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第16話 運命 夢の果て

 本当に弱いのは


 私だった。


 俺だった。


 お兄ちゃんが傷つく姿を私が見たくなかった。


 ティオが苦しむ姿を俺が見たくなかった。


 馬鹿だったなぁ、私は。


 馬鹿だったなぁ、俺は。


 お兄ちゃんがどんな姿になったとしても、お兄ちゃんは変わらず私を守ろうとするのに。


 ティオのことを勝手に弱いと決めつけて、守ったつもりになって。


 そんなお兄ちゃんだから、好きになったのに。


 そんな俺が1番、ティオを苦しめていたのに。



 ホント、馬鹿だったなぁ。







 *







『間もなく4番線に〝北〟行きの電車が参ります』


 雑踏行き交う駅の改札前に、うやうやしいアナウンスが鳴り響く。


 たくさんの人々が虚な目をしながら、行ったり来たり。改札から外へ出る者、改札に入る者。


 あるいは、改札の前で誰かと待ち合わせをしている者も。


「これでやっと、一緒だねお兄ちゃん」


「……そう、だな」


 銀髪の幼い少女と桃髪の高身長の女の子が、手を繋いで改札へとゆっくり歩みを進めていた。


「私ね、お兄ちゃん」


「うん」


「すっごく幸せだったよ!」


「俺も、ティオに出会えたから救われたんだ」


 電車が来た。レールを軋ませ、甲高い金属音を響かせて。

 急がなきゃ、乗り遅れちゃう。


 でも……電車から降りてきた人たちが、改札を埋め尽くした。


 人々はみんな他人には無関心で、ぶつかった二人の少女のことなんて見向きもしない。


「お兄ちゃんっ! お兄ちゃんどこっ?」


 桃色の髪を振りほどき、人混みの中を泳ぐようにしてティオははぐれた最愛のお兄ちゃん(エスペランサ)を目で探す。


 そしてしばらくして、やっと見つけた。


 エスペランサは、改札の向こう側に立っていた。ティオに背を向けて。


「お兄ちゃん! 待ってて、私もすぐそっちに行くから!」


「ダメだ」


 ティオが改札を通ろうとしたその時、ビーッというブザーと共にバーが開き塞き止められた。


「なんでお兄ちゃんだけ……!」


「またティオと一緒に旅ができて、すごく楽しかった」


 背を向けたエスペランサの姿が、人混み越しに遠ざかってゆく。


「待って、私も一緒に……!」


「まだこっちに来ちゃだめ」


 ぴしゃりとティオの言葉が遮られる。


「ごめんな、またティオを独りにしてしまう」


「お兄ちゃん……」


 魔神王の力を使った蘇生は一回きりだ。


 ティオの喉にたくさんの言葉がつかえては、口まで出ずに消えてゆく。


 ――いかないで


 ――もっと一緒にいたい


 ――私を独りにしないで



 祈りも言葉も形にならないまま。


 そんな中でただ1つだけ、ティオの口から飛び出した言葉(呪い)


 それは――





「また、会えるよね」




 ぴたりと、エスペランサの足が止まる。




「……きっと。運命はまだ、繋がったままだから」


 ティオは自分の左手の小指に、か細い赤い糸が結ばれている事に気がついた。


 それは、エスペランサの左手の小指とも繋がっていて――


「何度だって、また出会えるさ。だから――」




 続けて出た言葉は、喧騒に掻き消された。





 言葉は届いただろうか。

 もうエスペランサの姿はどこにも見えない。


 電車の汽笛が響く。

 重い金属音が、すこしずつ大きく動き出す。


 彼岸と此岸が別れてゆく。


 駅と元の世界の村の光景が重なり合う。


「……いかなきゃ」


 独り取り残されたティオの口から、そんな声が零れ落ちた。











 主人公になりたかった者。


 主人公にならざるを得なかった者。


 主人公を支えようとした者。



 彼らの旅路は、ここで一旦幕引き。


 このお話はハッピーエンドでもバッドエンドでもない。


 それが、この(ものがたり)の果て。











 ――なんてね?



 未来は誰にも分からない。


 だから、もしかしたら――




次回で完結です。

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