15 嫌がらせ
「シルビア、なぜ?」
寝室のアーサー様は狼狽しています。
「あなたに嫌がらせをしようと思って。鍵は執事から借りました」
私はガウンを脱ぎ、寝間着姿を見せつけます。
今夜着ているのはベスいわく1番嫌がらせの成功率が高い夜着です。
「ま、待て。何が何だか訳が分からない」
まあ、あなたはそうでしょうね。
「あなたに正面から殴りかかっても無駄でしょうって相談したら、侍女も執事も夜着なら寝技に持ちこめるってアドバイスしてくれたの」
「はあ?」
アーサー様は混乱しまくっていますね。まあ、私だってどうしてこの状況なら成功するのか理解できませんけど。
「この状況で私がキスして抱きついたら、アーサー様はとっても嫌がるんですって? 理由は教えてもらえませんでしたが」
侍女も執事も、アーサー様の私への態度に不満を持っていて、それくらいの嫌がらせはするべきだって乗り気でしたの。
だけどアーサー様は私の肩をがしりとつかんで離してくれません。これでは近づけませんわ。
「貴方だって俺にそんなことするのは嫌だろう?」
アーサー様の低い声がさらに低くなってうなるように話しています。
自分を俺って言っていますね。余裕がないのでしょう。やはりこの格好は効果がありそうです。
「ふん、わたくしだって、それくらいはできますよ。頑張れば‥」
「俺は、貴方に無理はさせたくない」
卿の悲痛な声は心配してくれていますが、今の私は逆に心がピりつきます。
「無理じゃありません! それくらい、あなたのことは好きなんです!」
勢いで告白してしまいました。
アーサー様にはどう思われてしまうでしょう‥
肩をつかむ指先に力がこめられました。痛いです。
「離して下さい」
「シルビアが何もしないなら」
私はうなずいて、2人でソファーに腰かけました。
「‥その、嫌がらせをした後、どうするつもりだったんだ」
もう私の勢いはそがれていますが、アーサー様の声から緊張が取れません。
「あなたにすっかり嫌われてから、この屋敷を出ようと思いまして」
元々うまく行かなかったら実家に戻る予定だったのだし。
「‥それは困るな」
そりゃ、今私がいなくなったらこの方は困るでしょう。
「聖女のお話はなかったことにして下さいませ」
「そっちじゃない」
私の手に、彼のごつごつした手が重なります。
「貴方がいなくなったら、俺の心が張り裂けてしまう」
え、と私の目が丸くなります。
「貴方は、俺をどう思っている? さっき言っていた好きはどっちの意味だ?親愛か? それとも恋情か? ただの上司だなんて耐えられない。」
この方何をおっしゃっているの?
「どちらかと言えば恋ですけれど、でもわたくし好かれていないはずなのに」
「そんなことはない」
手が、ぎゅっと握られます。
「だって愛される期待をしてはいけないと‥」
「その発言は撤回する」
「アーサー様が私に優しいのは、努力のためだと‥」
「貴方相手では努力する必要もなかった」
え? と思考が止まった私をアーサー様は優しく立ち上がらせます。
「誤解させて、すまなかった」
彼は私にガウンをかけ背中を押します。そのまま私は自室に戻されました。
「お休み」
訳が分からないまま、私はベッドに入ります。
(努力する必要もないってことは‥期待しても良いのかしら?)
まさかまさかまさか‥ですが、先ほどの会話は確かにそうとしか思えません!




