第3話 屠殺
皇帝より全軍の指揮権を移譲されたアルブレヒトは、間髪入れずにウェルダン侵攻作戦の陣頭指揮に取り掛かった。
だが、砲声が轟き、真に戦闘が始まったその瞬間――アルブレヒトは致命的な過ちを犯す。
後にこの決断は、彼を「旧世界の戦争を支配した英雄」の座から引きずり下ろし、新世界に蔓延る「老害」という無残な烙印を捺す引き金となる。
「閣下! 騎兵による正面突撃など無謀でございます! 直ちに作戦の再立案を!」
高級将校用作戦室に、若き一般将校の悲痛な叫びが響いた。
「白鉛式弾の登場により、騎兵の時代は完全に終わったのです! このまま旧来の戦術に拘泥すれば、大戦は終わりなき泥沼と化し、我が帝国の臣民が無数にすり潰されることになります!」
「黙れ、実戦経験の無い若造に何が分かる!」
アルブレヒトは卓を叩き、老いた眼光で若者を射抜いた。
「陛下から全軍の指揮を託されたのは、この私だ! これ以上の不敬は反逆罪と見なし、即座に軍法会議に懸けるぞ!」
「ですが閣下……! 敵の火線を前にして、近距離の肉薄戦など二度と起きはしないのです! 絶対に!」
激しく火花を散らす二人を横目に、それまで沈黙を保っていた皇帝が、冷然と口を開いた。
「我が皇軍は、もはや六十年前の弱小国家ではない。列強の侵略に怯える日々は過去のものとなり、今や我々が世界を支配するのだ。―
鋼鉄の鎧を纏った我が重騎兵の突撃ならば、軟弱な王国の防衛線など容易く粉砕できよう」
皇帝は傲慢な笑みを浮かべ、毅然と言い放った。
「アルブレヒト、作戦を許可する。必ずあの肥沃な大地を我が皇国の物とし永遠の繁栄を齎す者共を駆逐せよ」
――かくして、死の突撃への進軍ラッパが吹き鳴らされた。




