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第二十話 団長の頭にお土産最速最短でお届けします。

お読み頂きありがとうございます。

挿絵(By みてみん)



 目の前にじっとりした闇が広がる。




 この魔物の巣窟に私のトトはいるだろうか。


 信じたい気持ちと、どこかで諦めてしまいそうな気持ちとせめぎ合い、私はトトの剣で自分の迷いを立ち切るようにブンと振った。




 魔物の巣窟に足を踏み入る。




「トト…お願いだよ。おまえの顔が…見たい…」




トトの笑顔を力に、猫のお守りを抱きしめる。




ここでトトがいなかったら、もう…私の明日はもう、二度と来ないだろう。




 右足が、闇に落ちる。




 そのときだった。




 空気が微妙に変化した。




 不穏な影を察知する。




 突風が裂けるような音が、私に猛烈なスピードで近づいてきた。




 ―――バコーン!!




  私の後頭部に痛みが走る。鋭く尖ったような物で殴られた痛みだ。


挿絵(By みてみん)


 敵襲かと急いで振り返り、すぐに剣を向けると、地面に何か落ちている。




 「ん? 箱?」




  四角い箱に緑の包装紙が巻かれている。




 よく見てみると、




『温泉行ってきました!美味!温泉饅頭!』




  と書かれている。




 魔物の巣窟の前に饅頭の箱が飛び込んできた。




 数々の戦場で生き抜いてきたが、戦場に温泉饅頭が落ちているのは初めて見た。




 あまりの光景に私は、開いた口がふさがらない。




 ザックを見た。




 ザックも私と同じ顔をしていた。




 涙が止まっている。




  ガサッ




  足音がした。




 ザックの後ろに団員ではない、誰かが立っていた。


 何かを背中に大量に抱えているようだ。大きな風呂敷が見えた。




 私が焼いてきた黒煙のせいで、姿がよく見えない。




 焼ける森の焦げくさい匂いの中に、少しだけ煤の匂いが混じっている。




 ――まさか! 




  「あっ……あぁ…」




  心臓が一つ、甘い期待を鳴らした。




  「あ……ト…ト…」




  右手に見覚えのあるハンマーが見えた。




  私の死んだ心臓が走り出す。


  剣を持つ手の力が入らない。




 ―――まさかまさか……




 黒煙の中でもはっきり分かる強い琥珀色。




   「トト…」




 ―――これは、私が作った幻だろうか。




 「間に合った? ジル」 




 息を切らしている私の大好きな人がいた。




  足が震え出し、剣は手から落ちた。堪えていた涙がどんどん溢れ流れていった。うまく口が動かない。




 「トトちゃん!!」




 私は足をもつれさせ、彼女に駆け寄る。彼女の肩を抱き、顔を見る。




 「トトちゃん! トトちゃんか!?」




 ユラユラと視界が歪むが、彼女の琥珀の瞳だけは、はっきりと分かった。




 「トトちゃんだよー!」




 トトのニッコリと太陽のような笑顔が咲いた。


 私はその瞬間、彼女を自分の胸に力一杯引き寄せ抱きしめた。




 もう会えないかもしれないと思っていたから。




 力一杯抱きしめて、彼女の首筋に頭をグリグリ押し付けた。彼女の匂いを確かめた。




 煤と、石鹸と、陽だまりの匂い。




 甘い甘い温かい体温。




 柔らかくて、気持ちが良くて、離れられない。




  ずっと、探していたトトがいた。




 「トトちゃん……。トト……ちゃん!」




  私は夢中で彼女を抱きしめていた。涙が止まらない。こんなに泣いたのは、騎士団に入りたて、先輩たちにリンチされて、トトに怒られた時以来だ。




 「トトちゃん……会いたかった……。良かった、生きてた……良かっ…良かっ…た…!会いたかっ…会いたかった!トトちゃ…トトちゃん!」




  ワンワン泣く私を、トトが優しく頭を撫でてくれた。硬くてザラザラした小さな手だ。私の愛しい彼女の手だ。


挿絵(By みてみん)



