19 薄い本
クロード陛下は私の使い方をアーサー様から聞いたようです。
「君は好きにしていなさい」
そう言われたら宰相や大臣の間を駆けずり回りたくなっちゃうじゃない。
「さすがサフラン嬢です」
宰相様からお褒めの言葉をいただきました。
「オーキッド卿もすっかり惚れこんでいるようですなぁ。この老骨までにらまれておるわい」
ふり返りますとアーサー様がつかつか近づいてきます。
「いくら頼まれても婚約者を王宮には渡しませんよ」
「ほっほっほ、分かっております。陛下にまで釘をさされたそうですなぁ」
アーサー様、それってかなり不敬でなくて?
陛下の気に障ったからではないでしょうが、アーサー様はザフラ戦線の総司令官に任じられました。
むやみやたらに攻撃していた前任は更迭ね。
心配ではあるけれど、彼以上の適任がいるとは思えません。
「何か、欲しい土産はあるか?」
出征前に、アーサー卿から尋ねられたので私は満面の笑みで答えました。
「和平を」
彼は苦笑いの後、私に誓います。
「全力を尽くそう」
アーサー様が王都からいなくなっても、私は王宮でお仕事です。
「こちらの本はどういたしました?」
ある日、クロード陛下がたくさんの薄い本を渡してきました。
「真の聖女伝説を普及させるため、知り合いに作ってもらった。この冊子を流通させるには、サフラン嬢ならどうするかな?」
1冊手に取って読んでみます。
『辺境に追いやられた元婚約者ですが、どうやら真の聖女は私だったみたいです』
と言う無駄なほど長い題名のその本には、婚約破棄されボロボロになったけれど辺境伯にメロメロに愛されたことから聖女の力を覚醒させ領地を救う、シルビア・サフランが描かれていました。
私じゃない!
「待ってください、わたくしこんなことやっておりませんわ!」
「いやいや、ご謙遜を。領地の繁栄と王家への貢献を見れば大して嘘は書かれていないぞ」
陛下は楽しそうに紙をめくっています。
「オーキッド卿も、ここまでのスキンシップはいたしません!」
「ふむ‥では人前でしないだけだと吹聴しておくか」
「はあ?」
陛下、完全にふざけていますね。
こんな本を流通など断固拒否したいのに、「王命だから」って言われたら断れませんのよ。
恥ずかしくて死にそうなのに、胃腸は快調なのはなぜでしょう?
とにかく出版業者に丸投げしました。
「適当に売ってくれればいいから」
そう頼んだはずですが、人任せにするのは悪手でした。まさか渡した分だけじゃなく、新しく大量印刷されるなんて‥
「シルビア様のお話読みましたわ、なんて素敵な出会いなのでしょう♡」
親しい女官から挿絵までついたその冊子を見せられた時は肝が冷えましたわ。
「おほほ、こちらは創作物でして、嘘ばっかりですのよ~」
「え、そうなんですか?」
「ええ、だからお信じにならないでね」
何とか濁そうとしましたが、彼女は困り顔になりました。
「しかし、もうみんな信じ切っていますよ?」
「え? みんな?」
「ええ、今このお話王都で大人気なんです。知らない人がいないくらいの」
言葉の意味を理解するのに、少々時間がかかってしまいました。ゾッとするってこう言うことなのね。
しばらくして、なんとか冬季休戦には持ちこめそうだと知らせがありました。
安堵しましたが、戦地から戻ってこられるアーサー様をどんな顔で迎えましょう?
分からなくなってしまいます。
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女性嫌いの令息を護衛している男装女子ですが‥なんか思ってたのと違う? で描いた世界と連動しています。




