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番外編⑤(完結!) 指輪の猫がにゃあと鳴く

お越し頂きありがとうございます




 挿絵(By みてみん)





 唐揚げを腹いっぱい食べ、私の腹は満足した。トトに唐揚げをすすめてみたが、拒否された。




「トト……おまえ、どこか悪いんじゃないのか?」




 トトの顔を覗き込むと、少し顔がいつもより青白い気がする。本当にもしかしたら大きな病気ではないだろうか。




「……トト?」




「大丈夫」




 トトの大丈夫は昔から大丈夫じゃないことの方が多い。出会った頃からそうだった。彼女は恋人になった今でさえ、ほとんど弱みを見せる人ではない。私はそのトトの強さに甘えきっているというのに、もっと私にも頼ってほしいと思っていた。自分で抱え込み、自分で解決してきた。




「トト、私はトトを愛してるよ」




「な、急に!」




 トトは片付け始めていたお皿をコロンと落とす。私はトトの手を握った。彼女の泳いだ瞳を逃さないようにしっかりと捕らえた。




「私はいつもトトに甘えっぱなしの情けない男だ。でも、トトのことを、誰よりも大切に思ってるし、トトのことを支えたいと思っているよ」




 トトは私の真剣な目に、視線をパッと離した。そして、私が握った手を払った。




「……大丈夫だから。ほっといてほしい、皿洗い、よろしく。」




 トトは食器をガシャンとテーブルに置き、そのまま二階の自室に駆け上がっていった。




「トト!」




 私は彼女の後ろ姿に声をかけたが、トトはおりてこない。トトの心に入りすぎただろうか。恋人になれた嬉しさに私がつっこみすぎたのだろうか。




 テーブルを片付け、一人寂しくキッチンのシンクに皿を運ぶ。カチンとなる金属音が工房に響く。先ほどまで、トトの体温を感じて幸せだったのに。やはり私ばかり与えてもらっている気がする。彼女の心の荷物を半分でも与えてくれたら、私の心はもっと軽くなるのに、それをトトは自分が重荷と感じるのだろうか。




「はぁー……もっと話し合わないとな」




 ザックにも言われた。私達二人は、話が足りない、とにかくどちらも抱え込んでずっと悩み続けるめんどくさいやつらだ、だから、思ってることは口に出せと。




「調子悪そうだし、これが終わったら部屋に行こう」




 恋人になる前は私は一階の工房の奥のスペースで寝ていたが、温泉まんじゅう騒動の後気持ちを確かめ合ってから、そのままトトの二階の部屋で一緒にベッドに入るようになった。まぁ、狭い! とトトに言われるが、その二人で密着してるのが良いんだ。私はこうしてから、よく眠れるようになったのだ。




 しかし、何より今はトトの身体が心配だ。




 私は皿洗いの任務のスピードを上げた。







 皿洗いの任務を終え、二人の部屋に行く。部屋のドアを開けると、部屋の中は真っ暗で、トトはベッドの中で丸くなって寝ている。布団は頭の上までかぶっていて、彼女の可愛い顔が見えない。私はそっと、ベッドに座り、布団をやさしくめくった。




「トト……? 寝た?」




「……じる」




「トト、やっぱり起きてたか。」




 私は小さく笑い、布団の中にもぐりこんで、トトを抱きしめた。彼女の頭を撫でて、自分に引き寄せる。トトは泣いていたのか、目が赤い。泣かせてしまったのかと、心臓が苦しくなる。赤い目にキスを落とした。




