけど痕が痛みでうずく。
「そのような奴ら、いない方がマシだろう」
彼が慈悲を持って王都に呼び戻そうとしてやったのに無下にされた。
あの時もはらわたが煮えくり返るかと思った。
「シルビア・サフランなど、私の廃嫡を条件にしたのだ」
宰相は答えない。
その程度の条件なら喜んで飲もうと検討し始めたのを、王太子は知らなかった。
「そもそも、私の命令を全て聞かないのが悪い」
「ですから、それはどうしても不可能な命令だったのでしょう」
「戦争に協力もしなかった」
「負けると分かっていたのでしょうなぁ」
分かっていただと? この状況が?
「だったらそう言えば良いだけだろう」
「その場合、殿下は諫言を聞きましたかな?」
王太子の口が閉まった。
宰相は、一礼してから退室する。
(くそ、とにかく今はケガを治そう。体が動けるようになったら貴族に物資を供出させて、魔道武器を開発中のも全部前線に出そう。シルビアたちに使いどころがあるなら、無理にでも王宮に連れ戻せばいいだけだ。聖女だって私の美貌が回復すればすぐに言うことを聞くはずだし)
体中の激痛にのたうち回りながら、王太子は必死に次の手を考えた。
しかし彼は知らない。動けるようになった時にはすべてが終わっていることを。
退職した文官たちは優秀なので、みんなすぐ再就職が決まっています。




