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ーここは、何だ
ー真っ暗じゃないか
ーいや、違う
ー目を閉じているんだ
ドクンドクンドクンドクン
ーこれは、心臓の音?
(魔女狩りって知ってるか)
ー誰だ
(これは、正当な裁きだぜ)
ーこいつら、僕にしゃべってるわけじゃないぞ
ドッドッドッドッドッドッ
ー急に音が速くなった
ー怖い
ーどうして声がでないんだ
ーどうなってるんだ!手足の感覚がまるでない
ーおい、誰か、誰か
ー
ーくっ
「助けてくれー!!!!!」
目を覚ますと、教室に居た。視線が痛い。生徒から今だかつてないほどの注目を集めている。
立ったまま眠っていたのか。
そして、彼らが、壇上の僕から一斉に目を背けた時、何処からともなく試合終了のゴングが聞こえてきた。
短い教師人生でした。
☆☆☆
校門を出て、どっと疲れが押し寄せてきた。
しをり先生の計らいで、なんとか始末書の提出のみで済まされそうだ。後は、保護者の反応で決まる。
しをり先生といえば、あのおかっぱ少女だけれども、彼女に、双子の姉妹がいるという話は聞いたことがない。昨日、有栖川から聞いた話によると、先生の戸籍や出身中学校のデーターベースからは、目星い情報が得られなかったようだ。(敢えて、どうやったとは聞かない)
バイブレーション?スマホだ。
「おぉ、どうした」
「あなた、私に二度も電話させておいて、その態度は何?」
鞄に入れていたものだから気がつかなかった。そうは言っても、スマホに触れられる状況ではなかったのだが。
「すまん。今やっと落ち着いたところなんだ」
「そ、いいわ」
いいのか。
「それより、あなた、感謝なさい。例のライターの所在が分かったの。雑誌の出版元が倒産していて探すのに苦労したわ。約束は取り付けたから、明日、お宅に伺ってちょうだい」
「僕が?」
「なら、誰が行くの?」
馬鹿なことを聞いた。
☆☆☆
対応してくれたのは、奥さんだった。過酷なジャーナリストの妻というイメージにそぐわない、おっとりとした中年女性だ。
以前、旦那様にお世話になった仕事仲間だと告げると、すんなり部屋に通された。こちらが心配になるくらいだ。
仏壇には、白い歯を見せて笑う彼が写真立てに収まっていた。ソース顔の粋な男性だったことがうかがえる。
三木馨、58歳。彼は、一年前に病死していた。
僕が、一心に手を合わせるところを見て、奥さんは、彼のことを思い起こしているようだった。
気はひけるが、仏壇の間から襖を隔てた隣の部屋で、お茶に呼ばれることにした。
彼女は、よくしゃべった。
“結婚当初、彼の好き嫌いが酷くてよく喧嘩したこと”
“息子が彼の仕事を嫌っていたこと”
“晩年は、いつも病院食の不満をもらしていたこと”
“最期の瞬間に立ち会えなかったこと”
僕が、玄関のドアを開けたのは、もう、日が傾きかけた頃だった。
夕飯を勧められたが、さすがに断った。
ドアが閉まったこと確認してから、手元の資料を脇に抱え直す。旦那さんの扱った事件を再調査していると借りてきたのだ。
コンクリートの階段を降りて、団地の広場に出ると、あたりは橙色に染まって、あちらこちらに遊具の影を伸ばしていた。
その時、深々と帽子を被ったスタジャンの青年とすれ違ったのだが、特に気に留めることはなかった。




