第11話 何者でもない
1000ptありがとうございます
更新止まってしまい申し訳ない。
リアルがめちゃくちゃ立て込んでました。
100年ほど昔のあるところに、何者でもない少年がおりました。
少年には親がいませんでした。
少年には学がありませんでした。
少年を愛する者はいませんでした。
少年には友達もいませんでした。
少年は何者かになる事に憧れていました。
少年は誰からも愛される凄い人間になりたいと願っていました。
そんな何者でもない少年の願いは、気まぐれな神によって叶えられる事になりました。
――正しい事をしなさい。
――在るべき因果を正しい形に戻すのです。
――偽りの勇者ティオ・ペペリアを倒しなさい。さすれば貴方は英雄として未来永劫語り伝えられるでしょう。
――さあおゆきなさい、新たなる希望の勇者……〝ペミディア〟よ。
突然少年の頭の中に語りかけてきた〝神〟は、彼に〝真理〟を理解させました。
魔神王と勇者の因果は絶対に破られてはならないこと。
ある男のせいで因果が破壊されていること。
魔神王を倒し生き延びたティオ・ペペリアを殺さなければならないこと。
〝神〟の意思は森羅万象よりも善悪よりもあまねく倫理よりも上に位置するのだと。
ティオ・ペペリアは憎むべき大罪人であるのだと。
ペミディアがこれから行う全ての罪は、ティオ・ペペリアにあること。
何者でもなかった少年『ペミディア・ペペリア』は、与えられた力と使命に酔いしれていた。
何者かになれる。
みんなに愛してもらえる。
そうしたらきっと、もう寂しくなんてないから。
少年は往く。
正義の名の元に。
僕は正しい。なぜなら正しいから。
*
「そこで待っててねお兄ちゃん」
俺の周囲を半透明の壁が球状に取り囲む。ティオの作った防御結界だ。
獅子の頭に背には蝙蝠の翼、臀部からは蠍の尾が伸びる……魔神王。
そんな姿のティオは、眼前の〝勇者〟に重く冷たくのし掛かる声で問いかけた。
「で……おまえは、なんで私たちの村を滅ぼして何を得た?」
「? 何も? 正しさに理由なんて必要ですか? それからワタシの名はペミディアです」
何がどういう話なのかよくわからない。
このペミディアとかいうヤツが何者なのか。わからないことだらけだが、一つだけ確かな事がある。
――コイツは、明確に敵だ。
故郷を滅ぼしたのも、恐らく他にティオが殺したとされる人々を手にかけたのも。
多分全部コイツだ。
「そうそう、あのエスペランサ? とかいう男は死んで本当に良かったですよ。何せあの男は――」
そう言いかけたペミディアの顔面を、ティオの巨拳がぶち抜いた。
「お前の声も聞きたくない」
普通の人間だったら上半身ごと弾け飛んでいる一撃。
しかしペミディアは受け身を取って着地すると、鼻血を拭いながら向き直った。
「ご存知ですか? 勇者もまた、不死なのですよ。因果に守られて、魔神王と相討ちになるまで死なないのです。
我らは因果に結ばれた表裏一体の存在。さぁ互いに死ぬまでやりあいま――」
両の手を広げたペミディアへ、ティオの巨躯が音のように速く迫る。
ゴスッ
有無を言わさずに、ティオがペミディアを再び殴った。
「待っ……!?」
ペミディアの体は、反対側の山へと飛ばされていった。
――勇者と魔神王は相討ちになるまで死なない、か。
……確かに。
ゲームとしてプレイしてた時の事を思い出す。
魔神王に負けたとしても、プレイヤーは何度もリトライする。
そしてやがて定められた相討ちエンドにたどり着き、終わるのだ。
俺はそんな運命、許せないと思ったんだ。
だからなんだろうか。
俺が、この〝属性〟を持って産まれたのは。
ティオの運命を歪めてしまったのは――
「なんで、なんでぇっ!?」
ペミディアの光の剣がティオの体を何度も切り裂く。
頭を、胸を、腹を。
だがそのどれもが斬った直後から塞がってしまい、切断には至らない。
対するティオは、一切の防御をせずにペミディアへとゆっくり迫る。
「潰れろ」
そう呟いた途端、ペミディアの左腕が鈍い音をたてて変形していった。
――事象の改竄。
魔神王の力で行使したそれが、ペミディアの左腕の形状を別のものに書き換えたのだ。
「ワタシの腕がぁ!?」
左腕は紙にも満たないくらいに薄く潰れていた。
これで頭でも潰れていれば勝ちだったろうが、片腕に留めたのはさすが勇者と言ったところか。
とはいえ、だ。俺の目から見ても、ペミディアの動きは無駄が多い。力はあるが、未熟過ぎる。
「次でトドメ」
ティオの手の内に、黒く巨大な『槍』が作り出された。
槍を構成する『闇』は、事象の改竄により造られた〝負の質量〟である。
そこに込められた魔力量は、街ひとつ消し飛ばせる程のものだ。
嘗て敵として戦った魔神王の力よりも、幾分か上かもしれない。
「あ、あり得ないっ! 貴様の弱体化に四万人も犠牲にしたのだぞ!? 100年間、魔力を削り続けてなぜこれほどの力を……!」
封印……?
