●第279話●未来への投資
本日(3/12)、コミカライズ版2巻が発売となっております!
次にテストを行うのは、勇の台詞通り刺突型の魚雷だ。
相手の身体に鋭く尖った切っ先を刺し、そこからさらに雷撃を見舞う事で相手の体内にダメージを与えるのが目的だ。
もっとも雷槍の水中版のようなものなので、だったら雷槍で良いのではと言う話になるのが道理だろう。
ではなぜわざわざ魚雷を開発するのか? 大きく理由は二つある。
一つ目は命中率の問題だ。
水圧が無い分高速で飛ばすことが出来る雷槍だが、距離が離れると中々当たらない。
まともに空中制御できるような技術力は無いし、可能だったとしても速過ぎてまともに人力で制御するのは困難だろう。
また、水中よりも空気中の方が動きの自由度が高く素早く動けるので、相手も躱しやすくなる。
魚雷でも似たような課題はあるのだが、操縦で補正できる範囲が大きい上相手の動きも遅くなるため、相対的に当たりやすくなるはずだ。
そして二点め。
どちらかと言えばこちらが致命的なのだが、どうやら海竜は水中より空気中の方が防御力が高そうだと言う点である。
先の争いで、雷槍は海竜の鱗に弾かれていたように見えた。
竜種なので当然鱗も硬いのだろうが、どうやらそれだけでは無さそうなのだ。
どうやら体表に何らかの土属性の魔法による防御効果が発生していたのを、勇の目が捉えていたような気がしたのだ。
当時は半ばパニック状態だったので見間違いかもと思っていたのだが、後の反省会で出てきた情報と組み合わせることでその可能性が高くなった。
先の戦闘の最終盤で手持ちの武器類をありったけ打ち込んだ時、流れ弾的に海中に放たれた雷槍が海竜に刺さったらしいのだ。
近距離かつ水面下の浅い位置ではあるが、抵抗によって減衰したはずの雷槍が刺さったのである。
おそらく水中では土属性の魔法と相性が悪くその防御効果が低いか、替わりに別の属性魔法が覆っているのではないのか、と言うのが勇の見立てだ。
もちろん勇達にも確証は無いので雷槍にも手を入れるつもりだが、刺突型の魚雷にも期待したいところである。
「イサム様、的の準備が出来たっす!!」
勇がこれまでの経緯を振り返っていると、魔動水上バイクで少し沖合にいるティラミスから声が掛かる。
「こっちも準備は出来とるぞ」
それに続いて、桟橋で魚雷の発射台の調整をしていたエトからも声が掛かった。
「ありがとうございます! では早速試してみましょうか」
二人にそう答えた勇が、あらためて沖合十五メートルくらいの所にある大きな的に目をやった。
先程実験していた爆裂弾頭とは違い、広範囲に影響は出ないため的は比較的岸から近めだ。
的に貼り付ける“仮想海竜”の魔物素材が中々に大きく、魔法巨人を使って設置したい事も、近め=浅いところに的を置いた理由である。
「では、行きますっ……。 さん、に、いち――」
勇は刺突魚雷をセットした発射台が桟橋から沈められたのを見て、少し離れてから発射用の魔石に触れた。
ボボンッ!
「うわっ!」
「うにゃっ!?」
水深二メートル程の所で発射されたため結構な量の水飛沫が飛び散り、勇やその頭に乗っていた織姫が水を被る。
そんな事はおかまいなしに、シュボボっとくぐもった音を海面まで轟かせた魚雷は、航跡を残しながら真っすぐに的へと向かっていく。
ドゴンッ バチバチバチッ!!
