第5話
冒険者ギルドでの騒動が収まったあと、壮真は受付嬢――リリアに呼び止められた。
「壮真さん、初依頼を受けるならこちらへどうぞ」
リリアは慣れた手つきで依頼掲示板の前へ案内する。
掲示板には無数の紙が貼られており、魔物討伐、素材採取、護衛依頼など多種多様だ。
「新人の方には、まずこちらの依頼をおすすめしています」
リリアが指差したのは――
『草原狼討伐:1〜3体』
報酬は銀貨数枚。
初心者向けの、いわゆる“雑魚討伐”だ。
「草原狼は危険ですが、大きさも30センと単体なら落ち着いて対処すれば倒せます。帝国の冒険者はまずここからスタートするんですよ」
壮真は頷いた。(30センってどのくらいだ、もしかして30センチか?)
「あのー、30センってことはこのくらいですか?」
壮真は手で30センチを作り出しリリアに聞いてみた。
「はい、そうですそのぐらいですね」
「分かりました。これを受けます」
「はい、では登録しますね。討伐後のグラスウルフはそのままお持ちください。ギルドの解体所で解体します。……壮真さん、簡単なクエストとはいえ気をつけてくださいね」
リリアは少し心配そうに微笑んだ。
壮真はギルドカードを受け取り、草原へ向かうためギルドを後にした。
(よし……初依頼だ)
帝国の街を抜けると、広大な草原が広がっていた。
風が草を揺らし、遠くには小さな森が見える。
草原狼はその森の周辺に出没するらしい。
(……緊張してきたな)
壮真は腰の剣を確認しながら歩く。
その時、背後から声がした。
「おい、兄ちゃん。初依頼か?」
振り返ると、ギルドで絡んできた連中とは違う、優しげな中年冒険者が立っていた。
「顔に出てるぞ。初めての討伐ってやつがな」
「……そんなに分かりますか?」
「分かるさ。誰だって最初は震えるもんだ。だが、草原狼は落ち着いて対処すれば大丈夫だ。焦るなよ」
壮真は軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「気にすんな。新人が無事に帰ってくるのが一番だ。……じゃあな、頑張れよ。無事に帰ってきたら俺が1杯おごってやるよ!」
中年冒険者は手を振って去っていった。
(……いい人もいるんだな)
少しだけ緊張が和らいだ。
しばらく進むと草原狼の生息地に到着した。壮真は足元を観察し“草原狼の足跡”を見つける。
(……これか?)
足跡は草原の奥へ続いている。
(よし!がんばるか!!)
壮真は、その足跡を追うことにした。
足跡を追って草原を進むと、低い唸り声が聞こえた。
「グルルル……」
草むらから飛び出してきたのは――灰色の毛並みを持つ草原狼。
(来た……!)
小さいながらも狼は牙をむき、壮真に飛びかかってくる。
壮真は剣を構えたが――
(やばい、速い……!)
狼の動きは予想以上に素早い。
避けきれない――そう思った瞬間。
『その時不思議なことが起こった』
壮真の身体が勝手に動いた。
狼の爪を紙一重で避け、その勢いを利用して横へ回り込む。
(な、なんで動けるんだ……!?)
さらに身体が自然と剣を振り上げ――
「はっ!」
狼の首元へ正確に斬り込んだ。
草原狼は短い悲鳴を上げて倒れた。
壮真はしばらく呆然と立ち尽くした。
(……俺、今……避けた?いや、避けたどころか……完璧な反撃まで……?)
心臓が早鐘のように鳴る。
その時、草むらが揺れた。
「グルルル……!」
二体目の草原狼が現れた。
(くそっ……!)
だが、恐怖よりも先に――身体が勝手に動く。
狼の突進をしゃがんで回避し、足を払って転倒させ、そのまま剣を突き立てた。
二体目も倒れた。
壮真は荒い息を吐きながら空を見上げた。
(……これが……俺のスキル……?“その時不思議なことが起こった”って……こういうことなのか?)
危険な状況になるほど、身体が勝手に“最適な行動”を選ぶ。
まるで未来が見えているかのように。
壮真は震える手で剣を握りしめた。
(……強い。俺……強いのか?)
初依頼は無事に成功した。




