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第2話 勇者、闇堕ち人外ヤンデレと化す

 外に出てみると、これまた知らない街だった。


「お外は危険がいっぱいだから、絶対に離れないでね」


 俺の手を繋ぎ隣を歩くティオは、なぜだか深い外套を被っていた。まるで顔を他人に見られないよう隠しているみたいだ。


「あら~可愛い子ねえ~、妹さんかしら?」


「はい、自慢のかわいい妹です」


 くっ、澄ました顔で言い切りやがって。

 通りすがりのおばさまも完全に信じてやがる。


 だが……「俺はお兄ちゃんだぞ!!」って言ったところで、この姿じゃもう誰も信じてはくれないだろう。


 もうお兄ちゃんはおしまいです……


「お兄ちゃん、何か食べたいものとかある?」


 食べたいものか……何日かぶりに外に出たのなら、新鮮なものを口にしたい。


 そうだなぁ……


「甘いものが、食べたいな」


「ふーーーーん、甘いものかぁ……」


 何だよ、何ニヤニヤしてんだよ。

 この体のせいか無性に甘いもの食べたいんだよ。


「見てお兄ちゃん! あっちにいっぱいお店があるよ! きっと甘いものもあるよ!」


「ティオは相変わらず無邪気だなぁ」


 ティオに手を引かれ、俺は出店の並ぶ街の中心部へと足を踏み入れた。


 ティオは相変わらずフードを深く被り、顔を隠している。

 ……そりゃあそうか。ティオは魔神王を倒した〝勇者〟だもんな。有名人だし目立つ訳だ。


 そう勝手に納得して、俺はその疑問を思考の片隅に追いやった。


「懐かしいねぇお兄ちゃん。昔はお兄ちゃんが私の手を引いてたのに、ふふっ……今じゃ私がお兄ちゃんの手を引いてる」


「どっかの誰かさんのせいで小さくなっちまったからな」


「それは……ごめんね。でも大丈夫、もうずっとずうっと一緒だから。お兄ちゃんに不便なんて絶対にさせないから」


「そりゃあ嬉しいな」


 不本意ながら、今は子供の体じゃできない事も多い。成長するまでは、ティオに頼るしかないだろう。


 それに……ティオにはたくさん寂しい思いをさせてしまったしな。


 しばらくはティオの望み通りにしてやろうかな。




 ――





「これ一つくださーい!」


「はいよー、お嬢さんたち仲良くお食べ」


 出店でティオはポンメという菓子を一袋買った。

 ポンメは砂糖をまぶした小麦粉を丸く固めたモノを揚げた……ドーナツみたいなお菓子だ。


「ここがいいかな?」


 ティオと俺は街はずれの広場のベンチに腰かけ、おやつタイムと洒落こもうとした。



 ……その時




「見つけたぞ!! ティオ・ペペリアだ!!!」



 寛いでいた俺の耳に、突然罵声に似た声が突き刺さった。


 声の主の男は抜き身の剣を構え、ティオを睨んでいた。


 胸元のあの鷲の紋章……憲兵か?


「そこの君! そいつはティオ・ペペリアだ! すぐにこっちに来なさい!!」


「ティオが何だって?」


 何を言ってんだこいつ。


 俺が首をかしげている内に、憲兵がぞろぞろと集まってくる。

 そして、いつの間にか俺たちをぐるりと取り囲んでいた。


 これは……どういう事だ?


「君、その悪魔は本当に危険なんだ! こっちに来なさい!」


「ど、どういうこと……?」


「〝狂乱の魔王〟ティオ・ペペリア――


100年前――王族含む貴族16人と、恋人であった英雄エスペランサを殺害。

――更に自らの故郷であるサミリーシュの村と王都の住民40000人を虐殺した、邪悪の権化!!」


「わかったかお嬢ちゃん! そいつはバケモノなんだ!!!」



 ……は?


 ティオが、化物?


 そんなことある訳がない。


 あり得ない。


 英雄エスペランサってのは俺のことだ。

 俺はティオに殺されたんじゃない、庇って死んだんだ。


 それに……あの優しいティオが、人殺しなんてする訳が――


 そう思って俺はティオを見上げ、そしてゾッとした。


 フードに隠れたティオの顔は、ひどく冷たく寒気を覚えるほどに無表情であった。


 何を考えているのか、幼なじみの俺でさえ全く分からないほどに。


「えっ?」


 その時、憲兵の一人が後ろから俺の手を取り引っ張った。


「逃げるんだ君!!」


「待ってくれ! ティオがそんなことするハズが――」


 と、言いかけたその時。

 俺の腕を引っ張る感覚がふっと軽くなって……


「がっ、ああぁぁぁ!?!?」


 俺を引いていた憲兵さんの腕が、地面にこぼれ落ちていた。






「――お兄ちゃんに触ってんじゃねぇよ」




 まるで――脳をやすられるような、背骨に氷の棒を入れられたような。


 そう錯覚してしまうほどの悪寒。


 ティオの声が、ゆっくりと俺へ向けられる顔が、まるで世界の中心のように思えた。


 ティオは――ただ、笑っていた。


 笑っているはずなのに、何故これほどまでに――


「大丈夫だよお兄ちゃん、すぐに片付ける(・・・・)からね」


 いつものように優しく語るティオの体が、異様な音を立てる。


 ばきっ、めきっ、ぶちっ


 シルエットが変わって、大きくなって、ティオがどんどん俺の知る姿からかけ離れて――




 ――どうして気づかなかったんだろう?