そのまま鈍い音をさせて的へ命中すると、的の芯のあたりから青白い火花が飛んだ。
しばし様子を見て、それ以上動きが無い事を確認すると、ティラミスが水上バイクで的へ近づいていく。
マルセラの操縦する魔法巨人も、股下辺りまで水に浸かりながら的へと向かった。
「おお~~、見事にぶっ刺さってるっす!!」
マルセラが海面すれすれまで引き上げた的を見て、ティラミスが目を丸くする。
一五〇センチメートル程の長さのある魚雷。さらにそこから二〇センチある切っ先が、見事にゴツゴツとした的に半分近く刺さっていた。
「へぇ、ロックスコーピオンの殻にしっかり刺さるたぁ、大した威力だなぁ」
ボートに乗って状態を確認したロッペンが溜息をもらす。
ロックスコーピオンは、陸生の魔物の中でも硬い殻に覆われていることで有名な魔物の一つだ。
通常の武器ではまともに傷をつけることは出来ないので、魔法で倒すか打撃武器を使って倒すことがほとんどらしい。
より上位のサソリ系の魔物だったり、亀系の魔物の中にはもっと硬い魔物もいるそうだが、個体数が少ないため手に入りにくい。
ロックスコーピオンもありふれた魔物ではないが、硬い魔物の中ではまだ比較的手に入りやすい魔物だ。
刺突魚雷の威力を試すために、この殻をクラウフェンダムの冒険者ギルドにお願いしていたのである。
「今回ので推力は半分以下ですからね。多分全力であれば根元まで刺さるはずです」
「これで半分以下か……。さっきの爆裂系のやつより随分でけぇくせに速いとはなぁ」
「こっちは刺さらないと意味が無いですからねぇ」
爆裂系の魚雷は、着弾さえすれば速度はほとんど威力には関係が無い。
速度を上げるのは、あくまで相手に当てやすくするのが主目的だ。
対して刺突魚雷はほぼ物理的な攻撃なので、速度と重量が威力に直結する。
そのため、爆裂弾頭を使う魚雷よりも二回りほど大きく重くなっていた。
比重を重くしても良ければ小さいままで重くする事は簡単なのだが、それだと直進させることが難しくなるため大型化して重量を稼いでいる。
そしてそれを速く動かせるように、ウォータージェットが二門装備されていた。
さらに先端に取り付けられた切っ先には、魔剣に使われている魔法陣が最大効果で付与されている。
現時点の手持ちのカードを最大限詰め込んだ兵器だ。
「よし、これなら何とかなりそうな気がしてきたぞ」
ロッペンと同じ船から刺突魚雷のテスト結果を見た勇が、嬉しそうに小さく頷く。
「さて、となるとあとはそれぞれの弾頭をどのタイプの本体と組み合わせるかのテストだけだな。それで魚雷については一段落だ」
「あん? まだ本体が色々あんのか?」
「ええ。本体の方は三タイプ試作してありますよ。バランス型、速度重視型、静音型の三タイプです」
「マジかよ……。完全に武器商人だな……」
勇の物言いに呆れるロッペン。
「よくもまぁ、ここまで色んなもんを考えるもんじゃな。あの海竜も可哀そうにのぅ……」
「ええ。海竜に効果的と言う事は、相手が人だったらどれも必殺の威力だという事でもあります……」
そんな勇の様子を桟橋から見ていたエトとフェリクスが、お互い肩をすくめながら苦笑いを浮かべた。
こうして魚雷の開発に目途をつけた勇は、その後魔砲類の改修や防御策の考案にも着手する。
そうした兵器開発と並行して、農閑期となるこの時期に動き始めた領地発展の為のプロジェクトがあった。
◇
「バルバラせんせー、できましたー!」
「あら、早いですわね。どれどれ……。うん、よくできていますわね」
「ほんとー?」
「ええ。十問中八問は正解ですわ。この問題とこの問題をもう一度やってごらんなさいな」
「はーい!」
ヴェガロアの街にある大きな教会。
その敷地の一角に建てられた建物で、十歳くらいの少女が妙齢の女性に何かを見せながら話をしていた。
少女が手に持っているのは、小さな黒板のようだ。部屋を見てみると、その一面にも大きな黒板が掛けられていて、そこにはいくつもの数字が書かれていた。
部屋の中には三十名程の子供たちが、何列か並べられた長机に座っている。年齢には多少のバラつきがあるようだ。
皆先程の少女と同じ小さな黒板を机に置いて、真剣な表情で何かを書いている。
「せんせー、オレもできた!」
席に戻った少女と入れ替わるように、大きな黒板の前に座る女性の元へ一人の少年がやってきた。
自慢げに、手にした小さな黒板を差し出す。書かれていたのは二桁の足し算のようだ。
「どれ……。うん、マルテもよくできていますわ。九問正解ですわね」
添削をした女性――メタルリーチ研究所長の肩書を持つバルバラが添削して黒板を返すと、マルテと呼ばれた少年が先程の少女の方に目をやる。
小鼻を膨らませ誇らしげな表情を見せるが、少女はやり直しに集中しているようで全く見ていない。
