16 プロポーズ
翌日はホワホワした気分で目覚めます。
「昨夜は申し訳ありませんでした」
朝食で顔を合わせたアーサー卿に私は謝罪いたしました。
好いている方に嫌がらせなどするものではございませんね。
「これ以上の嫌がらせはなかった」
ゲッソリした顔でアーサー様にとがめられます。
「もう二度といたしませんわ」
決意する私にアーサー様は困った顔をされました。なぜ?
「ああ、私以外には絶対するな」
ご自分だったらよろしいのかしら?
「でもお嫌なのでしょう?」
アーサー様はきれいな赤毛をかき上げます。
「嫌いな女性にされたら嫌だが、好いている女性にされるのは悪くない」
好いている女性‥私を?
「気持ちを伝えていなかった私が悪い。シルビア、愛している。共に人生を歩んで欲しい」
アーサー様が真剣な目で私を見つめていました。
「ふれても、良いだろうか?」
私は真っ赤になってうなずきます。
「良かったですね、オーキッド様と想いが通じ合えて」
部屋でベスにことの次第を伝えると喜んでくれました。
「でも、おかしいのよ? 私を好いて下さっているのに、昨夜もその前もとっても嫌そうにしていたの。好きな相手なら悪くないっておっしゃっていたのに」
私の疑問にベスのクスクスが止まりません。
「た、多分結婚式の後なら喜びますよ! 絶対に」
そんなものなのかしら?
ウィード国との戦争は国境付近の平原で我が軍の大敗でした。
それでもまだ戦争は終わっていません。
やけどを負った王太子は戦地から戻って療養しているそうです。
「敵の魔法使がはった罠にかかったらしい」
「あら、ご自分たちの失態を隠すために敵を強大に見せかけているだけじゃなくて?」
深追いしすぎた、とか。
アーサー様は私にも手紙を見せます。
「顔が焼けただれた王太子に聖女は愛想を尽かしたって、あら、聖女様なら見かけが変わっても愛を貫きそうですのに」
「これなら真の聖女計画も成功しそうだな」
アーサー様の私聖女化計画は順調らしく、2人で教会へ向かうことも増えました。
「おお、オーキッド卿、わたくしめを中央に推薦してくれるお話は忘れないで下さいね」
神に祈りをささげた後、毎回司教様の下世話なお願いを聞かされるのは想定外でしたが。
「司教様ってもっと高潔かと思っていましたわ」
帰りの馬車でぼやいてしまいます。
「聖職者としてはあれくらいが普通だ。それより中央教会に移した途端、裏切られる危険を避けたいな」
「どなたかライバルがいれば大丈夫でしょうが‥」
うまく行く方法はあるのかしら? 私、教会関係はくわしくないのよね。
「中央教会の大司教様はどんな方だったかしら? 実際にお会いしてみたいわ」
私がブツブツつぶやくのを、アーサー様は優しく見守って下さいます。
「機会を見て、一度王都へ赴いても良いな」
「そうですわよ、相手を知らずに戦い方は決められません。王都なら反戦派の貴族とも接触しやすいですし、そろそろ行ってみたいですわ」
「君のやりたいことを教えてくれ。私が、力を貸す」
頼もしい婚約者様に、少し甘えてみようかしら。
「で、ではその‥隣に座っても構わないかしら」
ゆれる車内で向かいのアーサー様に歩み寄ろうとしたら、うっかり転んでしまいました。
彼の体を押しつぶさないよう、馬車の窓枠にドンってしてしまいます。
「ごめんなさい」
「‥構わん」
やっぱり、アーサー様は優しい方よね。
アーサーは壁ドンされました。




