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第7話 鼓動

 ――うるさい。


「おぉ! 英雄様だ!」


 うるさい。その黄色い声が、雨音のように手のひらを打ち付ける音が。何もかもが。


『魔神王を倒した時の事聞かせてください!』


 私は魔神王を倒して『英雄』になった。


『勇者様~!』


 国中が、道行く人すら私を崇め祝福してくる。


『おめでとうございます!』


 うるさい。


 なんで私なの?


 私だけじゃ魔神王には勝てなかった。


 お兄ちゃんと一緒だったから、私は強くなれたんだ。お兄ちゃんが側にいてくれたから、戦えたんだ。お兄ちゃんが守ってくれたから……

 お兄ちゃん。


 お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃん……



 ……お兄ちゃんがいないと生きてけないよ。



 そんな中。


『英雄ティオ・ペペリアよ、大義であった。褒美としてこの僕との婚姻を与えてやろう』


 私を第二王子だとかいう人が呼び出して、一方的に求婚してきた。


「お断りします。私には……もう心に誓った人がいるので」


『あのエスペランサとかいう野蛮人は死んだのだろう?』


「関係ありません。私の心は一生おに……あの人のものです」


『下民の女が努力の果てに魔王を討ち、王子様と結ばれる。これほどのハッピーエンドの何に不満があるというのだ?』


 この人に嫁いで貴族になれば、私は幸せになれるのだろうか。


 ――幸せになって


 お兄ちゃんの最期の言葉が、頭の奥にこびり付いて離れない。


 ……無理だよお兄ちゃん。


 だって私は、何よりもお兄ちゃんのことが大好きだったんだから。







 *






 この間のあの子達は大丈夫だろうか。


 村を盗賊に滅ぼされて、家族は殺されて、奴等に手篭めにされて。


 ティオが回復してあげたりはしてたけど、その後のフォローは放り出してしまった。


 ……本来そこまでの義理なんて無いと言えばそうだけど。


 一応俺のスキルをかけておいたから、悪いようにはならないはず。……多分。


 おっと。また考え過ぎてたかも。


「お兄ちゃん、今日はここでお休みしよっか」


 いつの間にかまた空がオレンジ色に染まっていた。

 俺たちはここ数日間、川に沿って移動してきた。


 この川をずっと遡っていった先に、俺たちの故郷……サミリーシュの村がある。


 今日もいっぱい歩いたな。

 川で身体を洗ってから夕ごはんにしようかな。


「おいでお兄ちゃん、洗ってあげる」


「それくらい自分ででき……みゃああぁぁ!!!?」


「いいのいいの遠慮しなくて♪」


 ……うぅ、もうお嫁に行けないよぉ。

 いやまぁ、むしろお嫁に行ける身体だけども。


 そんなこんなで男としてのプライドを折られた晩のこと。


 大きな芋虫みたいな寝袋に、まずティオが入る。そして逃げようとする俺を引きずり込んで完成だ。俺に逃げ場はない。


 ひとつの芋虫のお腹の中で、俺はティオに抱き枕にされて眠るのだ。


 温かくて柔らかい感触に、なんか甘くていい匂い。

 ……不埒な事を考えそうになって、俺はかぶりを振った。


「……なぁティオ」


「なぁにお兄ちゃん」


 ――ティオの匂いも温かさも声も、100年間前のあの日と変わらない。

 けれど、ティオは変わってしまった。


 俺が、ティオにとって呪いになってしまったんじゃないか。


「100年間……辛かったのか?」


 ちくりとした罪悪感が、俺の口からそんな言葉を吐き出させた。


 100年。

 人間の一生に等しい時間。

 それだけの時を、ティオはどう過ごしていたのだろうか。


「ううん、辛くなんてなかったよ! ちっとも!」


  ティオは、太陽みたいに明るく答えてみせた。

 直視できないほど眩しい笑顔と共に。


「……そうか」


 今日も俺はティオに抱かれて眠る。


 ティオの胸から鼓動が聞こえないのはきっと、気のせいなのだろう。






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― 新着の感想 ―
そっか…。心臓、動いてないっぽいのか。 30分に1拍動くらいの超々々スローペース活動状態だったりしませんかねぇ…!(悲) こう、新陳代謝を極限まで低下させて健康長生き生活の知恵的な…。
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