番外編④ 指輪の猫がにゃあと鳴く
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トトの温泉まんじゅう騒動があり、半年近く過ぎた。
私と、トトは、その……ようやく、長い年月を経て思いを通じ合わせた訳だ。
そうなると、私の、毎日はガラリと音を立てて変化した。彼女中心で世界が回る。そして、彼女の囲む世界も一緒に回る。
私は、トトの笑顔を、そしてその笑顔を守るためにトトの住むこの街、国を守るのだと決めた。
となると、まぁ毎日目まぐるしく忙しい。工房に帰れず何日も騎士団執務室で寝泊まりしたり、遠征先の野営地で何日も過ごすなんてこともザラにある。
猫の刻印のお守りを撫でていたら、ザックに「早く帰りたいって顔に書いてるぞ」と冷やかされたが、私も言い返してやった。「おまえも愛しのイリさんに会いたいんじゃないのか?」とニヤリと笑ってやったらザックが珍しく耳を赤くして、眉を細めた。頭をボリボリかいている。私は鼻で笑った。
「よし、お互いのために早く帰ろう」
「そうしましょう、団長」
私達は頷きあい、目の前にある書類の要塞からまた一枚用紙を手に取った。この要塞を攻略し終わるのにあと、どのくらいかかるだろうか……
私はトトの温もりを思い出し、早く帰ってトトを抱きしめたくなった。
あれから二日徹夜し、書類の要塞攻略を成功させた。終わらせると、ザックが、
「団長! 俺がクーデル様までお届けするので先に帰ってもらってけっこうです」
「そうか……なら、よろしく頼む。クーデル様と仲良くな」
「そっちこそ。トトに、甘えすぎんなよな」
私達は目の下に真っ黒な隈を作り、お互いの肩をパンパンと叩きあって、やっと大好きな人の下へ帰れる喜びを讃えあっていた。
まぁ、ザックの場合はクーデル様は王宮にいるので、彼女の執務室に向かう訳だが、それでも、どうせ2人きりになったら、「イリさん♪」って抱きしめてるんだろう。何度か見てるけど、見逃してやってるんだ、ありがたくおもえ。
クーデル様の前だと、お得意の気配消失も気配探知をまったく使い物にならなくなるのを、私は知っている。
ーーまぁ、工房での、私も同じか……早く帰ろう
私は身支度を整えたらすぐに王宮を出た。夏とはいえ、夜は少し肌寒い。城下町まで明かりが灯り、暗い夜道を照らし出している。トトのいる工房まで案内してくれているようだった。
少し小走りになる。本当は全速力で走りたいが、それはさすがに恥ずかしいので走ったりなどしない。
帰り道にすれ違う街の人から
「あぁ、団長さん。おかえり」
と、声をかけられた。
「……どうも」
私は会釈だけして通り過ぎようとしたが、
「団長さん。今日、トトちゃんのところに男の人が来ていたよ」
「はっ?! 何故ですか?!」
「……さぁ〜わからないなぁ〜」
その住人の言葉に、私は焦って走り出した。住人が背後でクックッと笑っている声が聞こえたがお構いなしで工房まで走ってきた。坂道を下ったところに工房の看板を見つけドアを開けた。
「トトちゃん! ただいま!」
私は、叫ぶように言い、鉄を打っている愛しい彼女にぶつけた。トトはふっと私を見たが、視線はすぐに鉄に戻す。久しぶりに会うのに、相変わらずいつも通りだ。抱きついてきてくれたりしたら、ものすごく嬉しいが。けれど、こんなトトは、素直じゃないだけなんだ。その証拠に、少し前に帰ると連絡を、入れておいたからか、テーブルの上には私の好きな唐揚げがたくさん作って置いてある。肉の香ばしい匂いが工房内を満たしている。
「トト……ただいま」
私は、鉄を打ち続けるトトの背後を抱きしめてお腹に手を回し彼女の首筋に顎を置いた。
トトの耳が少し赤くなった。トトの温度を確かめるように、トトの首筋に顔を埋めて、軽く音を立て唇を押し当てた。
「ジル!」
「……トト、ただいまってば」
「……おかえり」
「トト、男の人来てたって、本当か?」
腕に力を込め、トトの顔を覗き込んだ。トトは首をかしげている。
「はい? ……ああそれ、ただの郵便配達の人だよ」
「な、なんだそうか」
住人にからかわれただけのようだ。私は安心した。トトだけは絶対に誰にもやらない。誰にも渡さない。
「トト、会いたかった」
そう言って次はトトの頬にキスをした。トトはもうされるがままだ。前は抵抗していたが、最近は素直にキスをさせてくれる。鉄を打つのを止めてトトが私を少し赤くなった頬のまま見上げた。
「帰ってくるの……遅いぞ」
「ごめん」
トトはスッと私の腰に腕を伸ばしきて、私の胸元に顔を埋めた。騎士団の制服にシワができる。トトの重さを感じながら幸せな気持ちを噛み締め、彼女の頭を撫でた。トトの小さな穏やかなため息が聞こえた。
「トトは可愛いな……」
堪らず、トトの唇を探して口づけをした。二日ぶりだ。騎士団長なんて、息がつまる仕事をしているのだ、充電はすでに、切れている。
「……ん、……じる……」
「……あと、少しだけ」
私は顔の位置を変え、トトの甘いマーマレードの味を堪能していた。私はこれがないと、息ができなくなる。しばらく堪能したあと、唇を離してやると、トトは琥珀の瞳で、睨んできたが、
「もう1回するか?」
と、ニコニコして聞いてやると黙って仏頂面をした。私は最後にトトの額にキスをしてから彼女から少し離れ、固めていた前髪をぐしゃぐしゃに崩した。トトは額をポリポリかいていた。
「トト、お腹がすいたよ」
「……唐揚げ作ったから一人で食べろ!」
トトはハの字の眉をして真っ赤な顔だ。それでも、お皿やお箸、お茶を入れ、準備をしてくれた。
「トトは食べないのか?」
私は騎士団の制服のボタンをとり、脱ぎ始めた。トトは黙っている。
「ジルが帰ってくる前にお隣さんがお菓子いっぱい持ってきて、美味しかったから食べ過ぎたの」
トトは目をそらして言う。トトがそんなに美味しいって言うなんて、どこのお菓子だろう。あとで、聞いておこう。
「しかし、少し食べておかないと、後で腹が減るぞ。」
「ジル汁だけ飲む……」
トトは私の器には、山盛りのジル汁を、自身のものには少しだけついでいた。そんなにたくさん、お菓子を食べたのだろうか。
「腹、そんなにいっぱいなのか?」
私は騎士団の上着を肩にかけたまま、トトのお腹を触る。トトは頷いた。
「お隣さんの持ってきてくれるお菓子は美味しすぎて困るんだ」
と、笑った。胃がもたれる! と言い、席についた。
「ジル、早く着替えておいで」
「トト……手伝ってくれない?」
「アホか? おまえ」
本気で怒られた。
さぁ、晩ごはんだ! 世界一うまい、トトの唐揚げ!
お読み頂きありがとうございました!
次回で、このお話は終了となります。
最後まで、お付き合いよろしくお願いします!




