第十九話 もしものときは、私を殺してくれ
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「これ以上は危険です。街や森の形も変わってしまって、魔物以外への影響も出始めています!」
ザックが、トトの剣を振り回す私を力づくで止めようとしてきた。今この場で、私を抑え込めるのは、私の次に実力のある自分しかいないと思ったのだろう。
「どけ。……ザック……いくらおまえでも、手加減してやれないぞ」
トトを助けに行かなくてはいけない。
もし、怪我でもしていたら、今度こそ私は私を許せない。
私の腕を掴む彼の手を、振り払った。
「ジルフォード! トトは……!」
「だまれ!」
私は次の魔物の巣窟に向かうことにした。私の前には、琥珀の剣で焼き払われた、黒い景色が広がっている。ここの魔物の巣窟はすべて燃やしてやったからだ。
このあたり一帯、トトを探すが、彼女の可愛い姿を見つけることはできなかった。
愛馬に乗り、再び走り出す。ザックは何も言わずついてきた。言っても無駄だし、止められないと悟ったのだろう。
「トトー!! いないかー!!? 私だ! ジルだ!」
とにかく叫んだ。
彼女の名前を何度も。何度も。
しかし、返事はない。
ザックは叫ぶのをやめてしまった。
泣きそうになるたびに馬の手綱を握りしめている。
その顔を見ると、私の心に黒く泥々と汚水が溜まっていく。そのヘドロが心臓の回りをこれでもかと締め上げてくるのだ。
生きている……生きている……
トトは……トトは……トトちゃんは生きていて……
私を待っている。
……それで、二人で工房に帰ってまた一緒に山盛りのご飯を食べて……一緒に寝て……
トトと一緒にせまいベッドで寝てしまったことを思い出した。
トトは、あの工房のことを、『じるのいえ』と言ってくれた。
いくらでも思い出す。思いが溢れるように彼女のこと。
二人でトトの出張先であった職人街に遊びに来た時、初めての二人っきりでの、遠出の旅行になり緊張していた私に対して、トトは行き道の馬車では地獄の覇者のいびきをかき、私は拍子抜けして、トトな隣で笑ってしまった。トトはお土産だ! と色違いのコップを買っていた。それに、毎日コーヒーを入れてくれて……
鉄の音。
トトの温度。
丸まった背中。
私の頭を鳥の巣にする、硬くてザラザラした小さな手。
そして……
私を見上げる琥珀の瞳。
一つ一つ、あまりにも彼女の大きな優しさに私は甘えて、それがあったから生きてこられたのだと気付かされ、私の身体は震えていた。
涙が溢れてくる。
声にならない声が出る。
流したらだめだ。
流したら、もう、あそこに戻れない。
「トトー! トトー!」
私は前へ前へ、馬を走らせた。
◇
次の魔物の巣窟に着いた。
結局ここまで、人ひとり出会わなかった。
トトの姿も形もなかった。ちぎれて焼けた革のベルトは懐に大事に仕舞ってある。
馬から降り、再び鞘から愛する人の剣を取り出す。
「トト……会いたい」
無意識に呟いた。トトに会いたい。
どんな形でも。
もし、もし、彼女が最悪な姿で現れたら、その時私は、もう私を保てなくなるかもしれない。
「ザック……」
「はい……団長」
ザックは私の背後に控えている。目が赤い。
「もしものときは、私を、殺してくれ」
「え?」
「……自信がない。こんなこと、先輩にしか、頼めません」
かつて私の先輩だった男は、剣の鞘を硬く握り、これ以上ないぐらい真っ青で怖い顔をしていた。
「………わかったよ」
先輩が頷いてくれて、少し安心した。
私は、魔物の巣窟に向かって足を踏み出し、剣を構えた。
ーートト、待っていてくれ!!
ここまで、お読み頂きありがとうございました!
大暴走の果て、死ぬ覚悟まで決める重い男ジルフォード。
トトちゃん、今走ってきてますよー!
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