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白鉛紀  作者: 猫吸い中毒者
第一章  地中深く沈む白い叫声
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第2話 軍靴の鳴らすその先で


帝国軍総司令、アルブレヒト。

彼は、六十年前に起きた「人類最後の戦争」を身を以て知る、数少ない男であった。

当時の敵もまた、かつて連邦統一の壁として立ちはだかった王国であった。

その戦場における主役は、なおも鉄の鎧を纏い、大地を揺らす騎兵たち。対する火器は未だ旧式で湿気に弱く、燃焼効率も最悪だった。射程も威力も乏しい銃火は、突撃してくる敵騎兵の隊列を辛うじて乱す、言わば「気休め」の道具に過ぎなかったのだ。

――だが、その戦場の常識すら、「白鉛」は容易く覆した。

白鉛を装薬として開発された新兵器、“白鉛式弾”。

それは湿気という火器最大の弱点を克服し、さらに射程と威力までも飛躍的に向上させた。

 わずか数十メートルに過ぎなかった弾丸の有効射程は、一息に数百メートルへと飛躍する。

今大戦の開戦当初こそ、旧時代の名残として騎兵は運用された。

だが、白鉛の火線を前に、彼らは瞬く間に蹂躙されていく。次第に戦場の華と謳われた猛者たちは、戦壕の間を無残に駆ける「馬肉の郵便屋」へと成り下がっていった。


白鉛は工業の在り方だけではない。

命を奪い合う「戦争」そのものの定義すら、誉れ高きから泥臭い殺し合いへと、修復不可能なまでに一新してしまったのだ。

――そして白鉛は、戦場へ至る道筋すら変えてしまった。


六十年前の旧時代、兵站――すなわち物資補給の大半は、人力に頼っていた。

なぜならば、馬という生物は極めて高価であり、物資の運送に割く余裕があるならば、一騎でも多く前線の「騎兵」として敵陣に突撃させた方が、遥かに価値があったからだ。


『高貴な我々は、相棒たる名馬と共に戦場を駆け、敵を踏み鳴らし、戦場を支配する。物資の運搬なんぞ、歩兵にでもやらせておけ』

若き日のアルブレヒトは、傲慢にもそう公言してはばからなかった。


だが、現代の戦場において騎兵が完全なる時代遅れの遺物と化した結果、皮肉な逆転劇が起きる。戦う術を失い、しかし「馬を御すこと」しかできない高貴な元貴族の騎兵たちは、今や歩兵の代わりに、かつてあれほど見下していた『輜重兵しちょうへい』の任務へと就かされていたのだ。

誇り高き相棒の背に括り付けられているのは、もはや英雄を乗せる鞍ではない。前線で文字通り命を使い潰すための、大量の“白鉛式弾”が詰まった重い木箱であった。

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