第5話 アルナ
「あんちゃんずいぶんと上物の女を連れてるじゃねえか?」
テンプレ。
そう形容できそうな量産型野盗の集団が、エスペランサとティオを取り囲んでいた。
ぐへぐへと下卑た笑みは、エスペランサの背中で怯えているティオに向けられている。
「うちのティオを褒めてくれてありがとうな。怖がっているから離れてくれると助かるんだが?」
「その娘を差し出してくれたら命だけは助けてやんよ」
「笑えない冗談だな。断る」
「そうか、じゃあ死ね!!」
その声を皮切りに、2人を取り囲んでいた量産型野盗が一斉に襲いかかる。
量産型といえど、鉈や斧や槍といった武器を持った連中である。体格に恵まれたエスペランサといえどひとたまりもない。
……はずだった。
「は……、あ? なんで武器が……」
刹那、量産型野盗どもの持つ全ての武器が真ん中からへし折れていた。
「そういう運命だった。それだけだ」
エスペランサのドスの効いた重い声に、野盗どもは凍りつく。
「10秒やる。命が惜しければ失せろ」
野盗どもは、その一瞬で理解した。
目の前に佇むのは、自分達が万人束になってかかったとて勝てない――圧倒的強者なのだと。
「バケモンだ……!」
「ひ、うわあぁぁ!!」
エスペランサの殺気に当てられて、野盗どもは蜘蛛の子を散らすように散開していった。
「大丈夫かティオ?」
「こ、こ、怖かったぁ……」
エスペランサに背中をさすられ、当時14歳だったティオは魂が抜けそうなくらい大きく息を吐き出した。
当時のティオにはまだ、ほとんど戦う力はなかった。
そもそもただの村娘だったのだ。いきなり殺し合いの場に身を投じろというのも酷な話だろう。
「よく頑張った。大丈夫、何があってもお兄ちゃんが守るからな」
「うぅ、おにぃちゃぁん……」
――ティオの眩しい笑顔のためならば、この身が焼けたとしても。
*
「へっへっへ、大人しくしてりゃあ痛くしねえからなぁ?」
ぐへぐへと下卑た笑みを浮かべながら、俺たちを取り囲むむさ苦しい男ども。
昔懐かしいテンプレ野盗だ。
「俺たちに何の用だ。痛い目に遭いたくなければさっさと失せろ」
俺は奴らの前に出て、いつかのあの日のように言ってやった。
しかし……
「おぉ~! お姉ちゃんを守るために健気でちゅねぇ~~? ぜんぜん怖くないよぉ?」
くっ……男の頃はこんだけ凄めば大概の相手は怯んでくれてたんだけどな……。
いまのこんなふにふに幼女ぼでぃじゃ迫力もクソもない……。
というか前までの戦闘力も完全消滅しちゃったし……
そんな風に嘆いていると、野盗の中でも少し大柄な男が俺たちの前に出てきた。
「オレの属性は〝苛虐〟つってな。相手の痛みを増幅するんだよ。へっへっへ、お前らはどんな声で鳴くんだろうなぁ?」
この野盗どものリーダーだろうか、男はゆっくりと俺とティオに手を伸ばし……
「あ ?」
そして次の瞬間、男の首は地面にごろりと転がっていた。
男の首はぱちくりまばたきをして不思議そうな顔をしている。
「人間ってほんっと気色悪い。滅んじゃえばいいのに」
ティオの顔がまた――魔神王のような獅子のものへと歪んでゆく――
数秒後、血溜まりの中に笑顔で立つティオに、俺は――どうすることもできなかった。
――属性〝魔神王〟
その効果は不死身であることと、あらゆる事象の改竄である。
「いでぇよぉ」「なんでぇ」
ティオはそんな魔神王の力を用いて、野盗どもを〝一つ〟にしてしまった。
野盗どもだったものには人の形などなく、歪な肉の塊に無数の眼と口が開いているというものだった。
肉塊は口から延々と血と呻き声を発するだけの存在と化していた。
「殺してないよ」
「え?」
「殺したらお兄ちゃん嫌でしょ?」
ティオは……どうして、こうなってしまったのだろうか。
魔神王と一体化(?)した事が原因、とはどうにも思えない。
俺が死んでからの100年間、一体何があったのだろうか。
「……ティオは、人間のことが嫌いなのか?」
「うん。大っ嫌いだよ。人間なんてみんな、都合のいいものしか信じないから」
「それは、俺もか?」
「そんな訳ないよ!! お兄ちゃんだけは特別!!」
特別……特別、か。
俺にとってもティオは特別で、ティオが死なない世界を作りたかった。
ティオだけが死んで世界は救われる結末なんて、バッドエンドと変わらないと思っていた。
そうだよな、本当は俺は優しくなんてないんだ。もしもティオが死なずに済むなら、魔神王が世界を滅ぼしてもよかったんだ。
現にこの野盗どものなれの果てを見ても、あまり可哀想だとは思えない。
ただ、ティオが手を汚す事が嫌なんだ。
「……ありがとうティオ。行こうか」
「うんうん! 行こ行こー!!」
肉塊に背を向けて、俺たちは旅路を進む。
うっすらとした自己嫌悪を飲み込んで。
さて、100年経った故郷は今どうなっているんだろうか。
今日も今日とてティオの笑顔が眩しい。




