表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/18

最終話 運命の赤い糸 夢の続き

「一目惚れです! 付き合ってください!!」


 ニヤケ面の男の子に遥か上から見下ろされるこのシチュエーションも、中学高校から数えて何度目だろうか。


 またか、という言葉を飲み込む。そして薄っぺらな笑みを貼り付けて、こう言ってやった。


「お引き取りください。息の根ごと」








 *






「またそんな事言ったの? そろそろ刺されるよ?」


 いつもの大学近くのカフェで友人の梨月ちゃんと駄弁っていたら、そんな忠告を受けた。


「私はただでさえ小柄なんだから、ナメられたら終わりなの」


「駅前で中学受験のパンフレット渡されるくらいだしね」


「うっさい! 大学生をガキに間違える方が悪いの!!」


「態度のでかい超小型犬?」


「誰がチワワだ」


 梨月ちゃんにからかわられても、キャンキャン吠えるくらいしか言い返せない。

 それもこれも、この見た目のせいだ。


 中学に入る少し前から、私の体の成長はぴたりと止まってしまった。


 おかげで、大学生になった今でも買い物すれば微笑ましがられ、お酒なんて買える訳がない。


「でもでも~、1度くらい彼氏作ってみた方がいいよ~?」


 古に流行ったタピオカミルクティーをストローで吸引しながら、梨月ちゃんは無責任な事を呟く。


 これだから彼氏持ち……いや、彼女持ちは。


 無理だっつーの。だって私は


「立てばロリータ! 座ればアリス! 惚れる輩はペドフィリアッッッ!!!!」


 ――なんだから。


 ちなみに陰では合法ロリというあだ名をつけられているらしい。


「それ言ってて悲しくならない?」


「悲しいに決まってるでしょ」


 寄ってくる男はロリコンばっか。

 最悪である。


「てか久敏くんとは仲良いように見えるけど、彼はどうなの?」


「恋愛感情ゼロだぞあいつ。というか超歳上の彼女持ちだし」


「マジ? 初めて知った……」


 サークル仲間の久敏くんなら、悪くは無いとは内心思ってたりする。でも、あいつ超歳上の女の人がタイプらしいんだよねぇ。私みたいな見た目ロリには興味無いらしい。


 世知辛いなぁ。





 ――梨月ちゃんと別れ、私は帰路に着く。

 いつものように込み合った南口改札をくぐり抜ける。


 そこでふと、改札前の柱に掲載された広告が目に留まった。


 〝アルマファンタジア二周年〟


 と書かれた、ゲームの広告である。


 額の中で、ピンク色の髪をした女の子が、紅いクラゲ? を抱き締めて微笑んでいる。


 何やらDLCで新しいシナリオが追加されるらしい、ということは聞いたことがある。


 詳しくは知らない。

 やったこともないゲームだし、興味も無い。

 ただちょっとだけ、綺麗だなと思った。それだけ。


 それでも私は立ち止まる事もなく、人混みへと潜り込んだ。






 *





「ただいまぁ~」


 アパートに帰ってきた私は、靴を揃えて脱いでとぼとぼ洗面所へと向かう。


 キッチン横に積み重なった段ボール箱は、農家である実家からの仕送りだ。

 中身はジャガイモにニンジンに、さつまいもにえとせとら……


「食べきれないっての」


 洗面所で手を洗ってうがいをして、それから……


 うわ……。

 また染めないとじゃん。


 鏡の中に映る私の黒髪は、根本から銀色に侵食されていた。


 私の地毛は、なぜか生まれつき銀色をしていたのだ。

 先祖に外国人でもいたのだろうか。


 ともかく、この銀髪は昔から何かとトラブルの元になった。

 だから黒く染めているのだ。




 ――――




 手癖で作った夕ごはんを食べて、シャワーを浴びて。少しだけ参考書を読んで。

 それから、電気を消して毛布とベッドの間に体を滑り込ませる。


 いつも通りだ。


 今夜もきっと……


 あまり、眠れないのだろう。







 ――私には秘密がある。両親にも話した事の無い、漠然とした秘密が。




 私は幸せ者で、恵まれている。それは間違いない。


