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永遠の時の中で  作者: スピオトフォズ
第七章 ジルド過去編
70/110

第70話「運命の日」


前回のあらすじ……。


担当:ジルド・クロームド(10年前)

ラインが帝都へ行って1年。

オレは、仕事の都合で帝都へ立ち寄ったため、ついでにラインを訪ねてみた。

少々落ち着きを見せたと思えばなるほど、子供が出来たせいか。

ラインの息子は少々気になるが、掟がどうのと結局会わせてもらえなかった。

律儀な奴だ。

そう言えば、チェスの対戦中、ガルディア神話について話してきた。

その話を聞くラインはどこか真剣な表情だったが何のつもりだろうか。

オレは、無意識に感じていた胸騒ぎを、必死に気付かないふりをしていた……。



――現在:アーク視点――



「へぇ~、って事は俺、その時村でジルドとすれ違ってったのか……」

 しかしなるほど、親父の知り合いだったにも関わらず一度も俺が顔を見たことないのはそういう理由だったのか~。


「まあ結局、ラインの意思に反してこうして面識を作った訳だけどな」

 それをジルドは、自称気味の口調で言う。


「……まあそれは今更だな」

 って事は、もしかして俺の母さんにも会った事があるのか?

 ……と、言おうとした時だった。


 一つの矛盾に気がついた。


「……なぁジルド。ジルドと親父が出会ったのは、13年前なんだよな?」

「ん? いきなりどうした?」

 なぜかは分からない。

 だが、この疑問を口にするにあたって、急に悪寒が走ってきた。


「俺は今18歳。って事は、俺は親父の記憶喪失の前に生まれたって事になるよな?」

「あ、ああ……それが?」

 なにか、触れてはいけないものに、触れようとしているような……。


 でも、口に出せずには居られなかった。

 俺は微かだけど、生まれてからの記憶はある。でも、帝都以外で育った記憶は無い。


 ……これは、明らかにおかしい。


 だってそうだろ!?

 親父とジルドが出会ったのが13年前なら、俺はその時5歳だ!


 でも俺は5歳の時鉱山都市デルヴァにいた記憶も、親父以外の男といた記憶もない!!

 俺は生まれてからずっと帝都にいた……。


 その事は、エルとリードが証明してくれるはずだ、今は居ないけど。


 でも、ジルドの話が本当なら、親父は13年前のNC2096年から2年間、デルヴァで過ごしていた。

 この矛盾は、一体……。


「おいジルド……俺は――うッ!!」

 今考えていた疑問を、ジルドにぶつけようとした瞬間だった。

 突然、頭が割れるような頭痛に襲われた。


 ガンガンガンと、頭に何かが響く。

 何も考えている余裕は無い。

 今までにない生命の危機感。


 ――死ぬ。


 そう感じた時、今までに無い程クリアに、頭が冴え渡った。

 その時、俺の脳味噌の思考回路は一瞬だがその能力を100%発揮し、全てを理解した。


 ――これは、呪いだ。


 『ラプター』の力で能力を最大に発揮した俺の頭は、そう結論付けた。

 俺の矛盾した出生にかかわる言葉を他人に伝えようとすると、それが引き金となって死に至る。


 そういう呪いだ。

 だから、俺は強い生命の危機を感じ、無意識領域でラプターの力を最大に引き出した。


 それが逆に、肉体と脳の限界を発揮させる事で、俺は死から脱出した上に、頭痛の真相を暴けた。


「――ッ!! はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…………」

 時が動き出した。

 そんな奇妙な感覚と同時に、俺はラプターの覚醒モードから脱出する。


 どうやら呼吸すら忘れていたようで、肺が新鮮な酸素を求めて激しく活動する。


 うわぁ……なんだ今の、なんだ今の、なんだ今の!!

 マジありえねぇ……どんな超設定だよ俺……。


 多分、現実的には一秒も経っていない。

 でもなんか、相当すげぇ事考えてた気がする……。


 何が呪いだよ、そんな馬鹿げた話……。

 というか、さっきまでの俺はホントなんだったんだ?


 まるで別人だった。

 全ての疑問が解けたような感覚だったが、今となってはその事自体が疑問だよもう。


「……アーク? 大丈夫か!? 凄く苦しんだように見えたが……」

 ……そうだった、ジルドいるんだっけ。


「ああー……大丈夫大丈夫。ちょっと……あの……頭攣っただけだから」

「……頭って攣るの?」

 何を言ってるんだ俺はぁぁぁーーー!!


「ははは……とにかくウン、大丈夫だから、続きお願い」

「は、はぁ……」

 とにかくこの謎の覚醒現象は後でじっくり整理してみよう……。

 まずは、ジルドの話を聞いてからだ!