「……じる、ごめん」 




「いや、私のこそ、すまない。トトのこと、攻めてるつもりはなくて……」




「ジル……ワタシは、めんどくさいよ。」




「まぁ、私自身もめんどくさいからな。」




「それは言えてる」




 そう言ってトトは笑った。良かった。




「トト、大好きだよ」




「また言ってる……もう、負けた。ワタシ、ダメだな、すぐ黙っちゃうから。不安だったんだ。」




 トトは布団を持つ手を強く握り大きく息をした。琥珀の瞳を閉じている。そして、何やら大きく頷いて、自身に何かを言い聞かせているようだ。




「……トト?」




「ジル、大事な話だからしっかり聞いて」




 トトの低い芯の通った声に私は身体を強張る。トトを抱く腕に力が入る。




「な、何だ?」




「はぁー……あのね……」




「お、おう」




「あのね!」




「あぁ……」




「あの! ……いや、そのね!」




「うん!」




「……だから、その! あの!」




「だからなんだ!」




「……じるの、じるの……」




「私の?」




「じるの……じるの……」




「私が何だ?」




「じ、じるの、ばか!」




「なんだそれは!」




「ち、違う!」




「……トト!」




 トトは頭をガシガシ擦り、頬から首筋まで真っ赤にして、私の胸元で暴れている。




「あーもう! じるの赤ん坊がいるんだよハゲ!!」




「はぁ!!?」




 私は驚きすぎてベッドから落ちた。心臓と肺の機能が反対にねじ曲がりそうな衝撃だった。息か速くなっているのか、心臓が走りすぎているのか分からなくなる。




「お、え、はい?? え、あ、うぃえ?」




「しっかりしろよ、騎士団長……」




 トトはベッドに座った。今の情けない姿は絶対部下たちには見せられない。




「わ、私の、こども?」




「そうだよ! 文句ある!?」




「いや、ない。」




「ジルフォード・アイゼン! おまえはパパ団長になるの! どうする!?」




「パパ……」




 トトを見ると、顔は真っ赤だが、琥珀の強い瞳の奥には不安と戸惑いと少しの期待が混ざっていて、再び目が潤み始めていた。こんな大きなことを、ずっと一人で抱え込んでいたのかと思うと、唐揚げに浮かれた自分が恥ずかしくなってきた。





「トト、ちょっと、待ってて。すぐ戻る!」




「え? ジル!」




 私は急いで一階にいき、昔私の生活スペースだった場所に行き、秘密の棚の奥にある隠し箱を出してきた。ここには、トトには秘密の物が隠してある。箱の中には秘密で吸っている煙草とライター、そして小さな箱の包み。煙草は赤ん坊には悪影響しかない。迷いなく私はごみ箱に捨て、小さな箱の包みを握りしめて、トトのいる二階に駆け上がった。




「何? 便秘だったの? トイレ詰まらせないでよ」




 トトがジロリと睨んでくる。ベッドの上で胡座を組んで、黒いオーラを出している。




「私は毎日快便だ!」




 トトの隣に座って、急いでトトの肩を抱き寄せた。トトの機嫌を直してもらうため、キスをしたり、頭を撫でたり、好きだよと繰り返し、ようやくトトの黒いオーラが落ちついた。私は気合を入れた。




 ポケットから小さな包みを取り出し、トトに渡した。トトは私の肩に預けていた頭を上げて、にんまりと笑った。




「トト、あの、」




「これはあれですか? あれ?」




 トトは包みを両手に持ち、ニコニコ笑っている。さっきまでの赤い瞳は何だったんだ。




「……だから、トト……あのな、私と」




「ねっ! 開けていい? 開けていい?」




 トトは私の一生に一度の言葉を無視して包みの封を切ろうとしている。




「ま、待て! トト……私と……」




「いいからいいから!」




 トトはビリっと音を立てた。




「ちょ! ……頼むから聞いてよ! トトちゃん!」




 私は半泣きだ。頼むから聞いてくれ!




