第2話
壮真はしばらく城門の前に立ち尽くしていた。
「……本当に追い出されたんだな、俺」
装備なし。
金なし。
仲間もいない。
あるのは、さっき偶然拾った“旅人用の剣”だけ。
(……いや、偶然っていうか……なんで落ちてきたんだ?
でもまあ、考えても仕方ないか)
とにかく、今は生きることが先だ。
壮真は城下町へ向かって歩き出した。
王城から少し離れた場所に広がる城下町。
石畳の道、露店、行き交う人々――
一見すると賑やかだが、どこか空気が暗い。
「税金、また上がったらしいぞ」
「もう払えねぇよ……」
「王国は勇者召喚なんてしてる場合じゃねぇだろ」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
(……税金?そんなにひどいのか?)
露店の前で、老婆がため息をついていた。
「帝国に移住した方がマシかもしれんねぇ……」
「おい婆さん、そんなこと言うと捕まるぞ」
「だって本当のことだよ。帝国は税も安いし、治安もいいって噂だよ」
(帝国……?)
耳を澄ませば、どこもかしこも不満だらけだ。
酒場の前を通りかかった時、酔った男たちの会話が耳に入った。
「聞いたか?王国、帝国に宣戦布告する準備してるらしいぞ」
「はぁ!? 魔王軍と戦ってる最中だろ!?」
「勇者召喚したのも、実は帝国と戦うためだって噂だ」
「マジかよ……俺たちを巻き込む気か……」
(……やっぱり、王国は何か隠してる)
胸の奥がざわつく。
(俺たちを召喚したのも……本当に魔王軍のためじゃないのかもしれない)
王国の大臣たちのひそひそ声が脳裏に蘇る。
『帝国との戦争にも使える』
『無能は切り捨てればよい』
「……クソッ」
拳を握りしめる。
(あいつら……俺たちを兵器としてしか見てなかったんだ)
城下町の外れにある掲示板には、旅人向けの地図が貼られていた。
「帝国……ここから北西か」
距離はあるが、行けない距離ではない。
(王国にいても、どうせ生きていけない。だったら……帝国に行った方がいい)
帝国は税が安く、治安も良く、冒険者制度も整っているという噂。
(冒険者……俺でもなれるのか?いや、やるしかないだろ)
壮真は深く息を吸い、地図を見つめながら呟いた。
「……よし。帝国へ行こう」
帝国へ向かう決意を固めた壮真は、城下町の外れにある街道へと足を向けた。
「……さて、どうやって行くかだよな」
金はない。
食料もない。
旅の準備なんて何ひとつできていない。
(歩いて行くしかないか……)
そう思った矢先だった。
「どけぇぇぇぇっ!!」
怒号とともに、街道の先から土煙が上がった。
巨大な馬が暴れ狂い、荷車を引きずったまま暴走している。
「ひっ……!」
「誰か止めろ!」
「無理だ!あんなの近づけねぇ!」
馬は完全に錯乱しており、目は血走り、口から泡を吹いている。
そして――その進路の先に、壮真がいた。
「……え?」
避ける暇もない。
馬は一直線に壮真へ突っ込んでくる。
(やばい……!死ぬ……!)
その瞬間――
『その時不思議なことが起こった』
壮真の身体が勝手に動いた。
いや、正確には――“動かされた” ような感覚だった。
気づけば壮真は馬の真正面に立ち、暴れ馬の首に腕を回し、体重を乗せて地面に押し倒していた。
「……は?」
周囲が静まり返る。
暴れ馬は地面に押さえつけられ、嘘のように大人しくなっていた。
「え、ちょ……なんで俺、こんなこと……?」
自分でも理解できない。
馬の動きが“読めた”ような、
身体が勝手に“最適解を選んだ”ような――
そんな奇妙な感覚だけが残っていた。
「お、おい兄ちゃん!大丈夫か!?」
荷車を引いていた行商隊の男が、息を切らしながら駆け寄ってきた。
「助かった……!あんた、すげぇな……!」
「い、いや……俺は別に……」
「いやいやいや!あんな暴れ馬を素手で止めるなんて、普通じゃねぇよ!」
商人は壮真の手をガシッと握った。
「兄ちゃん、名前は?」
「……高杉壮真です」
「壮真!いい名前だ!もしよかったら――うちの護衛として雇わせてくれないか?」
「……え?」
商人は続ける。
「帝国まで行く予定なんだが、道中は盗賊も魔物も多くてな。さっきのあんたの動きを見て確信した。腕は確かだ!」
(いや、確かじゃないんだけど……でも……帝国まで行けるなら……)
商人はさらに言う。
「もちろん、報酬も出す!食事も寝床も用意する!どうだ?」
壮真は迷わなかった。
「……お願いします。俺を雇ってください」
商人は満面の笑みを浮かべた。
「よし、決まりだ!今日からあんたは“うちの護衛”だ!」
こうして壮真は、自分でも気づかぬままスキルの恩恵を受け、帝国へ向かう足がかりを手に入れた。
(……なんか、うまくいきすぎてる気がするけど……まあ、いいか)