――8年前・NC2101年・帝都商業区――



 あれからオレは、仕事の都合で帝都に赴く時は、ついでにラインの顔を何度か覗いていた。

 今日も先ほど、ラインの顔を見て談笑をした帰りだ。


「イオメタル2300kgで20万Jだぁ? 換金率悪すぎだろ……前回の3%も下回ってるぜ!?」

 時刻は既に夜。

 オレの本来の仕事である鉱山勤務からはちょっと離れて、今は手に入れた各種鉱物の換金の書類の受け取りに来ている。


 鉱山都市デルヴァで採掘した鉱物は、大抵は別の都市に売って金に変わる。

 その金がオレ達の給料になるわけだが、あまり景気が良くないのか、最近は帝都での換金率も減っていく一方だった。


「そうは言っても、あいにくこっちも火の車なんでね」

 換金所の窓口にいるこの男とは、何回も行くうちにだいぶ親しくなった、名前までは知らないが。


「……戦争、か」

「よく分かったな。やっぱこのピリピリした空気はあっちの方にも広がってるって事か」

 海を隔てた隣国『セトラエスト王国』との空気が険悪になっているのは、よほどの阿保で無ければ気付く。


「まっ、どうせ決まっちまってる事だ。文句言ってもしゃあねぇしな。んじゃな」

 換金率は事前にギルド長と換金所の所長が決めている。

 ここで文句を言って変わるというものではない。


 そんな事を考えながら、オレは換金所を出た。


「帰るか……」

 気付けば、太陽は完全に沈み、月明かりが町を照らす。

 こんなに遅くなる予定は無かったため、松明の類は持って来ていなかったが、今夜は月明かりで十分帰る事が出来そうだ。


 そんな事を考えながら、俺は馬車の発着場まで向う。

 この時間だと、発着場で馬車を出しているのは工業区ぐらいだ。


 工場は夜中でも活動しているものもあるので、夜でも馬車を出しているのだ。

 ここから工業区に向かうには、城下町も通る。


 そのルートで歩いていたのだが、そこで意外な人影を見る。


「ライン……?」

 ラインだった。

 ラインは足早に城下町から“領域”の外へとつながる門を超えて行った。


「……なんだ?」

 その後ろ姿と、こんな夜中に外出するラインに何かの胸騒ぎを感じ、オレは後を追った。



――――



 別に尾行する気は無かったのだが、声をかけるタイミングを失ってしまい、暫く後をつけていた。

 この方向は……コダール遺跡か?


 帝都の古代文明運用に深く影響を与えた遺跡だ、確か。

 そんな所に何の用が……。


 と、ラインは急に足をとめた。


「……誰だ。帝都から後をつけて来ているのは分かってる」

 心臓が跳ね上がった。

 気付かれていた事に対してでもあるが、その声は鋭利な刃物のように鋭く、凄みがあったからだ。


「悪ぃ、尾行するつもりは無かったんだ。俺だよ、ライン」

 素直に姿を現す。

 別に隠れるつもりは無かったしな。


「…………まさか、聞いていたのか?」

 予想に反し、姿を現してもラインの警戒が解ける事は無かった。

 それどころか、鋭くオレを睨みつけていた。


「……何も。オレはただ、用事が終わり帰ろうとしたところに、たまたまラインの姿を発見しただけだ。別に後を付けるつもりは無かったが、声掛けるタイミングを逃した」

 このままだと雰囲気的に斬り殺されかねなかったので、正直に話す。

 いや別に隠す理由も無いけど。


 ただ、今のラインが纏っている空気は、異様だった。


「そうか……済まないな、変な疑いをかけて」

 ここでようやく、警戒を解いた。

 だが、その表情はいまだ深刻なものだった。


 いや深刻と言うよりは、どこか悲壮に満ちている。

 そう、まるで……。


「悪いがすぐ帰ってくれ。ちょっと、重要な用事なんだよ」

「嫌だね」

 キッパリと言ってやった。


「何!?」

 動揺するライン。


「ラインお前……一体何する気なんだ。“ラプター”も持たないで」

「ッ……」

 ラインはブラストレイズを持っていなかった。

 通常外には魔物が潜んでいる。


 二本のダガーは持っているようだが、わざわざ置いてくる意味がない。

 それに……。


「お前……死にに行くつもりだろ」

 ラインと面と向かい合って、オレはそう確信していた。

 かつての『迅雷作戦』の時、デルヴァは中継基地として機能していた。


 その時に親しくなった騎士の目は、みんな同じだった。

 高度な技術を持つ、“シャルル族”との戦争。


 絶望的な生還率を生み出したこの作戦だ。

 皆、命を捨てる覚悟があったのだろう。


 その騎士と、今のラインは同じ目をしていた。

 それが直感で分かったのだ。


「……なんで、分かっちまうんだよ」

 そういうラインの顔は、どこかふっきれたような表情だった。


「……話せよ、全部」

 今、何がラインを追い詰めて、何がラインを苦しめているのか、それが知りたかった。

 そして、出来るのなら、力になってやりたかった。


「…………分かった」

 その口から紡がれる話。

 その話が、オレの人生を変えてゆく事になった……。




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