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第1話 運命を換えし者、幼女になる

お待たせしました

初投稿です

 気だるげな曇天の空の下。

 俺の胸を、黒い炎の矢が貫いていた。


「お兄ちゃんっ!!! お兄ちゃん!!!!」


「ティオ……無事で、良かった……」


 この物語の〝主人公〟――ティオは、自慢の桃色の髪が乱れる事も気にせず、倒れようとする俺を受け止めた。


『勇者を庇ったか、余計な真似を……。次こそは勇者、貴様を仕留めてくれる』


 俺の背後から、どす黒い声が響く。

 ラスボスの魔神王だ。

 俺はたった今、あいつの攻撃からティオを庇ったのだ。


治癒(ヒール)治癒(ヒール)!! なんで傷が塞がんないの……!? ダメお兄ちゃん、血が止まんない……!!」


「すまない……俺は、ここまでのようだ……」


 穴の開いたバケツみたいに、俺の全身からどんどん命が流れ出てしまう。

 間違いなく、俺は間もなく死ぬ。


 更に……胸の傷口から、黒い炎が燃え広がり始めた。


「ティオ、頼む――」


 俺は最後の力を振り絞り、ティオの頬に触れた。

 どうか……このまま〝ハッピーエンド〟を迎えてもらうために。


「魔神王を、倒して……必ず生きて、帰ってくれ……!」


「お兄ちゃ……」


 プツンと、俺の中で何か決定的なものが切れたような気がした。

 それと同時に、全身から一気に力が抜けて視界もたちまち闇に吸い込まれていく。


「幸せ、にな……」


 最期に見えたのは、見たこともないくらいにくしゃくしゃになったティオの泣き顔だった。






 *





 やっぱ、ダメか。

 まあここまでは想定内(・・・)だ。


 俺の今生の名は『エスペランサ』。前世では地球で大学生をやっていた。


 例のごとくトラックに轢かれるテンプレ転生を果たしたはいいものの、やべーことに気づいてしまった。



 ――ここ、俺が遊んでた鬱ゲー『アルマファンタジア』の世界じゃね!?



 しかも俺は主人公のティオの幼なじみの少年『エスペランサ』である。


 最悪なことに(エスペランサ)は、チュートリアルでラスボスに殺される。そしてティオの覚醒のきっかけになる、当て馬みてぇなキャラだ。


 その後もティオには様々な曇らせイベントが待ち受けている。そうして精神を磨り減らしきったティオは、最後は必ず死ぬ。


 ――何をどうやっても必ずラスボスに殺される。


 良くて相討ち、悪けりゃ敗北して世界滅亡である。

 シナリオ書いたやつ人の心とかないんか?


 世界滅亡はもちろん避けたい。だが、そのためにティオが人柱になるのはもっと最悪だ。ティオは俺の前世の推しなのである。


 そもそも今生ではティオは可愛い幼なじみだ。



 だから俺、頑張った。

 本編開始2年前に一人村を出て、装備を集めたりレベリングをしたり、めちゃくちゃ頑張った。


 そうしてチュートリアルに当たるタイミングで故郷の村に襲来してきた魔神王(ラスボス)を撃退。


 しかし、ラスボスこと魔神王は不死である。

 ティオの持つ〝勇者〟という属性(スキル)でしか、滅ぼせないのである。


 だから、魔神王を倒すにはティオの力は必須。村からティオを連れ出し、潤沢な装備や資金を使ってティオの接待レベリングを始めた。


 もちろん極力曇らせイベントを回避しながらだ。


 そしてついにティオは〝覚醒〟無しで成長限界に到達した。


 そこから俺とティオは魔神王にカチコミを仕掛け、ボッコボコにした。


 が、不意打ちを喰らい、それを俺が庇った結果があの冒頭だ。


 曇らせを回避してきたこの世界のティオにとって、初めての曇らせイベント。


 しかし正史では序盤に俺が死ぬことで、〝覚醒〟して魔神王を撃退したのだ。


 ……余談だがゲーム上では、〝覚醒〟はその時点でのレベルを除く全ステータスの数値が恒久的に3倍に上がるという仕様だった。

(なおチュートリアル中にレベルを上げる手段は存在しない)