 両親は私を厳しくも優しく育ててくれた。東京の名門大学にまで通わせてくれた。


 友達もたくさんいる。


 バイトだって楽しくやれている。


 一体何を不満に思う事があるかって、誰もが思うだろう。


 でもね、満たされてないから不満なの。



 いつからだろうか。

 胸にぽっかりと大きな穴が開いている事に気づいたのは。


 そこにあったはずの何かが『無い』、そんな感覚だ。


 漠然と、ただ大きな思い出せない記憶がある事だけが思い出せる。


 nullではなく『0』。


 そこには確かに何かがあった。


 何度思いだそうとしたって、そこにはぽっかりと虚空が口を開けている。


 何も思い出せない事で、そこに居た誰かさんを傷つけているんじゃないか。


 そんな私を見たら、あなたは笑うだろうか。


 今夜も夢の続きは見られそうにない。


 それでも瞼を閉じる。

 その刹那だけ、左手の小指に紅い何かが絡まってるのが見えた気がした。






 *





「うっわ……凄い人」


 バイトが終わって帰路に着こうとしたら、駅はとんでもなく込み合っていた。


 今日は花火大会だったか。

 完全に忘れていた。


 南口から入ったのは失敗だったか?


 いや、どの改札も似たような感じだろう。


 小柄な私は文字通りもみくちゃにされながら、やっとの思いで改札に潜り込んだ。


 そして乗り場への階段までこれまた大変な思いをしながら辿り着く。幸い下り線の乗り場への階段は、比較的空いていた。これならおしくらまんじゅうにならないで済むかもしれない。


 遠くで花火の爆発音が聴こえた気がした。

 生憎疲れ果てて花火なんて見る気にはならない。さっさと帰って疲れを癒したいものだ。


 その時――私の背中を何かが押した。

 多分、酔っ払ったおじさんだったと思う。


 ゆっくりと、世界がスローモーションで流れてゆく。足が地面を捉えていない。私の体は完全に宙に投げ出されていた。


 ヤバい――


 と思ったのも束の間。

 私の左手を、後ろから誰かが掴んでくれた。


 そのままぐいっと引っ張られて、私の足は再び地面を捉えた。


「大丈夫?」


 その女の人は、びっくりするくらい身長が高かった。私の倍近くはあるんじゃないかってくらいの背丈で、そして何より真夏なのに黒いフードを目深に被って顔を隠している。


「あ、ありがとうございます……」


「怪我は無さそうだね、良かった」


 ――そのフードの端から、ちらりとピンク色の毛先が覗いて見えた。


「良かった、元気そうで。じゃあね」


 その人は困ったように微笑むと、踵を返して去ってゆく。


 私はなぜか、その人から目を離せなかった。


 あの人、だ。


 私の胸の穴は、あの人と同じ形をしているんだ。


「待って」


 雷に打たれたような衝撃が、私の胸を満たしていく。


 ――なんで忘れていたんだろう。


 気づいたら私は、人混みを掻き分けてあの人の背を追いかけていた。


 目を見開いて、息を合わせて。


「待って!!」


 改札を飛び出して、私は思い切り声を張り上げた。


 私は――


 ――貴女のことを知っている。



 




「貴女の、名前は――」













 おしまい


ここまでお読みいただきありがとうございました。


これは裏話なのですが、私の書く作品は短編連載問わず『全て』どこかしらで繋がっています。

この作品はとりわけ『NPCなんかじゃない!(https://ncode.syosetu.com/n7948id/)』との繋がりが強いです。興味があればそちらも読んでいただけると幸いです。


ではまた、別作品にてお会いしましょう。改めて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした!
なるほど、心にドーナツなホールが空いてることを自覚できてた、と。 ぐちゃぐちゃに絡みあった因果も、撚って束ねれば立派な紐さ。「痛みを知るただ1人」であろうとするおバカなお兄ちゃんをふん縛って、花火が…
連載お疲れ様です! 凄く見たこのあるセリフがw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