第五話 鉄のトトちゃん、猫の刻印で少年ジルを救っちゃう。
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トトちゃんが優しい!男前!
トトの涙がようやく落ち着いてきたころ、トトはスッと立ち上がり無言のまま工房の中に入って行った。
工房のドアは開け放たれていたので、中に入ることを拒否されているわけではないようだった。
私もトトの後について工房の中に入った。工房はいつもと変わらない。煤と埃の中に炎が爆ぜる音。
トトはまっすぐ炉の隣にある棚の上から救急箱を手に取り、私の方に振り返った。椅子に座れと視線で伝えてくる。私は軽く肯き、大人しく椅子に座った。
走っている時は夢中で気づかなかったが、右足のズボンの膝から血が滲んでおり、顔も擦り傷だらけ。見えない腹部や腕に、内出血や切傷がたくさんあった。
トトの琥珀の目の周りはまだ赤い。その瞳に心が沈む。彼女は救急箱から、消毒液や清潔な布切れ、薬、包帯など手際よく取り出している。
放置して椅子に座る私に向かって小さな声で、
「脱げ」
と、ひと言。
瞬間、顔面に血がのぼった。さっきまで泣いていた人物とは思えない、低く威嚇するような声だった。
「っ! トトちゃん! ……自分でできるから!」
両腕で身体を隠す私に、トトは「うるせぇ!」と一喝し、渋々、私は騎士団の服を脱いだ。
「……ひどい」
トトは眉をしかめ、また泣きそうな顔をした。私の胸がチクリと痛んだ。
丁寧に傷の消毒、薬を塗布し、包帯や布切れで手当てをしてくれた。火傷や傷を作ることは日常茶飯事なので、慣れた手つきで進めてくれた。
トトは黙ったままで、出血している傷を見つけると表情が曇った。私は彼女の指先が肌に当たるたびに、心臓が跳ね、温い感情が少しずつ溢れてきた。
トトの指先は、職人の手らしく傷だらけで、ハンマーを握りしめすぎたせいで皮膚が硬くなり、表面がザラザラしていた。エレノア様の細くて白い美しい指先とは全く違った。
「終わったよ」
「……ありがとう」
手当てが終わると、トトは救急箱を片付けて作業場へと戻っていった。
私は作業再開している彼女の背中をぼんやり見つめていた。心配をかけたこと、泣かせてしまったこと、情けない今の自分の姿。
炎の中にゆらゆらと幻が見えた。
ゆらゆら揺れてこのまま消えてくれたらいいのに。
視界もゆらゆらとぼやけてきた。
カツン、コツコツ。
トトが奏でる金属音で現実に戻ってきた。トトが作業台に道具を置き、私の方にゆっくりと歩いてきた。手には何かが握られている。椅子に座っている私は、自然と彼女を見上げた。
「……トトちゃん?」
トトがスッと私の手に何かを握らせた。
自分の手の中を見ると、そこには小さな革のベルトに紐が通され、ベルトの中央にトトが入れた猫の刻印があった。
「これ……猫?」
「そうだよ。ワタシのこと猫っぽいって、ジルよく言ってるでしょ。だから、それはお守り。ワタシがずっとジルを見張ってやるってことだよ。これがあれば、卑怯な剣を使わずにすむでしょ」
見下ろしてくる彼女はまだ怒っていた。それと同時に瞳は不安げに潤んでいて、私は声にならない吐息が漏れた。騎士のくせに、今日の私は死ぬほどかっこ悪い。
猫の刻印のお守りを握りしめた。
「……っつ……あ、……」
ようやく、私の瞳から涙が溢れてきて、トトがくれたお守りを大事に胸に抱きしめた。まだ出来たてのお守りは琥珀の火を吸い取り、温かかった。
「ありがとう。トトちゃん。ごめんね」
「そうだよ。死ぬほど感謝しろ」
トトはワンワン泣き始めた私の頭をグシャグシャと鳥の巣にしてケラケラ笑っていた。
私は、トトの顔を直視できなくて、この情けない顔を見られたくなくて、でもお守りは離せなくて、ただトトの腕の煤の匂いに安らぎを感じていた。
――グゥー
トトのお腹が鳴った。私は鼻声で笑い、
「トトちゃん、唐揚げ食べたい」
と言うと、トトも笑い、工房の中はたちまち、いつもの温かさで満ちていった。
ここまで、お読み頂きありがとうございました!
トトちゃんの男前具合に、きっと私もジルなら惚れるかな笑
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※画像はAI画像作製ツールを使用しています。




