番外編③ トトちゃん護衛という名の旅行
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私は迷子防止のためにトトの手を引きながら、職人街を見て回った。美しい工芸品や、繊細な絹細工、装飾の凝った家具、さまざまなものを見て回った。
トトは職人らしく、気になるものは手に取り色んな角度から観察したり、直接、職人に尋ねて知識を深めていた。武器屋に行った時などは、トトの人気は凄まじかった。私がトトの剣を携えていたところから話が始まり、トト・シュタイクの武具はなかなか手に入らないことで有名だ! やぜひ、剣を見せてほしい! と、私がトトの剣を抜いてやると、武器屋にいた鍛冶工達は目をキラキラさせていた。私がトトをニヤリと見ると、恥ずかしそうに下を向いている。
「良かったなぁ、トト」
「「「え?」」」
「ジル!」
正体をバラされたトトは、鍛冶工たちは尊敬の眼差しでトトに詰め寄っている。トトは仕方なく色々投げかけられる質問に丁寧に答えていた。
若い鍛冶工の一人が私を見上げてきた。
「トト・シュタイクは気に入った人にしか武具は作らないって聞いたんですが、貴方はトトさんの旦那様なのですか?」
突然の質問に私は後退りした。みるみる首筋まで赤くなる。
「は? ち、違う!」
「そうですか。では、トト・シュタイクが騎士団長の武具を打っていることは、有名ですが……もしかして……」
やばい、バレた! 私は琥珀の羽を震わせて、鍛冶工に囲まれているトトの手を取り、肩と膝に手を滑り込ませて抱き上げた。
「では、失礼する!」
そう言って、トトと店を飛び出した。しばらくそのまま前進した。
すると、前を歩いていた老婦人が私達を見て、頬を染め、おずおずと道を譲ってくれた。私は頭を下げ会釈した。
「仲良しなのねぇ、羨ましいわ。新婚さんね。」
ニコニコしている。フッと我に返ると、私はトトを抱き上げて職人街の大通りを走っていたのだ。
心臓が死んだ。
トトの頬は林檎のように真っ赤になり、私の胸元に顔を隠している。琥珀のベストを握りしめていた。
「あっ……、く……くそ……」
慌てていたとはいえ、大失態だ。
私はもう、とにかくそのまま職人街の裏道まで逃げ出した。
裏道の人通りが少ない道に出た。私はそこのベンチにトトをそっと下ろした。
トトはベンチの上で項を垂れている。背中の迷子防止ステッカーが剥がれかけていた。私はトトの隣に座った。
「……ごめん。トト。騎士団長ってバレそうになって……」
頭をボリボリ搔く。本当にいつもの私では考えられない失態だ。
「ジル……バカ!」
トトに怒鳴られ、彼女は先を歩き出した。急いで彼女の後を追いかける。
「トト! 手は?」
恥は捨てる。旅の始まりで決めた。今はトトと手を繋ぎたい。
「繋ぐよアホ団長!」
そう言って乱暴に手を繋いでくれた。それが何とも恥ずかしいが幸せな気分になった。だから、トトの傍から離れられないんだ。
私達は結局そのまま宿まで帰り、部屋で休むことにした。
宿は私とトトで部屋を二部屋借りていた。トトは繫いだ手を離し、「また明日ね。」と部屋に入って行った。
繋がれていた左手を見つめ今、部屋に一人。
私の被っていたダサい帽子の琥珀の羽はシュンと沈んでいる。
ベッドに寝転がり、ため息をついた。
楽しかった。
トトと色んな店を回り、美味いものを食べ、おかしなやり取りで腹を抱えて笑っていた。ぎこちなかった手つなぎも、最後は自然と繋いでいた。
このまま一緒にいたら、私はトトをどんどん愛してしまうだろう。きっと、心の蓋を抑えれなく日が来る。ザックに言われなくても、理解している。
彼女を誰にも取られたくないし、二度と失うようなことはしたくない。
ただの男にしてくれるトトの傍にいたい。
けど、今はまだ、私の覚悟が足りない。エレノア様への贖罪がすむまでは……それがいつになるのか……
私はグルグル同じ場所で足踏みをしているのだ。
ーーコンコン
戸を叩く音がした。
「トト?」
ドアを開けると私の頭をいっぱいにさせていた本人が現れた。
「ジル! これ、お土産!」
そう言って袋を私の手に持たせる。袋からカチッと金属音がする。
「開けていいか?」
「いいよ! 開けて!」
トトが笑う。袋から箱を取り出し封を開けると、そこには猫柄の色違いのコップが出てきた。
「かわいいでしょ。ジルはこっちの青ね。ワタシはこっちの黄色!」
フワリと青の猫のコップを私の手に置いた。いつの間に買っていたんだ。コップを見つめると、コップに描かかれている無愛想な猫と目が合った。
「トトに似てるな」
「こんな目つき悪くないよ」
「……トト、部屋で、コーヒーでも飲んでいくか?」
突然のプレゼントに私はトトと離れたくなくなってしまい、部屋に誘った。彼女の手首をすでに握っている。トトの顔を覗き込むと、トトは私を見上げてきた。すぐそばにトトの顔がある。トトの琥珀の瞳から目が離せなくなる。彼女の瞳がとろんと揺れた。トトの髪を撫でる。撫でた手をトトの熱くなった頬に添える。彼女の唇を見つめる。
「トト……私は……」
「まだいい。ジルの中でちゃんと整理できたら、教えて」
そう言ってトトは、背伸びをして私の頬に自分の唇を軽く押し当てた。
「おやすみ」
そう言って隣の部屋に碧のワンピースを翻して消えていった。私は青のコップを持ったままその場から動くことができず、いつまでも、トトの部屋のドアを見つめていた。
その晩、私は一睡もすることができず、枕を抱きしめてトトのことばかり考えていて、翌日の帰りの馬車で目が赤いぞと散々トトにいじられたのだ。
ここまで、お読み頂きありがとうございました。
トトとの旅行編はここで終了です。
次回はもう1本番外編をあげます。そちらもよろしくお願いします。




