第8話 これはただの悪い夢
なんにもない
なんにもみえない
なんにもきこえない
なんにもかんじない
こわいよぉ
たすけて
だれか
たすけて
わたしを
ころして
おねがい
たすけてお兄ちゃん
……。
お兄ちゃん! 今日はパンケーキ作ってみたんだ~♪
どう? 美味しい?
えへへ、ありがと~
私お兄ちゃんのお嫁さんになれて、まいにち幸せいっぱい!
お兄ちゃんっ♪
お兄ちゃん
おにいちゃん
……会いたいよ。声を聞かせてよ。
何があっても助けてくれるって、言ってくれたじゃん……
助けに来てよ
……うそつき
「お兄ちゃん……お兄ちゃんっ!」
んぅ?
ティオの顔が、近い……?
いや、覗き込まれてるのか。
「どうしたんだティオ?」
「大丈夫お兄ちゃん……!? お兄ちゃんすごくうなされてて……!」
魘されてた?
うーん、何か怖い夢を見てたような気がする。思い出せないけど。
全身がべたつくくらいに汗をかいてるし、よほどの悪夢だったのかもしれない。
まぁ兎にも角にも
「大丈夫、なんともないよ」
悪い夢はただの夢。
目覚めれば消えるだけの、ただの幻。何の心配もいらない。
だからほら、泣かないで。
*
小鳥の歌声と川のせせらぎが、どこか懐かしいハーモニーを奏でている。
朝の冷たい空気に草露の煌めきと甘い香りが乗って、コーヒーを飲みたい気分にさせてくる。
「朝ごはんにしよっか」
寝袋からもそもそ這い出すと、ティオはおもむろに服を……
っ!?
「ててて、ティオ!?」
服を脱ぎ捨てて、ティオはいきなり川に飛び込んだ。
ばっしゃーん。大きな水しぶきが辺りの空気にこだまする。
「うひゃ~つめたーい!」
子供みたいに甲高く笑いながら、ティオはばしゃばしゃ水の中で何かをしている。
「な、何してるんだティオ?」
「何って、朝ごはん捕ってるんだよ~! お兄ちゃんもおいでよー!」
そう応えるティオの両手には、びちびちと跳ねる魚が握られていた。
――――
2人で囲む焚き火の温もりが、悴んだ手を優しくほぐしてゆく。
朝ごはん……魚たちは、刺さった串を支柱にその焚き火を囲うように並んでじっくりと焼かれていた。
「楽しかったね~」
朝食を捕るどころかなんかすっかり盛り上がって遊んじゃったな。
焼き上がった魚を頬張りながら、ぼんやりと空を眺める。
朝食のはずなのに、もうすぐ正午だ。
「幸せだなぁ~」
ふと、ティオがぽつりと呟いた。
「お兄ちゃんが隣にいて、自由で。
もしこれが夢なら、もうずっと覚めたくないな~」
やっぱり今日もティオの笑顔は眩しいけれど。
その奥から、小さな闇が零れている事を。
俺はまだ知らなかった。
サミリーシュの村まであと少し。
全ての真相を知った時、俺はどうなってしまうのだろう。
今からその時が、少し怖い。
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