 だからレベルMAXの今、更に〝覚醒〟が起きれば間違いなく魔神王を圧倒できるだろう。


 相討ちエンドも敗北エンドも、これで避けられる。



 未練は、ない。






『もうこっちに来ちゃったの?』


 気がつくと、地平線の彼方まで広がる白い花畑の中心に立っていた。空は夜よりも黒く、この世のものとは思えない異様な光景だ。


「あぁ、死んじまったようだな。……できれば、チートとか転生特典欲しかったな」


『悪いわね、私はそういう神様じゃないから』


 俺の目の前に立つのは、毛先だけ血に濡らしたように紅い、金髪の少女。

 彼女のステンドグラスみたいに7色に光る瞳孔が、俺をじっと捉えていた。


 トラックに轢かれて転生する時にも会った、たぶん神様的な人だと思う。


「悔いは……まぁ、無いかな。ティオが生きて帰ってくれてたらの話だが。来世は穏やかに暮らせたらいいな」


『……来世ねぇ。ふふ、まだわからないわよ?』


「え? それってどういう……」


『これから色々苦労すると思うけど、……せいぜい頑張んなさい』


 そう言われたのと同時に、俺の意識は果て無き闇に沈みこんでいった。







 *







 ……知らない天井だ。


 ふかふかのお布団っていいよな。眠らなくてもこうしてぼーっとしてるだけで幸福感を与えてくれる。


 ……なんか木目が俺を睨んでいるみたいに思えてきた。居心地が悪くなって思わず視線を横に逸らしてみると……



「お兄ちゃん、起きた?」


 見慣れた幼なじみの顔が覗き込んできた。


「ティオ……?」


 俺の喉から思わず出た声が、妙に甲高い。

 というか俺って死んだはずじゃ……


「魔神王は……?」


 ゆっくりと上半身を起こすと、ティオがそっと俺の頭を抱き締めてきた。


「大丈夫だよお兄ちゃん。魔神王は私がやっつけたから。もう、ぜんぶ終わったんだよ」


 ぎゅっと、強く優しく、ティオの温もりが俺を包み込む。


 ……そうか、良かった。俺のやってきたことは、無駄じゃなかったんだな。


 ティオは魔神王に勝って、どうやら俺は死なずに済んだんだな。


 これ以上のハッピーエンドがどこにあるってんだ。


 そう思ったら、鼻の奥が痛くなってきた。


「お兄ちゃん……ありがとう、ずっと私を守ってくれて。私のために、あんなに頑張ってくれたって分かってるよ」


「ティオ……ぐすっ、俺……」


 俺、こんなに涙脆かったっけ?

 うぅ、涙が止まらない……。


「ティオ? どこ行くんだ?」


「……ちょっと待っててね」


 それからティオは、俺から手を離して大きな姿見を隣の部屋から引っ張ってきた。


 そこには、ティオの後ろ姿と……

 ベッドの上からこちらを見つめる、銀髪の幼い少女の姿があった。


 ……?


 え、この子、誰?


「ふふふ……これが、今のお兄ちゃん(・・・・・・・)だよ」


 イマノオニイチャン?


 変わった名前だな。


 ……。


 は?!


「ごめんね、お兄ちゃんのこと頑張って蘇生しようとしたんだけど……ちょっと失敗しちゃって」


「は……はあぁぁぁぁ!?」


 これは夢か……?

 頬をつまんでみると、ちゃんと痛い。


「だからね、お兄ちゃん。これからは私が、お兄ちゃんのこと守ってあげる。もう頑張らなくていいんだよ?」








 *





「お兄ちゃん、はいあーん♡」


「あーん」


 もぐもぐ。うん、なかなか美味しいな。

 ティオもあれからお料理頑張ったんだな。


 ティオから聞いた話によると、決戦から何年も経過してるらしい。

 その間に俺を蘇生させるために様々な魔法を極めたそうだが……何をどうしたら女の子の体になるんだ?


 今はそれはともかくとして。


「はい、ごちそうさま!! お口拭いてあげるねお兄ちゃん」


「自分ででき――んむ」


「お兄ちゃん、私がぜんぶやってあげるから」


 ティオが、なんかその……少し過保護な感じがするというか……。


 目覚めてから三日間。

 ティオは俺の側から離れようとしない。比喩じゃなくてマジで。


「大丈夫、お兄ちゃんのぜんぶ私がやってあげるから。もう、頑張らないでいいんだよ?」


 食事はもちろん、就寝時は抱き枕にしてくるし、俺がトイレ行こうとするとついてくるし……極めつけは――


「お兄ちゃん、一緒にお風呂入ろっか!」


 さすがに!!

 それは!!!

 ダメだろ!!!!


「ちょ……ちょっと距離感近くない? さすがにお風呂は……」


「ごっ、ごめんねお兄ちゃん!! 私ったら……

 あぁ、大丈夫だから、大丈夫……あの時私がちゃんとしてれば……。ごめんね、ごめんなさい」


 突然、ティオはその場に縮こまり、謝罪を連呼するようになってしまった。


「あ、あのさティオ? 俺はティオが俺の事を大事に思ってくれてすごく嬉しいよ? 別に怒ってないし、顔を上げてくれないかな……?」


「お兄ちゃん……」


 ティオの表情はまだ浮かない。


「明日は外に出掛けてみたいな。あっ! もちろんティオも一緒にな? 俺のこと守ってくれるんだろ?」


「……うん。お兄ちゃんは絶対に私が守る」


 よし、ティオの顔がちょっとだけ晴れた気がする。

 俺もさすがにこの家の中にずっとっていうのもキツいしな。


 明日は気分転換だ。



 ……って、この時は意気込んでいたんだがなぁ





 翌朝――


「かぁんわいぃぃぃ!!!!! お兄ちゃん次はこれ着てみて!!!」


「お、俺は男なのに……」


 俺は今、ティオの着せ替え人形と化していた。


 フリフリのワンピースとかスカートとか、なんかもう名称のわからん可愛らしい服が次から次に出てくる。


 お出かけするって言うからさ、お洒落するのは分かるよ?

 たださ、なんでこんなに今の俺にぴったりの服を持ってるんだよ?


「え~? 私のお古だよ~?」


 うそこけ!!

 ティオが子供の頃こんな服着てるの見たことないわ!!


 俺がこの姿になったのは偶然だとか失敗って言ってたけど、実は確信犯なんじゃないか?


「可愛すぎるでしょお兄ちゃん……」


 あの、いきなりほっぺむにむにしてきてこそばゆいんですけど。

 ほっぺ柔らかい? そりゃどうも。中身は成人男性ですけどね。


 えーぅ

 エスペヲイジメヌンデ……


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