 「もぉー慌てすぎだよ。ちゃんと手紙も送ったのに、確かめずに出てきたでしょ。少し帰るのが遅くなる、温泉に行ってくるねって書いたんだよ」




  トトは私の胸の中で頬を膨らませている。可愛いからそっと頬を撫でた。




 「おんせん?」




 「え、トト、温泉行ってたのか!?」




  私たちの後ろから見ていたザックが声を荒げ、地面に落ちている温泉饅頭の箱を見た。




 「ぶふっ!!」




  ザックは大声で笑い出した。




 途端に張りつめていた空気が緩み始めていく。




 ザックは瓦礫に座り込んで、私の頭に投げつけられた温泉饅頭の箱の包みを開けていく。




 箱の中から甘い匂いのする、あんこのたくさん入った温泉饅頭が出てきた。




 饅頭に『温泉最高!』と焼印がされている。 




 「あ、それお土産! 女将さんがね、この温泉饅頭が一番おいしいって言ってたんだよ。食いしん坊のジルの分と、団員の皆の分もあるから食べてね!!」




  トトが私の頭を撫でながらひょっこり顔を出した。私は絶対にトトを自分から離さなかった。




  団員たちにザックが手早く温泉饅頭を手渡していく。




 「団長は、トトに食べさせてもらって下さい」




  と、ニヤリと笑っている。




 すべての力が抜け、私はトトに甘えている。思わず顔が赤くなっていく。夢中で彼女を抱きしめて泣いていた。




 「温泉……饅頭……あんなに苦労した戦利品が温泉……饅頭」




  団員がボソッと呟いた。




  ザックが一口で温泉饅頭を頬張った。




 「甘いっ! 温泉最高!」




 甘くて苦い、涙の味が口の中いっぱいに広がっていく。




 団員たちも瓦礫に座り込んで、次々と頬張り、笑って泣いて、また饅頭を食べて、「団長! 良かったですねー!! 泣きすぎですよー!」と散々冷やかしてきた。




 お前たちも泣きながら笑っていただろうが。




  魔物の巣窟前は、さきほどとは違う温かくて柔らかな空気に包まれ、黒煙は風に流されていった。




 青い空が灰色の雲からチラリと覗き、私たちを照らしていた。




 トトは私の傍で温泉饅頭の包みを開け、トトの仕草を見つめていた私にそっと温泉饅頭を手渡す。




 「はい、ジル。お腹すいたでしょ?」




 その、トトのいつもの言葉に私は胸が熱くなり、彼女の腰に回していた腕にギュッと強く力を込めた。




 「……ああ、腹が減ったよ。トト」




  トトは琥珀の瞳を細めて笑った。




 私が口を開けると、温泉饅頭をホイッと入れてくれた。


 甘くて優しい味がした。




 それでも、トトの唐揚げの方がいいなと思ってしまう私は、もうトトなしでは生きていけないのだろうな。




 「トト」


 「ん?」




 「饅頭もいいけど、トトの唐揚げが食べたい」




 「ジル、ワタシの唐揚げ大好きだね」




 「……トトの方が大好きだよ」




  ぽつりと呟いたが、トトに聞こえただろうか。


 トトの手が震えた気がした。




 私はもう一度、トトの首筋に頭を寄せて彼女の体温を感じ、エレノア様を思い出した。




  あの人の望んだ、「街の人をお願いします」という平和を願う姿は、きっと、こんな日常の暖かさなのだろうと。




  ザックに、




 「いつまでラブラブしてんすか。帰ってから工房でして下さい」




  と冷やかされた。




 恥ずかしくて死にたくなったが、工房に帰るまでは死ねない。





 ――帰ろう。我が家に。










ここまでお読み頂きありがとうございます!ジルの大暴走もここまでです。よかったね!無事会えました




少しでもおもしろいと思われたら、ブクマやコメントよろしくお願いします



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