●第278話●対水竜兵器の開発
「ひとまずの試作としてはこんなところですかね」
「うむ。大丈夫そうな気はするがの」
「まずは速く、真っ直ぐ進むものを作らないと話にならないものねぇ」
マツモト領の森の中にある魔道船の試験場、その大きな池の畔に、勇とエト、ヴィレムらの姿があった。
台の上に並べられた、全長六〇センチメートルほどの円柱状の物体を囲みながら話をしている。
一週間前の反省会を経て決まった対海竜戦対策の内の最重要ポイント、魚雷の試作品が出来上がったのだ。
その開発は街の中にある研究所ではなく、森の中にある試験場で行われている。
元々は魔道船を浮かべて試験するために作られた施設だが、もはや完全に水軍の兵器研究施設のようになっていた。
「ええ。このあと色々機能拡張はしますけど、まず最低限の性能担保からです。魚雷なんて作ったこと無いですからねぇ」
ヴィレムの言葉を首肯した勇が、少し苦笑いを浮かべながら試作魚雷を手に取って最終確認を行う。
魚雷。言わずと知れた水中を航行して目標に打撃を与える海戦用の兵器だ。
地球においては一八〇〇年代後半には既に実戦投入されており、戦車よりもその歴史は古い。
旧大日本帝国は世界有数の魚雷大国で、日清戦争以降その開発に心血を注いでいたらしい。
そんな魚雷だが、その正確な形状や原理などは軍事マニアでもない勇は知りようがない。
ただ兵器としてはメジャーなので、映画やアニメやゲームなどで何度もその姿は見ている。
その記憶を頼りに、まずは見た目を真似て魔道具化した試作品を作り上げていた。
試作品は全部で四タイプ。実装されている魔法陣は同じで、ガワの長さと太さの組み合わせを変えてある。
長さは七〇センチと九〇センチ、太さは直径一〇センチと二〇センチ。ややずんぐりした物からスリムな物まで様々だ。
どんな形状だとバランスが良いのかを検討するためである。
「では、試し撃ちしてみますね。ミゼロイ、一番左のからお願いします」
「はいっ!」
勇からのお願いに、脇に控えていたミゼロイが最も小さい長さ七〇センチ、直径一〇センチの物を手に取った。
本体は薄く伸ばした金属を筒状に加工してあり、そこそこの重量感だ。
先端の一方は丸みを帯びており、その逆側は先端に向かってややテーパーが付いている。
テーパー部分には小さな四枚のフィンが十字に付いており、先端には穴が開いていた。
ミゼロイはそれを抱えて水際まで歩いて行って片膝をつくと、目いっぱい腕を伸ばして試作魚雷を静かに水中へ投下した。
「沈めます」
カケアガリではなく港のように足下から深度がある池の中で、魚雷はそのままゆっくりと沈下していく。
「よし、水平バランスは大丈夫そうだな」
僅かにユラユラと揺れながらも、水平を保ったまま沈んでいく試作品を見て勇が頷く。
「では、発射します」
一メートル程沈んだ所で、手に持った魔法基板に埋め込まれた無属性魔石へ触れた。
手にした基板の魔法陣にスッと光が走り、一瞬遅れて水中の試作魚雷の後方にも光が走った。
ボシュ
直後、ごく小さな音が水中から聞こえると同時に、試作魚雷が勢いよく水中を走り出した。
少々右に曲がりながらもまっすぐ進んでいく。
「よし」
池の真ん中あたりまで進んだ所で再び勇が基板の魔石に触れると、魚雷はすぐに失速し始め、やがて停止した。
「回収お願いします!」
「了解っす!!」
勇が池の端の方で魔動水上バイクに乗って様子を見ていたティラミスに声をかける。
返事をした彼女は勢いよく水面を走っていくと、背負っていた大きなタモ網の柄を伸ばして、水中の魚雷を回収した。
「あの大きさでも大丈夫そうですね」
回収した魚雷を掲げるティラミスに手を振って応えると、勇は再びエト達と話し始める。
「そうじゃな。最初はとんでもない方向へ行っとったが、あれなら大丈夫じゃろ」
「むしろ小さい実験機より、あれくらい大きい方が安定してそうだねぇ」
勇達は、今日の試作実験までに、さらに小さなモデルを使った実験を繰り返していた。
勇の「だいたいこんな感じ」という曖昧な記憶を頼りに本体を作り、そこに動力としてお馴染みとなったウォータージェットを搭載した極めてシンプルな構造だ。
そしてそれを、ある程度の速さで真っ直ぐ水中で走らせる、というこれまたシンプルな実験である。
しかしいざ実験を始めると、これが中々大変な事である事が分かってきた。
まず水中を走らせようとした時点で壁にぶち当たる。
水面から飛び出したり、逆に延々潜ってしまったりと、とにかく深度が安定しない。
色々試した末、水と比重が近い程一定の深度を保って走ることが分かった。
また、深度の不安定さと共に左右方向の不安定さも中々のものだった。
グニャグニャと曲がってしまい直進してくれない。
比重を水に近付けることで多少マシになったが、その後も色々と実験した結果、重心とフィンの大きさと位置を調整する事でようやく満足いく状況になった。