気になる話が出てきたな。
「あの時……私に勝てる自信が無かったからやったんでしょ? 因果とやらに守られてるのに、随分慎重なのね」
「因果……そうだ因果だ!! 魔神王と勇者の因果があるかぎり、ワタシは負けない!!」
「なら試してみよっか、弱虫くん」
ティオの姿が再び歪む。
異形の魔神王の姿から、元の可憐な桃髪の少女のものへと。
そして黒き鉾を構えながら、片手で挑発する。
「嘗めるなよ、ワタシは勇者だっ!」
ペミディアがティオへ斬りかかる。
がむしゃらなその一撃は、恐らくは大概の敵を一撃で仕留めてきたのだろう。
並みの者には目にも止まらぬ一撃必殺だったのだろう。
だが、ティオはそれを鉾の柄で受け止めた。
「必ず貴様の心臓を貫き因果を繋いでみせる! 正義は必ず勝つ!」
「無理でしょ、だってあんた弱いもの」
ティオは魔神王形態の時とは変わって、ペミディアの攻撃をすべて完璧にいなしてみせた。
「僕を馬鹿にするなぁっ!」
ペミディアの大振りな横薙ぎ。
くるん、と鉾とティオの体がその場で空中で縦に一回転し避ける。
そして鉾の刃がペミディアの剣の刃を下から斬り上げ、へし折った。
「なっ……?!」
そして驚愕するペミディアの腹を蹴り飛ばし、そしてそこへ鉾を投擲。
土煙が晴れ、そこにあったもの。それは、みぞおちを鉾に貫かれた勇者の姿であった。
「おしまい。残念ながら因果はとっくに壊れているわ」
「こんな、こんな……心臓の場所さえ分かれば……。いや、そうか、……そこにあったのか……」
血を吐き朦朧としているペミディアの眼が、俺へと向けられる。
「自らの心臓を触媒に作り出した、肉人形、か……」
……俺?
心臓……? え、今の俺ティオの心臓なの?
「あーあ、お兄ちゃんにバレちゃったぁ~」
そう言って肩をすくめながら、ティオは後方の俺へと歩み寄ってくる。
決着はついた。
色々とまだ消化できてない情報はあるが、今は早めにここを去ったほうが良いかもしれない。
「詳しい話は後。もう出発するよ、お兄ちゃん」
結界が解けて、ティオがひょいっと俺を担ぎ上げる。
故郷を後にしたら、次はどうしようか。
そんな俺の考えは、即座に打ち消される事となる。
「がっ、ああああああっ!!! 主よ、なぜですか!? 僕はただ――」
ペミディアがいきなり大声を出した……かと思った次の瞬間。
咄嗟に振り向いた俺は見た。
ペミディアの体が、紅い光を放ちながら割れたのを。
まるで……蛹が羽化するように。殻を脱ぎ捨てるかのように。あるいは、内から食い破るかのように。
その、中から出てきたものは――
『アルマ』を冠するラスボス戦との開始です。
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