13 聖女
目が覚めてしまったからきちんと着がえ、メイドが呼びに来たら朝食を済ませます。
私の提案が突拍子もなかったようで、オーキッド卿の態度がまだおかしいまま。
食後は執務室に向かい、不穏な計画の立案よ。
「どうしたら王弟殿下を玉座に着けられるのかしら」
「今のあの方は軍を率いている。そのまま王宮に進軍すれば確実だが‥ウィードとの関係をまとめてからだな」
戦争は専門性が高い分野なので、私にもどうしたら良いか分かりません。
「オーキッド卿を死なせたくありません。我が領から食料援助をしても構いませんか?」
「そうだな。ところでシルビア嬢はクロード殿下とは面識があったのか?」
「ええ、王太子の無茶ぶりにつき合わされていた時はよく。時々ねぎらってくれる優しい方よ」
当時は自分の婚約者と見比べて遠い目をしていましたが、今の婚約者殿なら遜色ありません。
思わずフフッと笑ってしまいました。
「そうか‥親しかったのか‥」
オーキッド卿のつぶやきがさみしそうなのはなぜでしょう?
「聖女はどうする? 殺すか?」
「それは何となく嫌ですわ」
「殺しては教会派の反感を買うからな」
聖女は国の土台となる宗教の象徴です。
処遇を間違えたら国の混乱は収まらないわね。
殴って正気になるのならいくらでも殴りますが、彼女そんなタイプに見えませんし。
「いっそ聖女様の中身が別人になる‘転生魔法‘でも使ってみましょうか」
「そんな不確かなものに頼ろうだなんて君らしくない」
自分でも分かってはいるのですけれど。
「しかし、別の聖女か‥」
オーキッド卿は考えこんでいます。
「そうか、もう1人聖女が現れればいい。ビビアン殿には偽物になってもらおう」
「悪くありませんが、そんなにちょうど良く聖女は現れませんよ」
オーキッド卿は、フッと笑うと両手で私の顔を包みこんだ。
(ええ、何ですの?)
混乱する私に、彼は真剣な眼差しをぶつける。
「貴方がなればいい」
へ、と私の目はまん丸になっちゃったわ。
「無理ですわ! わたくしが聖女だなんて教会が受け入れません!」
「我が領の教会なら私の支配下だ。買収できなくもない」
ものすごく荒唐無けいな作戦のはずなのに‥気持ち悪くならない?
私の反対を押し切り、さっそく伯は王弟殿下に手紙をしたためています。
私の胃は完全に平常を保っているし、止めない方がいいのよね?
いつも通り私は町を見て人々から話を聞き続けます。領地を回りたいと言えばオーキッド卿は馬車を手配してくれます。
「さて聖女様は本日何をなさったのかな」
夕食時には婚約者からからかわれることも増えました。
ただの報告なのに、嬉しくなっちゃうのはなぜ?
領地と前線は離れているし、王弟殿下がクーデターの示唆にどれだけ興味を持ってくれるか勝算はありませんでした。
それでも返事は届いたの。
「王太子が無理に出陣したそうで、瀕死の重傷だそうだ」
あらかわいそうだけど自業自得よね。
「クロード殿下はご無事でしょうか?」
この国の将来を担う方に何かあっては大変ですから、私はオーキッド卿に問いかけます。
「そのようだ。ああ、王太子と聖女ビビアンとの仲も今一つらしく、クロード殿下は教会へ亀裂を入れるらしい」
良い知らせのはずなのに、オーキッド卿のお顔から眉間のしわが取れません。
心配して見つめていたら、そっぽを向かれてしまいました。
私に見られるのは嫌なのかしら?
「クロード殿下が心配か?」
「ええもちろん」
なんでそんな当たり前の事をたずねて来るのかしら?
「改めて言うことでもないが、貴方の婚約者は私だ」
「はい」
彼は何をおっしゃりたいのでしょうか?
考えが読めませんわ。