「あ、あぁ、ごめんごめん。先走ったね。」




 トトは少し開けた包みから手を離した。トトは私に悪いと思ったのか、ベッドの上で正座した。




「ゴホンッ……じゃあ言うぞ。」




「はい、どうぞ!」




 ……どうぞ! って言われてするプロポーズもどうかと思うのだが、赤ん坊ができてしまったのだからそうは言ってられない。




「トトちゃん、私と結婚しよう。トトも赤ん坊も皆、私が幸せにする」




 私の言葉にトトはクシャッと顔を崩し、頬を染めて陽だまりのように笑顔を咲かせた。私の胸は色んな言葉にならないものが溢れて温かさで満ちる。




「トト、その、返事は?」




 トトの笑顔に待てず、私は催促してしまった。トトは、口を尖らせて、ブフフと笑う。ニヤニヤ笑って私を見ている。




「幸せにするんじゃなくて、皆で幸せになるために、一緒に工夫しながら生きていこうね」




 トトが自分の腹をポンと軽快よく叩いた。




「ふ、フフ、ハハハハ! そうだな! その通りだ!」




「今度こそ開けていい?」




 私は頷き、トトは封を開けた。小さな箱の包みの中からは琥珀色の小さなケースが出てくる。




「ほほ〜う……」




 なんだその、ほほ〜うとは……恥ずかしくて死にそうだ。そもそもまだ、プロポーズの予定ではなかった。もうすぐ、トトの誕生日だからその日にロマンチックにプロポーズする予定だったのだ。


 まさか、『どうぞ!』と言われてからプロポーズするとは思わなかった。




 トトは優しく、小さなケースを開けるとそこにはシンプルな黄金色のリングが収められていた。




「綺麗だね。シンプルだし、これなら仕事のときもつけていられそう」




「本当は最高級の宝石をつけてやるつもりだったが……そうしたら、仕事のときは指輪をはめれないだろう。私はどんなときでも、指輪を外したくなかったから……だから、黄金の琥珀色の指輪にした。トト、猫の刻印入れてくれよ」




「いいねぇ、任せといて。」




 トトは走って一階の工房に降りていく。私は慌てて追いかける。




「トト! 身体! 気をつけて!」




 急いで一階に行くと、トトは作業場で早速、指輪に猫の刻印を入れている。本当に手先が器用だ。小さな指輪にトトの猫が入る。私と、トトの指輪に。




「よし、出来た。はい、ジル、お手!」


「私は犬ではない」


 と、言いつつ、トトの手に自分の手を置いた。


 トトは私の左手の薬指に、猫の刻印入りの琥珀の指輪をそっとはめた。剣を握り、鉄を打つ私の煤汚れと握りダコがある硬い手にキラリと光が放たれる。私も、トトの左手薬指に指輪をはめてやる。トトはその指を私に掲げてきた。




「どう? 似合うでしょ!? 」 




 彼女の薬指で琥珀の猫が誇らしげにニャアと鳴いている。私は噴き出し、そのままトトを抱きしめた。トトは私を抱きしめ返してくれた。トトの心臓の音が聞こえる。さすがに赤ん坊の心音は聞こえないか。




「トトが妻になるのか……あと、ママか」




「ジルは夫でパパだね。頑張れ、パパ団長」




「私の子どもも、唐揚げ好きになるだろうか」




「早くない? その心配!」




 ケラケラと、トトが笑ってくれた。この笑い声をずっと聞きながら生きていきたい。




 「ねぇ、ジル」




「何だ私の奥さん」




「ぶふふ、大好きだよ」




 トトから好きだと言われたのは、温泉まんじゅう騒動以来だ。




「私もだ。ありがとう。」




 夜は更けてゆく。工房の炉も消してしまい、今はランプの灯りだけが工房をオレンジ色にユラユラと染めている。トトを抱きしめた首筋の横から見えた窓の星が煌めいて澄んでいた。トクトクと規則的になる心臓の内側で新しい命が芽生え、私を大きく包む彼女の温もりの中でいつまでも浸っていたい。そして、トトとこの子と、三人で碧く澄んだ空に琥珀の太陽の下で未来を歩んでいこう。


挿絵(By みてみん)



 トトの指輪の猫に私はキスを落とした。








ここまで、お読み頂きありがとうございました!

これにて、猫の瞳に恋してない。完結となります!

ここまで、お付き合いありがとうございました。

次回より、副団長ザック、最年少宰相のイリ。戦争孤児でザックの養子、レオンの『パパ、猫の瞳に恋してます。』執筆開始予定です。

こちらもお楽しみ頂けたらと思います!

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