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トラックは、隣のクラスの佐藤先生が従兄弟から借りてきてくれた。

今、数学科の永倉先生が、ワゴンに人員を積んで、こちらの新居に向かっている。

僕がトラックの助手席を降りると、しをり先生は、後方のセダンから小走りで駆け寄ってきた。

私服の彼女は、一段と魅力的だ。ギンガムチェックのパンツにニット。耳の横で一つに束ねた髪が柔らかなカーブを描いていた。家に、こんな奥さんがいれば、いくらだって働ける。


「休日にごめんなさい。力になるどころか、私が助けられちゃってるわね」


しをり先生は、海外出張中のフィアンセの帰りを新居で待つことにした。

誰が言い出したか、しをり先生の婚約に涙をのんだ野郎共(若手男性職員)が集まり、僕たちの手で送り出してあげようと、引っ越し業者を決めかねていた彼女に候補を名乗り出たのだ。


確か、このフィアンセというのは、僕と同世代だと聞いている。

嘉藤真人かとうまひとだったか。

13年前、彼女の受け持った生徒だというから、衝撃を受けた。

同窓会で、感動の再会というやつかな。

あぁ、しをり先生の初々しい教師っぷりを想像してしまった。


メタボ腹の佐藤先生がマンションの入り口から息急き切って出てきた。すごい汗だ。


「洗濯機が入らないって。今、電機屋さんが」


「えー。今、行きます」


しをり先生は、血相を変えて、高層マンションの自動ドアを駆けていく。


白を基調としたシックなデザイナーズマンション。管理の行き届いた花壇には観葉植物が青々と育ち、地下には立体駐車場がある。


片や、憧れの人とバルコニー付マンションで新婚生活。片や、寝る間を惜しんで引きこもり少女と探偵ごっこ。


世の中、アンフェアだぜ。


トラックの荷台に持たれて、ふっと息をついた。


バサ。


やべっ。弾みで荷台の段ボールから冊子が落ちたらしい。砂利を叩きながら拾うと、中学の卒業アルバムであることがわかった。興味本位で赤紫色の表紙を開けると、突風によって、たちまちページがまくられ、ある箇所でパタリと止んだ。


左から三列目の彼女のくしゃっとした笑顔に目が止まる。そこには、おかっぱ頭の少女がいた。四角い写真の下に、日下部しをりと書かれていた。


いきなり、尻ポケットのバイブレーションが鳴り出す。僕はぶるんと肩を震わせた。着信者を確認して、開口一番に叫ぶ。


「昔のしをり先生と、おかっぱの少女が瓜二つだ」


これについて、有栖川は、今までどうして気づかなかったのかと、さんざん僕を攻め立てた。

男というのは、女の子が髪と眉毛を整えはじめただけで、もう誰とも見分けがつかなくなるものだ。


「こちらも、新情報よ」


やっぱり、抑揚のない口調は変わらないが、きっと心が踊っていることには、察しがつく。


「気になるゴシップ記事を見つけたの」


「どんな?」


彼女は、一拍、間をおいてから答えた。


「魔宴」


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