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やさぐれ巫女は祝婚歌を歌う  作者: Eμ(エミュー)
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第七話 (ある意味)死に至る病

 その夜、リルが食堂での一人きりの夕食を終えて自室に戻り湯浴みも済ませてから暫くすると控えめなノックの音とメイアの声が聞こえてきた。


「リル様、メイアです。昼間お話ししたことでお話があるのですが」

「お入りなさい」

「はい、失礼致します」


 部屋に入ってきたメイアはリルに近寄るとそっと囁くように伝える。


「フレデリック様が先刻ケイト先生のお部屋に向かわれました。先程メイドが食事をお部屋に運んでおりましたのでそろそろリル様も向かわれるとよいお時間かと」

「わかりました。フレデリック様は今夜もその……例の発作、とやらを起こしそうなの?」

「はい、まず間違いなく」


 小さく頷いて部屋を出たリルはメイアに先導される形でフレデリックのいる「ケイト先生の部屋」へと向かったが、部屋の手前の廊下の曲がり角の所まで来ると突然メイアが足を止めた。


「ではリル様、私はここでお待ち致しておりますのでどうか後はリル様ご自身の目でお確かめ下さいませ」


 何やら悲愴な顔をしているメイアを安心させるようにニッコリと微笑んでみせるとリルはゆっくりとケイト先生の部屋へと歩き出した。


 抜き足差し足忍び足で足音を立てずに部屋の前につき、扉をそうっと開けて中の様子を伺うとなにやらブツブツと独り言のような言葉が聞こえて来た。


「……」


 何を言っているのかよくわからないのでもう少し扉を開けてみると室内はランプをつけている様子はなく、どうやら蝋燭をつけているようである。

 

 何故に蝋燭? と不思議に思いながらも部屋の暗さに目が慣れてくると徐々に中の様子がわかるようになった。

 本棚が両脇の壁にあり正面にはカーテンが閉められている窓がある、さほど広くない部屋。

 その部屋の窓の側にはメイドが運んできた今夜の夕食が載っていたテーブルと椅子が二脚あり、夕食の横に置いてある一本の蝋燭の炎がゆらゆらと揺らめいて部屋の中を不規則に照らしている。


「…で…が……」


 部屋の様子は大体見て取れたし先程よりは声が聞こえるようになったが、相変わらず肝心のフレデリックの姿が見えないのでリルはあとほんの少しだけ部屋の扉を開けようとしたのだが


 ――ギィィィィッ!――


 と、思わず大きな音を立てて扉を開けてしまった。


「誰だっ!!」


 その音を聞いて部屋の窓の閉じられたカーテンに隠れるように立っていたフレデリックが現れた!


「す、すみません! 勝手にノックもなしに入ってきてしま……え、え……? あの、フレデリック様……フレデリック様、ですよね? その格好は一体……え?」


 リルは謝ろうとしてそこまで言うと思わず絶句してしまった。

 確かにそこにフレデリックはいた。いたのだが、カーテンから現れたその姿は


 目が悪いわけでもないのに片目には眼帯をつけて、怪我もしていないのに腕と頭には包帯を変な形で巻いて、腰の辺りにはおよそ実用性のない何やらよくわからないベルトと鎖をジャラジャラとつけて、さらにはボロボロのマントを纏った全身黒ずくめという何とも妙な格好であった。


 あれ? まてよ? とリルはふと思い出した。


 なんだっけ、なんか昔ばっちゃがこんな格好のことを教えてくれたような気がするぞ?なんていったかな? ええと――


「ああ、リル。我が運命の女(ファム・ファタル)よ、遂に私の呪われたこの姿を見てしまったのだね」

「……はい?」


 突然のフレデリックの意味不明な発言にリルの思考がストップする。


「くっ……ああ、この右目が、邪眼がうずくのだ! すまない、リル!」

「眼帯つけてるの左目では――」


「この漆黒の闇にあなたを巻き込みたくは無かったんだ!」

「それは単に部屋に蝋燭が一本だけだから暗いんじゃ――」


「くっ! 落ち着け! 俺の腕! まだその力を解放する時ではない!」

「服の上から包帯巻いてても意味があるとは――」


「かような呪われし晩餐をあなたにだけは見られたくなかった! この、魔物の生き血を啜る私を!」

「いや、そのグラスに入ってるのって赤い野菜のジュースですよね……って、そろそろ私の話を聞いてくれませんか?」


「ああっ! 闇の勢力の力が私に魔獣の肉を食べろと命じてくるのだ!」

「だから! そこのテーブルの上にあるのは普通にただのお肉のソテーですよね!? てかいい加減人の話を聞きなさいよ! この『とーへんぼく』!!」


 ばちーん!!


リルが大声と共にフレデリックの頭を張り倒すと、彼は暫しぼうっとした後に「とーへんぼく……それは知らない単語だ」と呟いた。

 

 事ここに至りリルはやっとかつて彼女の育ての親であったばっちゃが教えてくれたことを思い出す。


「全く、なんと言うことでしょうか。フレデリック様――あなた『ちゅーに病』でいらしたのですね!?」


「ちゅーに病……中二病! そうだ! 中二病だ! 我が師はこれを確かに『中二病』と呼んでいた! ああ、リル! あなたにはやっぱりわかるんだね。それでどうだったかい!? 僕の中二病は格好よかったかな?」

「……は? ちゅーに病が格好いい……?」


 興奮しているフレデリックはリルが怪訝な顔をしていることに気がつかずなおも話し続ける。


「いや、それよりももっと大切なことがあったね。リル、中二病まで知っていると言うことはあなたも『異世界転移者』で間違いないんだよね? ああ、隠さなくても良いんだよ? 我が師は他にも異世界の言葉を教えてくれたからわかるんだ。うれしいなあ、やっと話が合う女性と巡り会えて――」

「え、ええと、ちょっと待って下さい」


 リルは怪訝な顔から一転、今度は本当に意味がわからないという顔になってフレデリックに逆に尋ねた。


「取りあえずちゅーに病ことは一旦横に置いてですね。私が『異世界転移者』ってどういう意味ですか? 私は生まれも育ちもこの国ですよ?」

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