しかし速度を上げるとまたバランスが崩れるので、太さと長さの比率なども調整する事一週間。
ようやくある程度の正解を見つけて、大きな試作品による実験にステップアップできたところである。
「他の三タイプも試してみますね」
一番小さいものがちゃんと真っすぐ走った事に安堵しつつ、勇は残る三種類も順次試走させていった。
「ひとまずこの速度だったら、どのタイプでもあまり差は無いですね」
「そうじゃな。強いて言えば細長い方がより真っすぐ進んでる気がする程度か?」
「そうだねぇ。左右のブレの幅が小さいのかな」
各タイプ三回ずつ試射したところで、品評会が始まる。
「速さは一番細くて短いものが、最も速かった気がしますね」
池の短辺側ではなく長辺側で見ていたフェリクスからもコメントが出てきた。
「なるほど。ウォータージェットの出力は全て同じなので、やはり水の抵抗が少ない方が速そうですね」
水の抵抗は空気抵抗の十倍以上あるので、投影面積が少ない方が有利なのだろう。
「じゃあひとまず七〇センチの細いほうを仮採用して、次の段階にいきましょうか」
品評の結果、特徴はそれぞれありつつも大きな差が無い事が分かったので、勇はもっともコンパクトなものを採用する。
「ふむ。で、次はどうするんじゃ?」
「命中させることが最重要なので、誘導弾――発射後にある程度操作できるようにしてみようと思ってます」
こうして魚雷開発は第二段階へと進んでいった。
◇
「へっへっへ~~、今回は私の勝ちっすね!」
「むーー、あそこで判断ミスったなぁ」
何やら勝ち誇るティラミスに対して、悔しそうなマルセラ。
「……お前らよくあの速さで反応できるな」
「全くです。ティラミスもマルセラも、頭おかしいんじゃないか?」
「「おかしくない(っす)!!!!」」
そんな二人に毒を吐くフェリクスとリディル。
試作一号魚雷のテスト終えた一週間後。人工池では新たなテストが行われていた。
勇が次の目標に掲げたのは、発射後の魚雷の遠隔操作だ。
再び研究所に籠って実験を繰り返して出来上がった試作二号機を使った、遠隔操作実験の真っ最中である。
「お疲れ様です。どうです?」
池の脇に設えられた、一段高い舞台のような場所から降りて来た面々に勇が声をかける。
「操作方法自体は簡単なのですぐ覚えられたんですが、まだ素早くは反応できないですね」
「同感です。魚雷が向こうを向いている時はいいんですけど、反対向きになるとこう、混乱してしまって……」
「あーー、なるほど。そこは慣れるしかないですねぇ」
男性陣二人の感想に、勇も渋い表情で頷く。
「えーーっ? そうですか? すぐに慣れたけどなぁ」
「そっすね。イサム様、もっと速く出来ないっすか?」
「「…………」」
「あはは、マルセラとティラミスは、遠隔操作でも大丈夫そうですね」
一方で女性陣はと言うと、早々に操縦に慣れて余裕の表情だ。
試作二号機は、一号機をベースに遠隔操作で魚雷を操縦できるようにした、いわば簡易水中ドローンだ。
自動誘導の機能を開発できれば最高なのだが、それを可能とする魔法陣や技術は無いため、次善策としての手動誘導である。
操作系統は魔法巨人の書記に使われている仕組みの応用で、瑠璃猫号に実装した物をよりコンパクトにしている。
多少のタイムラグが発生する懸念はあるが、目視による有視界戦を前提としているため誤差の範囲と言えよう。
操縦者である四名が一段高いところにいたのは、水中を良く見えるように操縦席を台の上に設けたためだ。
操作方法自体は瑠璃猫号と似ているため、一通りのその操船訓練を受けていた四人はすぐに習得した。
そのため、池にブイを浮かべてレースや鬼ごっこをするなど、より実践的なテストを行っている最中である。
「基本的には奥に向かって発射しますし、そこまで細かい操作は不要なはずですが、相手は魔物ですからねぇ……」
左右が逆転するこちら向きの操縦に苦戦している男性陣に、勇が声をかける。
そういえば自分も小さい頃に遊んだラジコンカーやゲームで同じような苦労をしたなぁ、としみじみと思いだしていた。
「さて、午後からは二チームに分かれてテストしましょう。フェリクスとリディルは今と同じ機体、マルセラとティラミスは速度上限を上げたものでお願いします」
「「「「了解!」」」」
「では私は弾頭の開発に取り掛かるので、皆さんはしばらく操作訓練をお願いします。慣れてきたら、他の騎士や兵士の皆にも訓練させてください」
「承知しました!」
自動操縦ではないため魚雷一つに付き一人が操縦しなければならないし、船上では基本的にローテーション勤務だ。
操縦者を限定すると安定した運用が出来ないため、操縦できるものの数は多ければ多いほど良い。
操縦機構に問題が無い事は分かったためテストと訓練は騎士達に任せて、勇は直接打撃を与える部分の開発に取り掛かるのだった。
◇
ドッパーーーン!!