そんなマルテの様子に小さく苦笑しながら、バルバラが言葉を続ける。
「では、間違えたこの一問をもう一度やってごらんなさいな」
「えーー!? 九問もあってたんだからいいじゃんー」
やり直しの指摘にマルテが頬を膨らませる。23+38の計算で、繰り上がりを間違えたようだ。
「いけません。計算は必ず完璧である必要があるのです。そうでないと、大変なことになりますわよ?」
「えーー、そんなことないとおもうけどなー」
やり直すのが嫌なのか、なおも食い下がるマルテ。
それに対してバルバラは、怒るでもなく諭すように語りかける。
「では、あなたが小麦を金貨二十三枚分とリンゴを金貨三十八枚分売り、計算を間違えて五十一枚しか金貨を貰わなかったらどうしますの? 金貨十枚分も大損ですわよ?」
「うっ、それは……」
「たまたま間違えた一回が重要な場面である事などよくありますわ。いえ、そもそも間違いに気付けず損をし続けることにもなりますわね。ですから、計算と言うものは完全に出来るようになるまでやる必要があるのですわ」
「……わかりましたー」
バルバラの説明でようやく得心したのか、マルテ少年は大人しく黒板を持って自席に戻っていった。
「バルバラさんは、先生に向いているのかもしれませんね」
「そうだね。感情的にならず、きちんと言葉で説明が出来るっていうのは中々難しいからねぇ」
そんな子供たちとバルバラのやり取りを部屋の外から見ていたアンネマリーと勇が、満足そうな表情で言葉を交わしていた。
リーチ愛が過ぎて追い出される形で家を出たバルバラだが、元々は男爵家のご令嬢だ。教師としての資質は十二分だろう。
冬小麦の種蒔きを終えて農閑期に入った十一月の中頃。勇は教会の建物を使ってある試みを始めていた。
――学校の開校である。
爵位を貰って領主となる事が決定した時点で学校を開くことは考えていたため、司教のベネディクトに頼んで教会の新築時にそれ用の建物も建ててもらっていたのだ。
この世界にも学校はあるのだが、事実上貴族かお金持ちの子息専用のようなものである。
学園と呼ばれるそれは王都にしかなく、通うのには相当なお金が必要となるためだ。
平民が学園へ行けるのは、特待扱いとなる教会での鑑定で珍しいスキルがあった場合や、領主や代官に突出した才能を認められた場合のみだろう。
平民は十歳くらいで仕事を手伝うのが当たり前になっているので、必要な知識や技術のみを各家で教えることが当たり前だ。
加えて下手に平民に知恵を付けられては困ると考える貴族もまだまだ少なからずいるため、この世界の教育環境はずっと変わらないままであった。
しかし勇が学校を作ろうと考えたのは、そんな状況を問題視したためではなかった。
急に教育だけを変えたところで、その受け皿となる社会の体制が整っていなければ意味がない。
社会情勢に合わせて変えていくか、国を統治する者が目指す姿を実現するために制度を変えるか――。
いずれにせよ一男爵領から変えられるようなものではないだろう。
ではなぜか? と言ったら、単に自領の発展のためである。
それも勇がいなくなった後の事を見据えた長期視点で、だ。
マツモト領は、勇のチートじみた能力で生み出された数々の魔法具のおかげもあり、当面財政面での不安は無い。
しかしそれは領としての自力とは言えない。あまりに勇への依存度が高すぎるのだ。
勇亡き後も領地の人々が困ることが無いように、今のうちから色々と試しておこうというのである。
もっとも、何をどこまで教えるべきなのかは勇にも分かっていない。
下手に魔法陣の意味や旧魔法に使う魔法語を教えたりすると、他領とのバランスがおかしくなり過ぎる。
そんな事もあり、まずは当たり障りのない内容かつミニマムスタートで、試験的に開校したところだ。
プロジェクトの総責任者はアンネマリー。教師第一号として白羽の矢を立てたのがバルバラだった。
カーン、カーン、カーン
その後三十分ほど計算の勉強を続けたところで、午後最初の鐘の音が鳴り響いた。
午前中は家の手伝いなどもある事から、今のところ学校は正午を始業としている。
「よっしゃー、おわったー」
「つかれたー」
座学を終えた子供たちが、口々にそんな事を言いながら伸びをする。
皆何かから解放されたような清々しい笑顔だ。
前半の授業は最低限の身に付けたほうが良い、読み書きと計算を全員が座学で行う。
勉強する習慣のないこの世界の子供たちの多くは、この座学が苦手なのだ。
「せんせーさようならー」
「マルテ、いこうぜ! きょうはきしさまがきてくれるらしいぜ!」
そして後半の授業へ向けて、皆が小走りで教室を出ていく。
後半は、子供たちが楽しみにしている授業。いわゆる職業訓練に近い選択授業だ。
週1~2話更新中。
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