 ――どうしてティオはあの日の少女の姿のままだったのか。





「ひっ、化物……!」


「怯むな! 勇者様が来るまで時間を稼ぐのだ!!!」


『それ』にティオの面影はある。体格は女性らしく、胸もある。


 けれどもそれ以上に……見覚えがあった。


 全身は赤黒い毛皮に覆われ、頭からは山羊の角を生やし、顔は獅子のよう。尻からは蠍の尾が伸びていた。


 それは……その姿はまるで――



『ちょっと待っててね、すぐ終わるから』





 ――魔神王、そのものじゃないか



 呆然とする俺を横目に、ティオが腕を頭上に振り上げた。


 その手のひらに、黒い瘴気と白い光が寄り集まってゆく。


「あれはまさか……アレを撃たせるな!!」


『うるさい』


 憲兵の何人かがティオに向かって迫る。しかし、ティオは片腕でそれらをあっさりと薙ぎ払った。


 手のひらの上の白黒は、球体となりどんどん大きくなっている。今の大きさはバスケットボールほど。


 あれは……〝勇者〟の魔を祓う光と、〝魔神王〟の全てを滅する闇、か? それを、混ぜ合わせて――


「な、何をするつもりなんだティオ……?」


『私のことバレちゃったから、街ごと消し去るの。大丈夫、お兄ちゃんだけは守るから』


「そんなことしたらたくさん人が死ぬぞ」


『どうでもいい。お兄ちゃんに危険が及ぶくらいなら、みんなみーんな死んじゃえばいい!!』


 ヤバい。ヤバいヤバいヤバい!!

 ティオをどうにかして止めないと!


「人殺しはダメだ! お兄ちゃんが許さない!!」


『お兄ちゃんは優しいね』


 その瞬間――光と闇の珠が眩く輝き、辺りを飲み込んで――




「……あれ?」


 あれほどの魔力が解き放たれたのなら、一帯は灰塵に帰していてもおかしくはない。


 しかし目を開けると、辺りはなんともなっていなかった。


 憲兵たちはほとんど気絶しているようだけど、誰も死んではいないようだ。


「おのれ……この悪魔め……!」


 唯一意識を保っていた憲兵さんがティオを睨み付ける。


「お兄ちゃんのお願いだから、今回はこれで許してあげる」


 行こっかお兄ちゃん。そう言うと、元の姿に戻っていたティオは俺の手を引いて帰路についた。



 ……俺は。


 俺は……どうすりゃいい?


「またお引っ越しか~」


 ティオがたくさん人を殺した?


「今度はお兄ちゃんもいるし寂しくないね」


 聞かなくちゃ。何かの間違いだって。


「な、なあティオ」


 部屋に着いて、ティオが扉を開ける。

 開かれた玄関へ片足を入れたティオへ、意を決して切り出した。


「あの人達が言っていた事って、嘘だよな? ティオが貴族を……村の人達もみんな殺したって、そんなこと――」


「お兄ちゃん」


 俺の言葉を遮り、ティオは微笑を浮かべた。

 そしてゆっくり膝を折り、俺と目線を合わせて子供を諭すかのように語りだした。


「そんなどうでもいい事(・・・・・・・)、お兄ちゃんは知らなくていいんだよ」


 異様なほどに澄みきったティオの眼差しが、逆にひどく冷たく不気味に思えた。


「心配しなくても、何があっても私だけはお兄ちゃんの味方だからね」


 満面の笑みでそう言いきると、ティオは俺を抱え上げた。

 背後でばたんと閉まる扉の音が、もう引き返せない事を暗示しているように思えて仕方がなかった。


「そんなことより、次は何処に引っ越そうかな? お兄ちゃん行きたい所ある?」


「お、俺は……」


 俺は――


 ――もしかしたら俺は、何処かで選択を間違えていたのではないか。


「大丈夫、お兄ちゃんと一緒ならどこでも天国だから!」


 ティオの笑顔を真っ直ぐに見られない。

 そんな自分に、嫌気が差しそうだった。





お読みいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
大量の恋人について誰も何も言わないのなんなの……
ちょっと気を抜いたら歯茎がギラギラになる笑顔になるところですこういうの大好きです、連載化ありがとうございます!
悪堕ちのいいところが詰まった話だと思った
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