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第10話 因果再演

『――我と契約せよ。我に貴様の心臓を捧げれば、その男を生き返らせてやる(・・・・・・・・)


 トドメを刺そうとする私に、魔神王はそう言った。


 命乞い?

 そんな私の疑問は、次の魔神王の言葉によって吹き飛ばされた。


『我ら魔神王は、勇者の成れの果てなのだよ』


「……は?」


『勇者と魔神王(我々)は必ず争い、相討ちとなる。そして勇者の魂は因果に取り込まれ、100年後に次の魔神王として復活する。全ては仕組まれた茶番なのだ』


 何を、言っているの。

 土壇場で私の動揺を誘うつもり?


『我の内には、これまで魔神王を倒してきた勇者19人の魂が囚われている』


『私は』『僕は』『俺は』『我は』


『この定められた呪縛(因果)


『から』


『逃れたいだけなんだ』


 全身の毛穴が粟立つほどの寒気が私を襲う。

 魔神王の口から、性別も年齢もバラバラな声による一つの文章が紡ぎ出されたのだ。


 因果……?


 それが本当なら。


 私も、ああなるの?


「何で……私なの? その因果っていうのは誰が決めたの?」


『それは――』





 *






「――〝神〟が定めた因果を返してもらおうか!!」


 ティオの背に光の剣を突き刺したソイツが叫ぶ。


「ごがっ……!? おにぃ、ちゃ……」


「さぁ、あの忌まわしき男が歪めた因果を返してもらおうか!!!」


 ソイツの剣の放つ真っ白な光が、更に強まってゆく。

 ティオの胸から白い炎が全身へ広がってゆく。


「アァァァァァっ!!!」


「ティオ、ティオっ!!」


 ティオの悲鳴がこだまする。


 あの光は……まさか〝勇者〟の力?

 なんでこいつが……。いやそんなことより


「やめろお前ぇっ!」


 俺はソイツに飛びかかった。

 昔ならきっと簡単に殴り飛ばせただろう。

 今の俺じゃ、足にしがみつくので精一杯だった。


「何ですかこのガキは? 邪魔をするなら貴女から殺しますよ?」


「ティオを死なせてたまるかっ!!」


「うるさいですね」


 刹那。胸に強い衝撃が走り、肺の中の空気が全て口から出ていってしまう。


 アイツに蹴り飛ばされた……と理解したのも束の間。


 飛ばされる最中、『アイツ』の顔がハッキリ見えた。


 白い長髪にティオに似た顔つき。体躯はティオと同じくらい。

 女性かと見間違うが、出っ張った喉仏がそれを否定する。


「うぅ……」


「知っていますか? 不死の魔神王の殺し方。それは勇者の〝光〟でその心臓を焼き滅ぼすこと。――このように」


 ティオが、ティオが……

 真っ白な光の中で、ティオの体だけがどんどん黒く焼け焦げてゆく。


「100年の暗闇は長かったでしょう? ワタシが今楽にしてさしあげましょう」


 ダメだ、それだけはダメだ。何とかしないと。でも……体に力が入らない。

 胸が痛い。息ができない。


 地面に横たわったまま……俺は、何もできないまま……。


「逃れられるとでも思いましたか? 神の遣わしたこのワタシ(因果)は変えられないし、変えさせない。因果に抗いし罪人よ、全ての運命を受け入れなさい」



 ――あの日のティオも、こんな気持ちだったのかな。








「お前……お兄ちゃんに触ってんじゃねえよ」


「……は?」


 その時――俺は見た。


 真っ黒に焼け焦げたティオが、〝勇者〟の顔面を殴り飛ばす様子を。


「〝治癒(ヒール)〟」


 胸を貫く剣から解放されたティオはまず俺に、それから自分自身に回復魔法をかけた。


 優しい光が痛みを遠ざけてゆく。

 ティオの体を覆う焦げがぱきぱきと割れて、内から桃色の皮膚が露出する。


「な、なぜです? 心臓を勇者の光で焼いたはず……

 ……いや、そうか。さしずめ心臓の位置を変えていたのですね? 頭蓋か? 腹か? どこだとしても、いいでしょう。死ぬまで切り刻み焼き尽くせばいいのだから!!」


「……お兄ちゃん。大丈夫だよ、私が絶対に守るから」


 ティオが後ろ手に俺の頭を撫でる。


 それから……ティオの全身からめきめきと、ぶちぶちと、異様な音が鳴り……


 そして……〝魔神王〟の姿へと変貌した。



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