番外編② トトちゃんと護衛という名の旅行
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トトは凝り固まった肩をグルグル回し、馬車から軽々ジャンプした。先に降りた私が手を貸そうとしていたのに、全く、この差し出した手を私はどうしたらいいのだ。軽く咳払いをして場を誤魔化す。
「ついたねー! 来てみたかったんだよね!」
隣町の職人街。
国のあちらこちらから、服飾職人。装飾職人、家具職人、そして、トトと同じ鍛冶職人。プロの職人たちが集まったこの街は、トトにとって、子どもの好きな 遊園地と同じといったところだろうか。
「私もここには初めて来たな。トト、どうしたい?」
私は琥珀の瞳をキラキラさせている彼女に目を細めた。トトは碧のワンピースを翻して私を見上げた。彼女の瞳に私が映る。瞳の中の私の耳が赤い。正直な自分の耳が憎い。
「ジル……迷子にならないでよ」
私は噴き出した。一国の騎士団長に迷子になるな、と子ども扱いだ。そんなことを言うのはきっと、目の前にいるトトだけだ。
「それはトトだろ。夢中になりすぎて離れるなよ」
私はトトの頭を撫でた。トトは私の手を払って、仏頂面をする。気に食わないときにするこの表情が昔から私はお気に入りだった。もっとからかいたくなる。
「しょうがないなぁ、はい」
トトは私の前に右手を差し出す。これは……
「トト……トトちゃん! 別に、手、手は繋がなくても……! その、どうしてもと言うならその……!」
私は真っ赤になりながらそっと左手を差し出すと、トトが私の左胸に、ボン! と大きなシールを貼った。
「え?」
左胸を見ると子どものイラストが描いてある迷子防止のシールに「保護者氏名:トト・シュタイク」と書かれている。
「ギャハハハ!」
トトが指をさしてゲラゲラ笑い転げている。せっかくの可愛い碧のワンピースを着て、私を翻弄させてきたくせに。
「……騎士団長の私に迷子防止ステッカーとは……」
トトは抱腹絶倒だ。泣いている。
「トト! この、かわいくないぞ!」
怒る私に、トトはヒィヒィ言っている。迷子防止のステッカーはトトの背中にボン! と張り替えしてやり、保護者氏名のトトの名を線で消して、ジルフォード・アイゼン!! と書き直してやった。
「ちょ……背中とれないじゃん!」
「ハハハ! これでいい。」
私は満足だ。いや、こんなことをしていていいのだろうか。この街にも騎士団長である私を知っているものはたくさんいる。
「ずる……騎士団長のくせに。」
「お前に言われたくない!」
「んーもう! じゃあ、ジルはこれね!」
トトはそう言って、出店にあったウエスタンハットに琥珀色の羽のついたダッサイ帽子を買ってきた。
「な、それを私にかぶれって!?」
「休みの日まで騎士団長やりたくないでしょ! さすがにこれかぶってたらバレないよ」
確かにこのダサいウエスタンハットをまさか騎士団長がかぶっているとは思わないだろう。
しかし……これは……ダサすぎる!
トトか期待に満ちた目で私を見ている。
この目に弱い私は大きなため息をついて、されるがまま帽子をかぶった。
「似合う似合う! フフフ……」
「かっこいいだろう……!」
旅とは、恥を捨てることだ。そうすることで、一番の思い出になる。私も覚悟を決めた。帽子をかぶってトトにニヤリと笑った。
「いいねぇ、ジル! 最高!」
トトはニッコリ柔らかく微笑んだ。そして、私の左手を掴んだ。不意打ちに掴まれた手が熱くなる。トトのスカートがひらりと揺れ、同じように私の帽子の琥珀の羽も揺れる。
「ジルとね、行きたいところたくさんあるんだよ。ジルはほら、地図持って、ワタシ、方向音痴でしょ! ちゃんと案内しないとダメだよ」
「……っ、……やっぱり、迷子防止ステッカーはおまえにピッタリじゃないか……!」
私は帽子を鍔を下げて、すぐに素直に赤くなる顔を防御した。
「よく動く羽だねぇ、尻尾みたい! ワンワン!」
私の頭上で、私の感情に呼応するようにフリフリ動く羽を見てトトが呟く。
私はトトの右手の指の間に自身の指を絡ませて力強く握り返してやった。
「……! いたいいたい! ごめんごめん!」
「ふん! ほら、行くぞ!」
私はトトの手を引っ張り、右手に地図を取り出した。どうすれば、効率よくトトの行きたい場所をまわれるかシュミレーションを繰り返す。
左手が熱い。けど、離す気にはなれない。
トトは職人街の店の品々にキョロキョロとしている。
「トト、まずは、あの坂を登って上から順番に降りてこよう」
私が声をかけるが、返事がない。手を繋いでる恥ずかしさからか、私はトトの目を見れない。しかし、何と反応がないのは気になるので、そっと帽子の隙間からトトを見下ろした。
「トト?」
「ジル!」
「な、何だ?」
「楽しいねぇ!」
トトの琥珀の輝く瞳に、本当に嬉しそうに陽だまりのような花の笑顔に、私の心臓が大きく跳ねてドンドンと走り出していく。
可愛い……だめだな……
私の琥珀の羽がまた、ヒラヒラ大きく揺れていた。
ここまで、お読み頂きありがとうございました!
旅行編は次回で終了です。