マツモト領の海沿いにあるメルビナ村から少し離れた海岸。その沖合五十メートルあたりで、爆音と共に大きな水柱が上がった。
「こいつぁとんでもないの……」
「ちょっとやり過ぎましたかね……」
「これで五つぶんだっけ? 凄まじいね……」
「うにゃっ。うにゃにゃっ!」
海岸からその様子を見ていたエト、勇、ヴィレムの三人が、自分たちでやったにもかかわらず顔を引きつらせる。
爆発の余波でザブザブと押し寄せて来た波に驚いたのか、足下では織姫がぴょんぴょんと跳ねまわっていた。
魚雷の弾頭開発に入ってから三日。いくつかの試作弾頭を持ち出してテストを行っているところだ。
今回勇が考えている弾頭は大きく二種類。そのうちの一種類が、今しがた水柱を上げていた爆裂弾頭である。
地球の魚雷と同じように、爆発によって相手に打撃を与える兵器だ。
爆裂玉をベースにしており、爆裂玉が時限式で爆発するのに対して、こちらは感圧魔法陣を利用して着弾時に爆発する仕組みになっている。
その上で、前回の戦闘時に爆裂玉ではあまりダメージを与えられていなかった点を考慮して、威力を高めるための改造も施されていた。
「ここまで威力を上げると、自爆が怖いですね」
「転覆まではいかんだろうが、この距離でも結構揺れるぞ、こりゃあ」
「そうですね……。通常弾は三つぶんにして、これはいざという時用に少数だけ積んでおきますか」
フェリクスとレベッキオの言葉に、勇が頷く。
三つとか五つというのは、爆裂の魔法陣の数だ。
爆裂の魔法陣は爆発力や範囲を変えることが出来るのだが、その上限は決まっており、単体ではそれ以上の威力が出せない。
であれば複数の魔法陣を実装して同時起動してやれば威力が上がるのでは? と言う単純な理論に基づき開発されたのが、多重実装爆裂魔法陣である。
相互に干渉しあうことによるロスもあるだろうが、効果としては十分。
むしろやり過ぎると近距離では自爆が怖くて使えないため、通常運用する物は魔法陣三つぶんを目安とする事が決まった。
ちなみに地球の魚雷であれば、威力を上げようとした場合炸薬の量を増やすことが基本となる。
そうすると高威力の物ほどより大きく重くなり、それを動かすための機構や燃料も大きく重くなってしまう。
しかしこの世界で威力を上げるために増やすのは、魔法陣と魔石くらいだ。
どちらも増えた所で大した重さにはならないため、威力を上げても魚雷そのものの大きさが変わらない。
積載量に制限がかかりやすい船舶においては、大きなメリットと言えるだろう。
ただし、あまりに小さくすると水の抵抗などの外的影響を受けやすくなるため、程々の大きさが必要なあたりが兵器開発の難しいところだろう。
「さて、次はこっちの方のテストですね」
爆発の余波による波が落ち着くのを見た勇が、傍らのラックに積んであるもう一種類の魚雷をポンと叩く。
先程試していた魚雷は、先端がやや丸みをおびた地球の魚雷っぽい見た目のものだったが、こちらの魚雷は少々見た目が奇抜だ。
先端部分が魚のカジキのように尖っているのだ。
「ロッペンさん、準備はいいですか?」
「おう。バッチリ持って来てるから、後は設置するだけだぜ」
勇から声をかけられたロッペン―クラウフェンダムの冒険者ギルドサブマスター―は、立てた親指で少し離れた所に停めてある荷馬車を指す。
勇からの依頼で、とある魔物の素材を運んできてもらっていた。
マツモト領にも冒険者ギルドはあるのだが、クラウフェルト領と比べて魔物の数も冒険者の数も少ないためだ。
「では、皆さん準備をお願いします」
「「「「「はっ!」」」」」
荷馬車に掛けられているシートを少しめくって中を確認した勇が指示を出すと、二体の魔法巨人と共に何名かの騎士と兵士が一斉に動き出した。
「さてさて、刺突雷撃弾頭の方はどうでしょうかね……」
準備が始まったのを見届けた勇は再び先の尖った魚雷に目をやりながら、そう独り言ちた。
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