↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後ノート〜翠明高校ライティング部〜  作者: やた
14.「繋ぐ言葉」 とデジタル広報作戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
98/103

01.秋風の演説

 十月下旬。体育館を支配する冷気は、夏の暑さを完全に追い散らし、床板から足裏を通して忍び寄る硬質な冷たさとなって皮膚に伝わっていた。


 放課後の全校集会。体育館のステージ上に設置された大きなマイクの前に立ち、凛とした姿勢で佇んでいるのは、三年の生徒会長・葛城鏡花だった。彼女が身にまとう制服の着こなしや、一切の無駄がない立ち振る舞いには、これまで翠明高校の頂点で組織を率いてきた圧倒的な存在感と気品が満ちている。


 マイクの金属部分に反射する天井灯の白い光。鏡花が口を開くと、スピーカーを通して静かな、しかし通る声が体育館の広い空間に染み渡っていった。


「本日をもって、私たち三年生による生徒会役員体制は任期満了となります。振り返れば、翠明祭をはじめとする多くの行事において、生徒一人ひとりの声に耳を傾け、実行に移す日々でした。私たちの掲げた『対話と変革』は、まだ道の途中です。しかし、その志を確かに受け継ぎ、さらに先へと進めてくれる新しいリーダーたちに、このバトンを託したいと思います」


 静謐な拍手が体育館を包むなか、鏡花が一歩下がり、後方に待機していた生徒たちが壇上の中央へと進み出た。


 壇上に上がったのは、生徒会長候補として立候補していた二年・滝沢怜央(たきざわ・れお)と、その役員陣だった。


 滝沢は、ブレザーのボタンをしっかりと留め、背筋を真っ直ぐに伸ばしてマイクに向き直った。その鋭い目元には、これから組織を背負って立つ者としての強い意志と、かすかな緊張が同居している。


「新生徒会長に選出されました、二年・滝沢怜央です。葛城前会長が築き上げてきた誠実な伝統を継承しつつ、私は『すべての生徒にとっての透明な学校生活』を目指します。校則の見直し、部活動への支援体制の強化、そして生徒一人ひとりの『声』を学校運営に確実に反映させる仕組み作り、それらを、口先だけでなく実行していきます」


 滝沢の演説は、飾り気のない、しかし事実と覚悟を端的に伝える硬質な言葉で組み立てられていた。過剰な情緒に流されることなく、論理的に「何をやるか」を提示する姿勢に、集まった生徒たちからは力強い拍手が湧き起こる。


 その滝沢の少し後ろ、広報役に選出された役員として一歩下がった位置に立っていたのは、一年の名取くるみだった。


 緑色のクラスTシャツを着ていた翠明祭の時とは異なり、きちんと紺の制服を着こなしたくるみは、胸元に「広報」と刺繍された新しい腕章を誇らしげに着用している。小柄な体躯に大きな瞳をキラキラと輝かせ、緊張で少し強張りつつも、どこか誇らしげな笑みを浮かべて全校生徒を見渡していた。


 その光景を、湊は体育館の壁際に並んだ1年C組の列の中からぼんやりと見つめていた。


(生徒会役員選挙……。言葉で人を動かし、組織を引っ張っていく場所)


 滝沢の堂々とした演説も、くるみの全身から溢れ出るような前向きな空気も、自分とはまるで無縁の輝きのように思えた。自分の胸の奥にあるのは、相変わらず掴みどころのない「空っぽ」な虚無感だ。自分は誰かを動かすような言葉も持っていなければ、指し示すべき未来のビジョンもない。ただ、季節の移り変わりに流されるようにして、ここに立っているだけに過ぎない。


 鏡花から滝沢へと、黄金色の金属製ネームプレートと生徒会鍵が手渡される。引き継ぎの儀式が静かに終わり、体育館に鳴り響く拍手は、一つの時代が終わり、新しい時間が動き出したことを告げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。